お城と社会人 その3
私は馬車から降りた瞬間にファッション装備を使用する。
ファッション装備はゲーム内の『露店機能』で個人間で販売する事が出来ない様に『刻印』システムが存在する。
プレイヤーは1アカウントで5体のキャラクターを作成できるのだが、その内の1キャラクターでファッションアイテムを使用すると他のキャラクターと共有できなくなるシステムで、『刻印』を解除するには更なる課金が必要な為に、当時学生だった私は自分の最も好きなキャラクターで使用したのだった。
ゲーム上で人気のファッション装備である『月夜の薄衣』。
霧の夜に反射し輝く月光のヴェールの様に優しく透き通る素材で際どい部分を隠す様に覆ったファッション装備。
移動するたびに揺れるヴェールは戦闘時、月下に咲く一輪の花の様に揺らめき踊る。
そして、視点をローアングルにして動きの激しいスキルを使用するとパンツが見える。
「え?これ、おっさんが女装してる上に、際どいスケベ衣装付けてるって事だよね?」
いや、冷静になってはいけない!
腰のくびれ辺りで紐パンの結び目が見えてるけど知らない!
社会人の私としてはこの格好は痴女である。しかし、装備上の分類は『ドレス』で、一応の言い分はあった。
この国の細かい・・・民族的な感覚だとかは大した日数を経ていないので解らない。
白騎士装備が不人気で在ったのは身に染みて解っているが、個人的にはカッコいい装備だと思うし、冒険者ギルドで屯していた他のギルド員たちとどこが違うのかが理解できなかった。
君達も十分ファンタジーしてるでしょ。
現代人風に言うなら、恐らく・・・日本文化は丁髷に日本刀に忍者だと勘違いした外人が日本に溶け込むべく、忍者衣装に身を包んでいたら警察に捕まった。とかだろうか。
「いや、むしろ・・・この衣装を『え?ウチの土地ではこれが正装ですけど?』位に割り切ってだな・・・。」
田舎のヤンキーの夜露死苦スタイル気分だと思えばこの恥辱に堪えれるだろうか。
「うん。吹っ切れよう。どんな格好でもいいじゃないか。人間だもの。」
その理論で行けば白騎士装備でも良いし、女装したと言う意識が無い分、恥ずかしく無いのだが本人は気付いていない。
未だにおっさんが女装していると言う感覚に戸惑っている様子だ。
私は変な歩き方をする兵士の先導で戦争クエストの報酬を受け取りに向かう。
後は、壇上に上がって職業毎に設定されたファイティングポーズを取るだけだ。
「さっさと済ませよう。そうしよう。」
困難な事が在ったら、さっさとやって片付ける。後々になると面倒になると経験が知っている。
経験から自分の行動を決定できるのも社会人としては必須のスキルだった。
過去に恥ずかしい思いをした事は何度もあるが、時間が経てば忘れる。だからこそ早めに恥を掻いて置けば、経験として生きる事もある。
先導していた兵士が大きな扉の前で何かを言っている。
「○○様の。御なーりー。・・・とか。」
まさかな。と思いつつも似た様な事を言っているのかもしれない。
少しづつでも言葉を覚えれば、多少なりともコミュニケーションを取れるのだろうが、もにゃもにゃとしか聞こえない言語を訳すのは大変な苦労だろう。
一応、重要クエストは全て、覚えている。取り逃しが無ければそれでも良いだろう。
兵士の声に反応してゆっくりと扉が開いて行く。
現在、真昼間で陽が高い。城内は日光に照らされて綺麗だし・・・運営も限られたクエストでしか入場できないエリアに力を注ぎ込み過ぎだ。
開ききった扉から入場するとともに壮大なBGMが流れる。
「あーこれこれ。」
流れるBGMを懐かしく思いながら、周囲を見渡すと多くの貴族っぽいキャラクター達が私を見ていた。
恥ずかしさから一瞬、顔を伏せそうになったが、堂々と赤い絨毯を真っすぐに歩いて行くと先には5段高い処に皇帝の椅子がある。
そして右側。あれは・・・。
「セレナじゃん。」
暗殺ギルドのボスの1人。
『魂喰いセレナ』が皇帝の椅子の近くで眼を見開いていたのだった。




