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白騎士さんが通る  作者: 煙道 紫
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アデュート帝国の受難 その4

白銀の王城は日光を浴びて光り輝いていた。


城内にはどの季節でも効率的に日光を取り入れるべく、熟練の職人や城の設計士が時間を掛けて計算されており、荘厳かつ美麗。城内で働く事が出来る人物たちにとっても、「これ以上ない」と胸を張って言わしめる程の完成された芸術品であった。


他国に類を見ない巨大な支配域から齎される税は大陸の6割を支配下に置くアデュート帝国の財を担っている。


他国と比較しても個人に係る税率は低いが其れを国民総員数で(まかなっ)ており、多様な種族を取り入れた事で生じた『文化の融合』から生まれた新しい品々は、他国への輸出を伴い、それに乗じてアデュート帝国内の経済活動に加わる商人をも取り込んでいたのだからそれも当然と言える。


国内に目を向ければ法や習俗の影響により所属州の統一が強固になって久しく、人々は繁栄をうたい、その恵みを湯水の様に費やしていた。


そして現在、繁栄の最中に有る帝国の業務に励む国の中枢の人物たちが(せわ)しなく働くアデュート帝国を代表する王城『アレステリア』は静かな緊張を匂わせていた。


これはアデュート帝国皇帝であるユリアヌス帝が先のニカイア帝国将軍であるディズル・ムアの一報を受けて自室に戻ってしまった事に加えて、その原因である白騎士なる人物をアデュート帝国の総力を挙げて迎えると言う事実上の『敗北宣言』を皇帝が打ち出した事に起因する。


ユリアヌス帝が発令した命令は「次期皇帝が即位する際と同等の会場を設ける事」。国内行事に留まる祭事とは言え、次期皇帝と同等の価値を持っていると国内外に知らしめると言う事であり、故に城内の従者たちは『武力に於ける敗北宣言』と受け取った。


アデュート帝国には国内最強と言われる冒険者ギルド総長である英雄、セウェルス・ガリアの存在があったが、冒険者は原則、自由で在る。


国は優秀な人材に貴族位と役職を与え、代わりにアデュート帝国に()()()()()()を誓約させたが、彼が帝国の命令に従う義務が無い以上は戦力には反映出来ない。


国と冒険者ギルドは密な関わりを持つ隣人ではあるが、上下の関係性は持っていないのだった。


・・・国の要を担う人材をギルド内に潜ませてはいるので事実上の上下はあるのだが、建前上はそうなっている。


準備が完了した会場には人格的に問題の無い貴族を優先して招待し()()()()()()

これは、白騎士が『この国は自身を跪かせようとしている』という勘違いを無くす為の物だ。


基本的に国の『催事』と『パーティー』には『従属』と『交流』ほどの大きな違いが存在する。『催事』は基本的に身内と行う物なので、必ず上下関係が有る。


食事を下賜する事は有るが、それを提供するしないは()が決定する事であり、その催事の重要度によって細かくマナーが決まっているのだ。


比べて『パーティー』は国内外の交流を主とし、そこに格の違いは有れども上下の関係は存在しない。

異国との交流を想定しマナーは存在せず、基本的には大皿料理を皆で取り分ける形式が取られる。これは、同じ皿から料理を取る事で言外に友好を示すものである。


基本的には料理や規模、内装からパーティーの格が決定する。そして、今回はパーティーの中でも最上位の物。


大陸の6割を支配下に置くアデュート帝国の()になる国は無い。これは他国の王族を招くパーティーよりも格式の高い物であった。


「我々は貴方と此れだけ仲良くしたい」と言う言葉を言外に伝えるべくこの様な仕様となったのだ。


言葉が通じない以上、些細な事が大きな失敗に繋がる可能性がある。些事に手を抜かない事が長年、皇帝として存在してきた自身の成功法則であった。


さて、招待した国内貴族たちの入城も完了し、後は白騎士を待つばかり。

先の戦争の戦果を過小評価する馬鹿は居らず、否定的な言葉を持ったプライドの高い貴族は呼んでいない。

『5万の兵力を消した存在』がこれから登場しようとしているのだから、好奇心と緊張の狭間で感情が揺れ動く者を笑う人間は居ない。


そして、異様に静まり返った会場と通路を繋ぐ入場門から案内役の兵士の声が響いた。


「白騎士様。ご入場です!」


高級兵士の緊張に震えた声は事情を察するに余りある。私は小さく息を吐き、気合を入れた。


(ふぅっ。いよいよ御目見えか。貴様の存在、測らせて貰うぞ。)


性格に趣味嗜好に考え方。白騎士の戦果ばかりが異様に注目されているが()()()()()()()()を抑える事が出来れば、うまくいけば制御できるかもしれない。


その為に50年に1度の豪華絢爛な格式高いパーティーを開いたのだから。


「あっ。」


そして、白騎士が会場に入場したのと同時に、か細く唖然とした声が私の目下。左側から聞こえた。


「セレナ?どうした。」


私は初めて聞くセレナの間抜けた声に顔を向ける。

彼女は両手で口元を抑えて目を見開き・・・震えていた。


何を見た?と真っ先に思った事を聞かずに、彼女の視線の先。白騎士へと目を向ける。


そして、私も愕然とした。


「と、兎人族・・・!」


遠い昔、人類種史上初めて月へと至った種族であるとの伝説を持つ『忘れ去られた種族』。地上では見る事が出来ない最弱の獣人族が私の眼に映ったのだった。



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