ギルドマスター
元ランクAの冒険者であり、現ギルドマスターのロバートは先程の出来事を重大に考えていた。
ギルドはアデュート帝国の傘下である。これは、アデュート帝国が冒険者ギルドに多大な資金援助を行っている事が理由ではなく、そもそもが冒険者と過去に言われていた人類種に特別強い『勇者』がアデュート帝国を創ったからだ。
帝国はギルドに政治について口出しをさせない為にギルドと帝国を分けた。ギルドに所属する強い人類種が政治に口出しする様になってしまうと民草に蔓延る『強い=偉い』が成り立ってしまう可能性があった為だ。
強くても知識人とは限らないし、強い冒険者の全てが民草を大切に思い、その人生全てを賭けて帝国をより良い方向へ導いてくれるとは限らないのだ。
しかしそれでも、アデュート帝国のギルドマスターは貴族や王族に対して発言する事が出来る。これは政治に参加すると言う事では無く、意見を言う事が出来ると言う意味であるが民草が唯一、自分よりも身分の高い人間に公式な物として言葉を発することが出来るのだ。これはアデュート帝国が如何に冒険者を優遇しているのかを示す代表的な物だろう。
人類種には稀な事として、かつての様に『勇者』が生まれる。帝国民は成人した13歳の時に才能ある民を帝国の傘下として騎士に召し上げる。『勇者』の存在はそのまま国力に繋がるのだから当然の事ではあるが、民は自由を奪われると思う場合が多い為に逃げる民も居た。騎士とは言え自由に戦う事が出来ない雇われであるので冒険者になりたいと言う人類種が多いのだった。
だからこその冒険者ギルドである。モンスター素材の販売はギルドを通してでしか売買出来ない為に実力者を炙り出し、ランクを与えて相応の待遇を用意する事で帝国の傘下としての役割を担わせていた。騎士になっても仕事はモンスターの討伐が主になるのだから国として給金を支払わなくても良い冒険者はある意味都合が良かったのだ。
「この事を皇帝にお知らせしなければ、伝手!手紙を渡すぞ。直接皇帝にお渡ししろ!」
先んじて指示を出して置き、装飾語を使用せずに手紙を書き始める。ギルドに常駐させている緊急時にしか使うことが出来ない伝手を使用するのはギルド長になってから初めての事だった。
ギルドマスターの判断にて使用される伝手は直接、貴族若しくは皇帝に渡されるものであった。
手紙はギルド看板の絵が彫られた判で蝋綴じした。
あの白騎士がギルドを出てから5分。伝手に手紙を渡して走らせる。1階ではギルド員たちが先程の白騎士の話をしていた。ドラゴンスレイヤーの称号を持った俺でさえ気押されて動く事すらできなかったのだから新人達に気絶した者が居たのは責める事は出来ないだろう。
「しっかしアイツは、何者だったんだ?」
その存在感だけでその場全ての人間に抵抗の意志を消し去った。それがどれ程難しい事か、ネズミでさえドラゴンを見た時には逃げ去る。動く事さえやめて相手を刺激しないようにするなど、その差は比べるべくも無いのだろう。生物は生きるために最善の行動を取るのだから。
白騎士の事を考えていると、先程の感覚が戻って来た。1階では各冒険者達で多少の慣れはあれども先程と同じような惨状が広がる。
俺は階段の上から1階を確認する。ギルドを出てから10分も経たずに白騎士は戻って来ていた。
依頼は大猪の討伐だったのだろう。依頼表を確認せずに理解できたのは彼の左手は大猪の首の無い身体が引きずられていたから。知能は人類種の4,5歳程度とは言え、白騎士よりも4倍以上は大きく、その巨体からBランクのパーティーで討伐依頼を出していた筈である。
「ひぃっ!・・・ひぃっ」
か細い受付嬢の呼吸音が嫌に響く。俺は仕方なく呼吸が上手く出来ていない受付嬢のロアに代わって白騎士の前に立った。本音で言えば2階で1人、怯えて居たかったがギルドマスターの責務と言うものが有るのだ。
