お城と社会人
戦争クエストを熟した私は、冒険者ギルトへと足を運んだ。
受付嬢の紅い髪の少女が大層混乱し、顔が青ざめていた。
「困ったな。そういえば戦争クエストの報酬受け取りってムービーが入っていたし・・・。それの関係か?」
現在ギルドで報酬の処理に手間取っている。ゲーム内では簡単なムービーが入って報酬受け取り画面に進むのだが、若干の現実味を帯びたこの世界では報酬の処理にも時間が掛る。
前回の大猪の報酬受け取りにはさして時間が掛らなかったのだが、戦争クエストの報酬はポイント制なので処理に時間が掛るのは致し方ないとも思うが・・・。
受付で待たされるのも時間を惜しく感じる。
今日もギルド内は静かで、誰一人話さない。
当然ながら皆、パーティーメンバー内でしか話していないのでそれも当然ではあるのだが、雑音が聞こえないと逆に暇を持て余してしまうのも事実。
全体チャットでも会話が流れていたゲーム時代が懐かしく思えるのだった。
社畜になると休日でも計画通りに進まないと謎の焦燥感が出てくる。
それに気付いて心から社畜に成り下がったのだと実感した若きあの頃。心の涙が溢れて初めての深酒をした事を思い出す。
おっさんが時間に五月蠅くなるのはこの事が原因かもしれない。
しかし、
「何もしないで待っているのは流石になぁ。」
やる事の無い休日に無理やり予定を作って『何かやった感』を出して来た私には、待ち時間はあまり歓迎されたものでは無い。
ゲーム内では競争相手が居たが、今回は参加は珍しい事にたったの2名のみであり、その内の1人が明らかな初心者と考えられるが為に全てのポイントは私の懐に入る。
「もしかして、偉業なのでは?」
ゲーム内では廃人プレイヤーも多く存在した。
1日中、ゲームに張り付いている人間が居る以上、金策の代名詞とも言える戦争クエストに参加人数が10名を下回る事は『稀なケース』であり、『ポイントが1名に全て取られる』事もあり得ない。
SNSに投稿したら話題に成るかも?
ある種のネタに遭遇したが当然、この世界にSNSは存在しないので、無意味な実績だが・・。
無駄な事を考えて居る間にも受付嬢の処理は遅遅として進まない。
私はこれ以上、無駄に時間を過ごしたく無かったので処理を受付嬢に任せて、報酬は後日受け取る事にした。
言葉は通じないが右手を上げる【了解】のジェスチャーを受付嬢に送り、ギルドから出る。
本日の外は曇り。
ゲーム内には『季節』や『天気』が存在し、それらによって遭遇しやすい敵モンスターが変化する仕様。
時期は解らないが比較的温暖な気候から『春』か『夏』の何方かだろう。
『家』を持っていないので実行する事は出来ないが、ゲーム内の食料を自給できる『農園』の種まき時期だ。
「そういえば、景色をまともに楽しむ事は無かったな・・・。散歩にでも行くか。」
ゲーム内のグラフィックは評価されていたポイントの1つだが、狩をして居るとそのグラフィックよりも地図でフィールドを見る様になる。
「フィールドのグラフィックが綺麗!細かく作り込んでいる!」から「なんとなく恐ろしい雰囲気だな」位にまで感想がグレードダウンしてしまうのはゲーマーの性なのだろうか。
基本的には狩やクエストを楽しむ類のゲームだったので細かい部分には差して触れて来なかったのだ。
土地の『城下町』をゆっくりと散策する。
地面を踏みしめると石造りの道路がデコボコと細かい感触を与えるし、木造の家に近付き壁を観察すると木目まで再現されていて、運営の気合の入り方はこのレベルにまで達していたのだと感動すらしていた。
軽く地面を足で小突き、石造りの道路を砕く。さらさらとした粒子状になった石を手に取ると砂の粒子まで不均一で大小、形の差が存在した。
「ん?土地も現実感が存在するのか?」
私は疲れないし、食事を摂取する必要も無い。土地さえ、ゲームと同じなのだ。
これは現実の生物にはありえない事でありだからこそ、この世界を『ゲーム的』と解釈した。
しかし、敵に逃げられたり、人々が様々な感情を浮かべている事からある程度の現実感を混ぜた世界だとも認識している。
敵の攻撃方法もゲーム内との変化は無かったし、冒険者ギルドで受注できるクエストについても変化は無かった。
「んー。大分ごっちゃになってんな。」
ゲームを基にした空想世界。『魂』だとか『好感度』等の本来、目には見えないものが数値化され確認できる私には、この世界はゲームだ。
「まぁ、やる事は決まってないし・・・。楽しみますかね。」
この世界には、人々の生活が有り、生物の営みが有り、自然の雄大さが有る。
ゲームをして居た時には気にも留めなかった部分に目を向けてみるのもいいかもしれない。
私は心を新たに、細かい部分を見つけながら城下町を散歩するのであった。
◇
以前、宿泊した宿屋で1晩を明かして冒険者ギルドへ向かう。
娘さんは今日も俯いて無口だったので親父さんが私の対応をしてくれた。
今日も冒険者ギルド内は静かで、閉鎖的だ。パーティーメンバー内で固まっているのは人間の習慣としては仕方ないが、野良パーティーさえ組む事が出来ないので私的には難しい。
何時も通りクエストボードから依頼を引き剥がし、受付嬢の赤い髪の少女へクエスト紙を持って行く。
昨日、細かい部分に目を通すと心新たにした私が選んだのは『薬草の収集』。普段、戦闘で使用している最上級ポーションを作成するには最下級ポーションを素材に錬金を重ねて行く必要があり、最上級ポーション1つに必要な最下級ポーションの数は32個。
別にポーションのランクを上げるために必要な鍵素材が数種類存在する。
普段であれば町や村に商人が存在し店で購入できるのだが、この城下町には最下級ポーションの素材になる『薬水』しか販売していなかった。
『薬水』にも体力を微回復する効果が有るが、ゲームを始めたばかりの初心者ですら『薬水』は使用しない。『薬水』はあくまでも素材でしかないのだ。
私がクエストの処理を受付嬢にして貰っていると、以前、野良パーティーを組んだ冒険者が私に近付いて来た。
彼は何かを言うと私の腕を軽く引っ張り、ギルドの裏口へと案内するのであった。




