みんな大好き戦争クエスト その3
「後、4回・・・か。」
雑魚ばかりで歯ごたえは無くとも数が多いので無双ゲーの様で思ったよりも楽しい。
纏めて吹き飛ばした最後の【必滅天翔】で周囲の敵キャラクターは1体とも残っていないので波1が終了したのだろう。
波1は6分を切る結果となった。これは、時間的なものを考えると正直遅い。
言い訳をするならば、基本的には大人数で発注するクエストに新人さんと2人で乗り込んでいるのだ。
新人さんが1体も敵を倒せない事は明らかで、新人さんが参加した分の敵は私が受け持つ他無いのだから多少の時間は掛っても仕方ない部分は有る。
しかし、周回をする上でこんなにも時間を掛けてしまっていたら野良パーティーではハズレ枠になってしまう。
最も弱い波1の雑魚で6分程度だと、ボスに行き着くまでに最低でも30分以上かかってしまう事になる。
最難関クエストでも20分を切るのが普通なのだから、もっと効率の良い倒し方が有るに違いない。このクエストは嘗てのパーティーメンバーに如何に支えられていたのかを実感する機会になった。
波間には準備時間が設けられており、1分程度の余裕が有る。基本的には回復や追加のステータスアップアイテム等を使用するタイミングであるのだが、攻撃を受けない事を基本とする月光騎士にとっては休憩時間になる。
私が一息入れる為に遠目で景色を見ていると偶然、此方を望遠鏡で見ている敵キャラクターと目が合った。
「おっ。流石は運営。意外と作り込んでるなぁ。」
恐らくは敵の観測兵だろう。他の兵士よりも1周りレベルが高い事から中ボスに当たる人物かもしれない。
外見から『双竜剣』だと判別できる。戦士系の3次職であり、双剣を使用して素早い攻撃と曲芸的なスキル回しが特徴で、双剣系の職業は数ある職業の中でも最もスキル回しが難しい職業だ。
双剣使いの最前線のプレイヤーが使用すると「頭がおかしい動きをしている」とよく話題になる事もしばしば。動画映えするので配信者たちにも人気が有るが、「敵モンスターを狩るのにそんなに曲芸しなくても良いよね?」という一言で沈められる不憫な面もある。
それでも対人戦ではその多彩な動きで相手を翻弄し、公式大会では『上級者相手に一度も攻撃をさせなかった』と言う変態が居たために『上級者が対人戦専用に作成するピーキー過ぎる職業』となったのだ。
「まぁ、クエストでそんな強者は出ないんですがね。」
基本的にゲームの敵キャラクターはプレイヤーに倒される為に存在する。
倒せない敵キャラクターはムービーの『負けイベント』位であり、ストーリーを盛り上げる為だけに使われる場合が多い。
敵キャラクターに高度なAIを積む事も容量の関係上、出来ないのでクエスト等で対峙する『兵士』や『盗賊』などの人型モンスターの双剣使いは雑魚雑魚の雑魚である。
「次は記録更新目指すかな。」
中ボスは気にしなくとも良い。陣形はV時の鶴翼の陣形。先程の兵士たちは私を完全に包囲し切った状態で倒したが、今回は包囲される前に左翼から順番に倒していく事にした。
「じゃあ、いきますよっと。」
【ディザスタージャンプ】で一直線に滑る様に高速移動を行い、左翼へと向かう。
基本的には広範囲・高威力のスキルは早めに出して、クールタイムが完了し再度使用できる状態になった瞬間に発動するのが好ましい。
「だから私は【月光斬】。」
月光騎士で前準備無く頻繁に使用でき、広範囲・高威力のスキルはコレだ。
通常状態であれば、いかにして【月光斬】を少しでも多く打てるのかがダメージ効率を上げる策となる。
左翼に1秒程度で到着し、兵士に出合い頭の【月光斬】は波2の兵士達を大勢巻き込み両断する。
何故か兵士達が混乱しており、大声で何かを叫んでいるようにも思えたが目線が観測兵を向いていたのでやはり、彼が波2の司令塔に当たるのだろう。
「んー。司令塔は早めに消しておいた方が良いかな?」
このゲームの運営は意地が悪い部分がある。
敵に捕らわれた姫君を救助するクエストでは、大勢の雑魚に時間を掛けていると姫君が敵にバフを掛けて強化すると言うイベントが挟まったりしていた。
時間経過と共に何かが変わる事がこのゲームには良く在るのだ。
「ケド。歯ごたえ無さすぎるしなぁ。イベントも見ておくか!」
基本的に強化イベントが起きても『適正レベルの場合、頑張れば倒せる』程度の強化である。ゲームバランスを崩すイベントを出すほど運営も馬鹿では無い。