「・・・おいロア、変われ。白騎士、素材はこっちだ」
言葉が通じない事は先のやり取りから知っていたのでジェスチャーで白騎士を呼ぶ。
「!・・・っふ、っふ、っふ」
深い海に潜った時の様に全身に圧力がかかり脂汗が流れる。白騎士の視線を向けられただけでコレだ。ドラゴンスレイヤーの称号は持っているが、ドラゴンに対峙して動けなくなるのは【咆哮】のスキルの効果であって、視線だとか意識だとかのスキルを使用しない行動では状態異常にならない。
「〇◎▼▽」
白騎士は大猪の胴体をカウンターテーブルの上に置いた。テーブルは大猪の重みで軋んでいる。
解体はされていない。魔獣は討伐時にその魔獣の象徴となる部位に加えて体内の魔石を遺して身体は消え去るが獣については別だった。
「こいつは報酬だ。受け取れ。」
金貨40枚。一般人の給金半年分の金である。白騎士がこの程度のクエストを失敗する筈が無いとロアが先立って用意していたのだった。白騎士が金貨の入った袋を受け取ると自身の腰にしまい込み2枚のカードを俺に渡して来た。
「・・・さっきウチのロアが渡したギルドカードじゃねぇか。これが如何したってんだ?」
俺は渡されたギルドカードを確認する。発行されたばかりのカードは銅色をしている。ギルド内で最もランクの低いカードだ。
「は?」
そして、2枚目のギルドカードを確認すると血の気が引いたのだった。
それは聖耀金色。称号欄には全ての枠にびっしりと称号が記載されており、しかも全ての称号ランクが最高のキングランク。
「・・・俺が動けなくなる訳だ」
ランクAは才能ある人間が才能ある人間に従事しその生涯を賭けて戦い続けてやっと得る事が出来るものである。俺自身も寝る間も惜しんで訓練し続け25年で得る事が出来た経験があるので、その苦痛とも言える日常は其れこそ発狂しても可笑しくないと知っている。
そして、称号ランク。
例えば『ドラゴンスレイヤー』。ドラゴンを単騎で滅ぼすことが出来ると言う証明だが、ドラゴンにもランクがある。最も弱い飛竜から属性竜。そして伝説。世界に終焉を告げると言われている滅亡竜。
『ドラゴンスレイヤー』の称号はドラゴンに関係するモンスターを討伐するごとに上昇し、称号をキングクラスまで上げるには滅亡竜の討伐に加えて千頭以上のドラゴン系のモンスターの討伐が必要。
その称号のキングクラスとはその種族の『天敵』と認定されるのと同様であった。
そして称号の中には『支配者』が含まれている。人類種・魔獣種・精霊種・幻獣種・神種を討伐する事で得ることが出来る称号の、その全てがキングクラスになった場合に創造主から直接賜る称号。つまり、この白騎士は神から全ての種族の天敵と認められたと言う事だった。
俺の目の前にいるのはこの星の支配者に違いなかった。
唯一の疑問は善性か悪性か。こうまで力の差があると自然災害の様に身を縮めて嵐が過ぎ去るまで待つ他ないのだが、ギルドマスターには皇帝に危険を知らせる義務がある。
「・・・失礼しました。新規発行のカードについては破棄させていただきます。私はこの事を皇帝に伝える義務がありますが、貴方の意志に従います。」
周りの熟練冒険者は驚きの声を上げた。
元とはいえAランク。大抵の冒険者よりも強い俺が皇帝を差し置いて従うと言ったのは帝国に対しての不敬に相当する。ギルドの代表が従うと言った以上はギルドが総じて従うと言う意味であるのだから。
「〇▼▽◎▽◆◎」
白騎士は首を傾げて右手を差し出した。握手・・・か?
俺は白騎士の右手を握った。白騎士は再度首を傾げてギルドカードを指さした。
「あっ・・・返せって事なのね」
横で見ていた受付嬢の声が静かなギルドに嫌に響いた。
【白月の戦神鎧】
月の化身である始祖竜の素材を神が鍛えた神話級装備。
装備者には威厳と栄光が約束されるであろう。




