みんな大好き戦争クエスト その4
私はジェスチャーの【拍手】を終えると残りの雑魚を蹴散らす為に高速移動をして広範囲のスキルを使用する。
1次職のスキルでも1撃で倒せるのだから範囲のみを重視してスキル回しをして居れば直ぐに敵キャラクターは残骸になる。属性竜の件で敵は逃げる事もあると知っているのだ。
ポイントが減ると報酬も減る。逃がす意味は無い。
双剣英雄は対人戦特化の職業であり、此れと対峙する際に横からノックバック攻撃が飛んで来た日には双剣職お得意の連続攻撃が1式叩き込まれる。
素早い攻撃に加えてノックバック効果が付いているのだ。ガードすら出来ずに最後まで攻撃を受ける羽目になる。
対人戦、クソ雑魚ナメクジの名は伊達では無い。
私は双剣英雄に高速移動で突進攻撃を仕掛ける。
彼は双剣スキルの【双牙】で迎え撃って来た。相手の双剣が薙ぎ払う様に2本。振るわれる。
「おっ?」
何処となく違和感。確認の為に【双牙】を避けずに【パリィ】する。
【パリィ】は武器を持つ全ての職業が行えるスキルで、敵の攻撃タイミングに合わせて使用する事で攻撃を受け流す事が出来る。
数回【パリィ】を成功させると相手は大きな隙を晒し、【致命攻撃】をする事が可能になるのだ。
彼は私の【パリィ】に合わせて左片方の剣を手放し、右手の剣で突進攻撃をしてきた。
「うーん。じゃあ、此れは?」
私はその攻撃を【掠り避け】して横薙ぎに通常攻撃。
横薙ぎの通常攻撃を頭を下げて回避された。
「じゃあ、これ。」
彼は空中に投げ出した左の剣を掴み、胸に右手で切りつけて来たので【パリィ】。
直後に下から上方向に切り上げる通常攻撃・・・は避けられた。
「AIと言うよりも初心者プレイヤーなのか?」
双剣系の職業の見た目は非常にカッコいいので見た目に関しては人気な職業だ。双剣の連撃も美しく、グラフィックも多彩で派手。しかし、圧倒的な操作性の悪さから『初心者がハマる罠の1つ』となっている。
見た目や、公式ホームページのスキル紹介を見ただけの初心者が見た目の良さから双剣系の職業を選んでしまうと操作の難しさから数日でギブアップをすると言うのはネット掲示板での通例となっている。
通常、AIの思考は攻撃が来たら避けるかガードを選択する。【掠り避け】はプレイヤーの特権であり、通常のモンスターや敵キャラクターは【掠り避け】を選択できないのだ。
しかし、相手の通常攻撃に対しては、【掠り避け】よりも数回成功させれば致命攻撃のオマケが付く【パリィ】の方が有効打に成り得る。
月光騎士が対人戦クソ雑魚ナメクジと言われる所以の1つに通常攻撃の遅さが有る。
大剣での攻撃になる以上、予備動作が長く縦振りか横振りかを判断しやすい。だからこそ他の職業よりも圧倒的に【パリィ】しやすく、スキルに関しても1撃の威力は有れども単調な軌道の物が殆ど。
月光騎士には軌道が直線的な攻撃を何とか敵に当てる為のスキル回しが専用で存在する程だった。
プレイヤーしか出来ない筈の【掠り避け】をして居る事に加えて、月光騎士の通常攻撃に【パリィ】を合わせてこない。
私はこの事に加えて、相手が致命的なミスをして居る事から相手が初心者プレイヤーと判断した訳だ。
「じゃあ、此れで。」
通常攻撃の薙ぎ払いで、相手が飛び上がったのを確認してから【投げ技】を仕掛ける。対人戦で相手と接近戦になった場合に多く使われるスキルで、通常戦闘では使う事が無い。
スキルの効果は単純に『範囲に存在する敵1体を無防備状態にする』。
相手の攻撃を受け止めてから【投げ技】を仕掛ければ相手を地面に叩きつけて相手が無防備状態になった。相手が地面にバウンドした瞬間を狙って【突き攻撃】。【突き攻撃】を当てれば相手にデバフの防御力低下が付与される。
一応、相手の攻撃を警戒しバックステップで距離を取って様子を見る。
司令官は脱力し俯いてブツブツと何かを言っている様だった。
そして顔を向けると、その力強い意志を宿した目が私の眼を直視した。
「■◇▽▲○○◇」
声は擦れていて、風に溶けて行く様に消える。何を言っているのかは元々解らない。過去の私はゲーム内の造語を読解する程この世界を気に入っていた訳では無かった。
彼は目を閉じて深呼吸をする。静寂が周囲の空気を冷たくした。
「◇▽▲○◇■○▲」
「え?なんだって?」
私は話しかけられているのかも解らずに、聞き返す。私は社会人で、最近まで社畜だったのだ。言葉が解らない相手でもコミュニケーションを取ろうと反応を返す事は大切だった。
何故か、静寂で冷えた空気の中を一筋の光が奔った。
【無双乱舞】
相手の放つスキル名だけ。ハッキリと聴き取れた。そして直後の連撃。
「あっやべっ、ちょ。アッーーー―。」
ガキンガキンと攻撃を受けた際に発生する鉄の交差音が喧しい。鎧を身に纏っているせいか耳元でフライパンを叩かれたかの様な大音量だ。ゲームでは音量を調節出来たが、この世界に入ってからは音量の設定ボタンは存在しないのだ。
流石に自分のレベルの半分程度の攻撃に対してダメージは存在しないが、この音が如何にも慣れない。
連続音が止むと、敵は硬直状態になっていた。
スキル【無双乱舞】は所謂止めの技で、スキル使用後に硬直が入る。これはスキルレベルを上昇させる事で対処可能だが、彼は致命的なミスを犯しているのだ。
「スキルポイント振り忘れてますよっ!!!」
先程の大音量の金属音から耳が麻痺して、思わずに大声で話してしまう。
スキルポイントとはスキル毎の熟練度の様な物。最大10まで振り分ける事ができ、スキルの威力や発生速度が上昇したり、熟練度によってはスキルの隙が無くなる。
そして、転職時には全てのスキルポイントはリセットされるのだ。
スキルの種類によってスキル回しが変化するのだから、仕様としては妥当。
転職時には新たに獲得したスキルの事を考えてスキルポイントを振り直す必要があるのだった。
まぁ、初心者あるあるだ。
プレイヤーならセーブポイントで蘇る。今回、彼がプレイヤーだったのかは定かでは無いがプレイヤーならば、之に懲りずにゲームを楽しんで欲しい。
私は通常攻撃の薙ぎ払いで彼を討伐すると次の波3を待った。
◇
「あっ。さっきのが波5だったのね。」
10分程度待っても敵が襲ってこなかった。ゲームではクエスト完了の文字が画面に表示されるが、そう言った機能は存在しないらしい。
私はさっさと乗り物に乗り込むと空を飛んでアデュート帝国の冒険者ギルドに向かうのだった。