私には相手を倒して速攻でクエストを終わらせるよりも寧ろ、通常プレイでは10分程度で終わる戦争クエストの新種のイベントを見る方が重要になっていた。
見た事ないし。
イベント発生にはトリガーが必要だ。『敵の体力が半分以下になる』とか『時間経過』とか『救助対象が死亡する』等がトリガーとしては一般的だろうか。
戦争クエストでのイベントのトリガーは解らないが、ゲームでの経験上『敵の体力』関係では無い。『敵の体力』関係の場合であれば多くのプレイヤーがイベントを見ている筈であり、話題に為らない訳がないのだ。恐らくは『時間経過』か『特定の人物を残してそれ以外を全滅させる』だろう。
「10分・・・。待つかぁ。」
タイムアタックをする予定だったが、私はゲームではイベントムービー等を飛ばして進めていた。
ラノベも数冊、販売されるほどの濃密な文章量であるのにゲームとなれば何故、あんなにも煩わしいのか。
幸い、今回のクエストでは多額の報酬金が手に入る予定だ。昔の私と同じようにイベントを飛ばすのはゲームの世界観を楽しんでいない証拠。意識がゲームの中に入ったような現状であれば、ゆっくりとイベントを見る為に苦労をしても良いだろう。
私には先程、目が合った観測兵が如何にも重要人物の様に思える。彼以外を全滅させて、それでもイベントが起きなかったら何分か待ってみる事にする。
1人でも残っていれば時間経過のトリガーは引かれる筈だ。
【ディザスタージャンプ】で一直線に滑る様に高速移動を行い、広範囲のスキルで敵兵を討伐していく。
そして、敵の兵数が半数を切った頃に変化が起こった。
先程まで快晴と言える程に青々としていた空が急に曇り、雷雲が立ち込める。紫色の雷が辺りに奔り、ゴロゴロと音を立てて先程の観測兵に落ちたのを確認した。
「おっ。4次転職おめー(*^^*)」
ギルド内での祝言を一言、言った後にジェスチャーで【拍手】をする。
4次転職には3次職レベルを最大にし、職業毎に決められたアイテムを消費する必要がある。
見た所彼は、双竜剣。
この職業は『双竜の魂』と『割れたペンダント』と『命の雫×1000』が必要で、これらのアイテムを所持品に入れて置くと3次職レベルが最大になった際に自動的に4次職に転職できるのだ。
つまり、これは敵の覚醒イベントだった。
正直、この様なイベントは燃えるので好きだ。
敵に敗北した主人公が仲間との絆でパワーアップして敵を倒す。
良く見るシーンだが、それだけ万人受けすると言う事だ。子供から、30代のおっさんになってもヒーロー物は好きなままだった。少年漫画の様な展開だが、いつ見ても胸が打たれる。
敵の司令官が吠える様に叫びを上げる。
双竜剣の次は双剣英雄だったか。
対人戦により特化した職業で、基本スキルは双竜剣と同じだが追加のスキルが3つある。
高速機動で敵の攻撃を避ける月光騎士と違って、敵の攻撃を紙一重で避けてカウンターを入れるテクニカルな職業。
月光騎士が『高速紙飛行機』と呼ばれるのであれば、双剣英雄は『踊る曲芸師』と呼ばれている。
これから、対人戦最強の1つ前、双剣英雄と対人戦最弱の月光騎士の闘いが始まるのだった。
◇ネットの掲示板にて。
Q.なんで、双剣系の職業は踊る曲芸師って呼ばれるの?
A.敵の攻撃を紙一重で避けるのをグレイズ(掠り避け)といい、全ての職業でグレイズをする事が出来ます。
グレイズは敵の攻撃がヒットする直前に敵の攻撃方向と逆の方向にキー入力をする必要があり(右から来た攻撃には左キー入力。上下から来る攻撃には左右何方でも良い。)、グレイズに成功すると腰から上がくねくねと曲がります。
双剣系の職業はグレイズを使用する機会が他の職業よりも遥かに多く、振り子の様にくねくねとして居るので、その様が踊っているかの様だったのでネット界隈で『踊る曲芸師』と言われる様になりました。
曲芸師の部分はスキル回しの難しさです。
他の職業は多くて8パターン程度のスキル回しですが、双剣系の職業は現在、30パターンもの有効なスキル回しが存在し、相手の攻撃を見て瞬時に対応しなくてはなりません。
スキル回しが最高に難しいので上級者になってからでなければ満足に使用すら儘ならない事から、双剣系の職業を満足に使用できるプレイヤーは曲芸師の称号が贈られます。




