五度目に開く花
魔法を使える者はそれほど多くない。
何年も勉強し続けられるほど忍耐力のある者がそれほど多くないからである。
それがダラとなんの関係があるのかと言うと、ダラの幸運とかかわっており、それはそれほどいない魔法使いが、それほど通る者もいないこの草原に、たまたま通りかかったということだった。
したたかに打ち付けた頭をさすりつつ、ダラは目をぱちくりさせた。しかしすぐにまた閉じてしまった。なにせ目の前にはゲームとか漫画の中でしか見たことのないゴブリンがひっくり返っているし、右を見ると、「わたしは魔法使いです」と全身で主張しているような少女が杖を構えているため、これも夢の一部かと思ったのだ。
「起きて、そこの人!」
夢の中の魔法使いに声をかけられ、ダラは再び目を覚ました。あれ? 今わたしは夢を見ているのではなかったか? この魔法使いはわたしの夢の中の存在で、つまりわたしの脳が知識と経験をこねくりまわしてこしらえたものだから、わたしが目を覚ましたら消えるはずだ。にもかかわらず、わたしはその魔法使いに声をかけられて目を覚ました。これはどうしたことか……ああ、そういうことか。つまりわたしは夢のなかで夢を見ているのだ。ゴブリンと魔法使いが出てくる夢の中でゴブリンと魔法使いが出てくる夢を見ているのだ。そうだ、きっとそうに違いな……
「ほら早く!」
ダラの考察は二秒で崩壊した。たしかにゴブリンと魔法使いは現実にいて、いま彼女はダラの腕を引っ張っている。「おぉう、きみだれ?」間の抜けたダラの声を無視し、少女は声を張り上げる。「もうすぐ起きちゃうから、その前に早く逃げないと!」「だれが起きるって?」「ゴブリンだよ!」そこまで聞いてやっとダラはゴブリンをまともに見た。「わっ。あれ本物?」「いいから早く!」
なんとのんきな人だろう、その少女がダラに抱いた第一印象とはこのようであった。
それが覆される日は来るのだろうか。
すくなくとも二、三日先ではないとだけ言っておく。
「いやぁ、助かりました……」
少々ばつが悪そうに、ダラは感謝の言葉を口にした。少女と逃げているうちは必死で考える暇もなかったが、いまは盛んにあの木陰での醜態が思い出された。
「べつにいいよ」
追手の有無を確認しているのか、背後を振り返りつつ少女は言った。
ひっくり返ったゴブリンから逃げ続け、ここは小高い丘の上。ダラも少女にならって振り向いた。ここから見るとゴブリンもだいぶ小さく見え、しばしば高層ビルからの眺望においてもそうであるが、なんだか作りもののように見えた。
ふたりしてそれを眺めるうち、ダラは気まずい思いをしている自分に気が付いた。なにをしゃべったらよいのだろう。
きっかけをつかもうと――それを大義名分として沈黙を続けるうち、先に少女が口を開いた。
「きみの名前は?」
「え?……えー、ダラ=オベックです」
自分の声がかすれていないかとダラは心配したが、ちゃんと伝わったようで、少女はうなずいた。
「わたしはリーシュア」




