皇帝ユリアヌス~その2~
宮廷占い師であるセレナとの会議は数時間に及んだがこれと言った成果も得られぬままに夜明けが来てしまった。
現在、城下町を徘徊している兵士たちには噂の白騎士には絶対に関わらない事を厳命しているが1日経って、民衆から大量の苦情が出ている。貴族も昨日の時点で動き出しており、下手な接触はしない事を命令しているが貴族達はあの手この手で彼を陣地内に入れる事を画策するだろう。
「呼び出す・・・か?それしかないだろうか。」
元Aランクのギルドマスターの手紙を再度、確認して畳む。『Aランクは化け物』と言うのがこの国の常識だった。最低ランクの飛竜を単独で討伐せしめるのだ、飛竜を帝国内で飼っている事となんの替わりもない。パーティーともなれば大軍隊の1つや2つを亡ぼせると言っても過言ではないのだ。
そんな化け物が怖がる化け物と言うのが常識の範囲外であり、想像すら付かない。
現在、国の威信を保つのを目的として、白騎士を城内に呼び入れなければならない状況にある。
これはアデュート帝国がこの白騎士の存在を認めていると言う国内・国外へのアピールをしなければ危険分子として罰さなければならなくなる。
国が首輪を付けることが出来ない冒険者は危険すぎるのだ。
実力者は冒険者ギルドが管理しており、国外に対して実力者が居るとアピールをする事で戦争を仕掛け難い状況を作り上げる為に二つ名を用意する。
二つ名持ちは国から認められた冒険者である事の証明であった。勿論の事、その二つ名を与える代わりに戦争時に敵対しないと言う誓いをさせる。
他国から見れば、戦時下に特別に発注される戦争クエストについて二つ名を与えられた国からしか参戦出来ないが為に、潜在的な敵として認識されるのだ。
これが、実力者に二つ名を与える理由であり、アデュート帝国が大きな支配域を持つ理由。しかし、時には二つ名を受け取らない冒険者も居た。
アデュート帝国としては、このような場合、暗殺者を使い暗殺する。皇帝の前で敵対宣言を行ったのだから国家反逆の罪人として処罰されるのが通例だった。しかし、その暗殺が通用しないのがAランクであり、現在問題になっているのがAランク以上の化け物だ。
言葉が通じるのであれば、それこそ公式外で使者を送りつけて対応する事が出来るが、言葉が通じないとなると問題が出てくる。
白騎士は恐らく、大陸外の実力者である可能性が高い。逆説的に大陸外には、このアデュート帝国を越える程の兵力が有ると言う事になるし、その様な実力者がこの大陸内に居る時点で大陸外からの干渉が考えられる。
大陸の言葉が使えないなど、斥候としては間抜け極まるが単独で戦闘力のゴリ押しが可能である以上、大陸外からの戦争を仕掛けられる可能性すらあるのだ。
例えばアデュート帝国が彼に二つ名を与えたとすると、先立って白騎士に称号を与えて居た国から『アデュート帝国は我々の国を蔑ろにし、此方の管理下にある実力者を囲おうとした』と言われて戦争が起こる可能性があった。
しかし、二つ名を送らなければ、危険人物が帝国内を徘徊しているにも拘わらず、それを放置しているとして、国の面目が潰れる。この面目と言うのが重要で、白騎士を囲う事が出来なかった時点でアデュート帝国が彼の下に位置する事になる。なぜなら、国が罰する事が出来ない罪人と認めるようなものなのだから。
貴族等が其れを許す筈が無く、体裁を保てなくなると離反に繋がる。幾ら過去の英雄たちの子孫であろうとも貴族とはそうでなくてはならないのだ。皇帝を頂点として国の運営をして居るが、問題に対する正解は一つではないのだから。
「さて、会議の結果。私は使者を送る事にする。」
「城には呼ばないのですか?口伝では正確に事情が伝わらないと思いますけど。」
「言葉が解らない以上、無理やり連行は出来ないし、城に入城させると面会が公式の物として扱われる。もし、不都合があった場合立場が悪くなるだろう。白騎士か私かは場合に依るがな。」
「確かに。一方的に伝えるだけであるなら其れでも良いでしょうが・・・それでは縁を紡いだとは言えませんよ。力ある方には、顔だけでも見せておいた方が良いのでは?」
セレナが反論する。これは、彼女の仕事だ。誰でも問題に対して解決策を見つけると、その解決策だけが正解に思えてくるが、政治は数学式の様に正解は一つではないので別の方向から物事を見る必要がある。
彼女はその為の反論者であり、別視点から物事を俯瞰的に見る事でより良い解決策を見出す為に雇っている側面があるのだった。
「否。従者たちの口は軽い。特に実力者の情報については市井に出回るのが早い傾向にある以上、公式の面談の情報は洩れる。貴族や平民達に弱い帝国を見せる訳にはいかないのだ。」
「そうですか。まあ、彼が問題さえ起こさなければ、ある程度コントロールできるのは事実ですがね。」
「白騎士次第・・・か。このような賭けはするべきではないのだがな。」
本来であれば国が他人の善性を期待するなど、あってはならない。当然のことながら人の心は時に善性を持ち、時には悪性を持つ。
他人の気分に国が左右される事は国の私用化であり、皇帝にさえ許されていないのだから。
弱気になるのは生物として仕方のないこと。誰でも生きたいと願うのは当然であり、皇帝も人間なのだ。
目の前にドラゴンスレイヤーが居たら彼らの癇癪が起きない事を願うしかない。
本日、白騎士を見つけ次第、使者を送る。一方的に言葉を発するだけになるだろうが、白騎士が理解出来ずとも話す義務があるのだ。
「何も、起きなければ良いが・・・。」
皇帝は国の頂点、国の頭脳である。
特に、冒険者を優遇してきたアデュート帝国では暴力に対して敬意を払う傾向にあるが、それは帝国よりも個人が弱いからこそであった。帝国が保有する軍よりも弱いから余裕を持って対応する事が出来て来たのだ。
「ああ、胃が痛い」
既に慣れ親しんた胃への文句を垂れながら皇帝は通常の業務に戻るのだった。




