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ハイファンタジーのエター集  作者: 皿日八目
タイトルなし
20/26

三人

1

 交通事故とは、あるものとあるもの、もしくはあるものがあるものにぶつかることである。

 交通事故は人類の先祖が恐竜から逃げまわっていたときよりも昔、地球どころか宇宙すら始まっていないころから存在していた。そもそも宇宙自体が、目に見えないつぶつぶどうしの不運な交通事故によって誕生したのである。

 そしてこの物語も、とある交通事故によって始まることとなる。


2

 地球の日本のある街、ある歩道を、ある青年が、ある速度で、ある方向へ向かって歩いていた。

 ある青年の名前は白崎明(しらさきめい)といった。彼は去年の節分に豆を十八粒食べたが喉につまらせ吐き、おとといには十九本のろうそくが立てられたケーキを食べたが甘過ぎて吐いた。十九歳で、大学生でもある。

 彼はいつも暗い顔をしているように見えた。おかげで高校時代まで要注意人物としてマークされ、校舎の窓辺に近づいただけで教師がいずこからかすっ飛んできた。


「どうしたどうした明どうした明なにがあったなにがあった大丈夫か落ち着け落ち着け窓から離れろ窓から窓窓窓窓……」

「落ち着いてください先生」


「わたしのこの顔は生まれつきなんですよ。悩みがあるわけじゃないんですよ」と彼がいくら説明しても、万が一を恐れる教師たちは信じなかった。彼らのマニュアルには、「悩みがない」は「明日死にます」に変換しろと記されていたからである。そのためますます警戒は強化され、ついには窓辺から見える地面という地面にクッションが設置されるまでに至った。が、ふざけて飛び降りて死ぬ生徒が多数出現したため、二週間後にはすべて撤去されてしまった。

 金曜日の夜でも、日曜日の夜でも同じ顔になってしまう明だったが、『ALPHANIMA』という音楽ゲームをしているときだけは、少々明るい顔になった(ように見えた)。ある方向へ向かっているのはそのためで、ゲームセンターを目指している。空は青く雲一つなく、空気も暖かい、いつもどおりの昼下がりだった。


3

 明の背後から、ひとりの男が近づいてきていた。彼の首は吊られているような角度で、つまり歩きながらスマートフォンを操作していた。

 明の前方から、一台の自転車が近づいてきていた。彼の首も吊られているような角度だった。

 明は気づいていなかったが、この街では現在カーチェイスが展開されていた。逃げる男が運転するのはトラックで、間もなく明のすぐそばを通ろうとしていた。

 スマートフォンを見ながら歩いている男は、スマートフォンを見ているので、前方から近づいてくる自転車に気づかなかった。そして自転車の男もスマートフォンを見ていたので、その男には気づかなかった。このままだとふたりはぶつかるが、間近まで接近して、ようやくその狭い視野に男をとらえたのか、とっさに自転車のほうが回避しようとした。しかし、回避した先には明がいた。明は突っ込んでくる自転車に対し、間一髪で飛びのき、車道にはみ出た。

 そして跳ね飛ばされた。


「うわ」スマートフォンの男はうめいた。

「あっ」スマートフォンの自転車男は声をもらした。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」トラックの男は絶叫した。


 ちょうど明が飛びのいたときに、ちょうどあのトラックが時速八〇kmで通りかかり、ちょうど明にぶつかったのだ。その場にいただれしも(三人)が、今後の自分の行く末を想像した。トラック以外のふたりの男は顔を見合わせ、「全責任をトラックになすりつけよう」と視線で約束を交わした。

 トラックの男は狂乱していた。どんなに罪状が重くなるかを思うと気が重くなったのだ。


 ああちくしょうなんで俺がこんな目にいきなりドアたたきやがってあの警察どもヒトひいたのもお前らのせいだああああんなつまらない盗み気にしてんじゃねぇよ魔が差したんだよちくしょうがおまけに酒も飲んでるし。


 しかし、彼ら(三人)はもっと関心を寄せるべき出来事に気がついた。跳ね飛ばされたはずの明が、腕ひとつ残さずに消えてしまったのだ。彼ら(三人)はひどく混乱し、焦るべきかほっとするべきか、どうすればよいのかわからなかった。

 

 が、もっとどうすればいいのかわからないのは明だった。

☆用語解説☆


【ALPHANIMA】――あるふぁにま

日本全国のゲームセンターに導入されている音楽ゲーム。プレイヤー人口の比は初心者一:中級者〇:上級者九である。今から始めようとする者はまずなく、始めたとしてもそのあまりの難易度にすぐ諦念を抱くため、このような比となっている。難易度の高い最大の理由は操作デバイスにある。プレイヤーは足元のペダル三つと、手元のボタン四九個を操作しなければならないのだ。四肢の筋肉を酷使するため、歩いて入店し、車イスで退店するプレイヤーもざらにいる。

明は存在しないはずの中級者で、初心者は脱出したが上級者にはかなわない、その程度の腕前である。なんとしてでも上級者になるため、彼は現在受験のときよりも真剣にプレイしている。

ちなみに、現在のバージョンの最難関楽曲は『シタチリゥクナルトェラム』である。

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