突飛に現る四方の草
ダラは目を覚ました。
しかし、とくに見える風景に変わりは無かった。
まわりが真っ暗だったためである。
なぜ真っ暗なのかというと、当然作者がまだそこらへんの設定を終えていないからだ。タイトルによるとこの物語はいわゆる「異世界転生」というジャンルに分類されるようだが(ようだがって言っても、わたしが決めたタイトルだけど)、それでは「異世界転生」を主人公がしたときに、一体どこで目覚めるのが適切なのだろうか。
前話の過ちは繰り返さない。これはもうはっきりと決めておく。彼は草原で目を覚ましたのだ。
草原で目を覚ましたという設定が決定されると(もちろんダラにはそんなこと知る由もないが)、急にまわりが見えてきた。
ダラは美しい、とにかく美しい、筆舌に尽くしがたい(これはわたしの表現能力の敗北を示す表現だ)美しさの草原を目にした。四方のどこを見ても、草原が目に入った。もうとにかく草原だった。どこまでも草原が続いているように見えた。
ひとしきり草原を見ると、彼はもっと関心を寄せるべき物事があることに気がついた。
……どうしてぼくはここにいるのだろう。
ダラはなんとか頭を絞り、記憶のしずくを集めようとした。しかし覚えているのは自分がなにかしらの原因で死んだらしいことと、自分は十八歳で大学生であることと、ダラ=オベックというだれがなんの意図で名付けたのかが理解しがたい自分の名前だけだった。ほかのことは何も思いだせない。まあ彼がそうなるのも当然だろう。だって作者が決めていないんだから。
記憶をたどることをあきらめると、ダラは自分がなにをするべきか考えてみた。
一つ、ここにとどまり続ける。この風景を見て過ごすのはなかなか現代人たる自分にとって贅沢な楽しみのように思えた。しかし数日で飽きるような気もするし、いろいろと生命維持上の問題がつきまとう。
二つ、とにかく歩いてみる。今自分がいる地点からは、草原はどこまでも続いているように見える。しかし本当にそうなのかはわからないし、それを確かめるためにも歩き出すのは有効な手段だと感じられた。ここにとどまり続ける一つ目の方針よりは、長生きできそうな気もする。
……歩くか。
ダラは二つ目を採択し、なんとなく道がなだらかそうな方向へ向かって歩き始めた。
残り時間も半分を切ろうかとしているときに、なんとか物語の体裁が整ってきたような気がする。もちろんこの先になにがあるのかというのは全然考えていない。だからなんとかしてわたしのスカスカ脳の片隅から引っ張り出してこなければならないが、ああしかし! こんなことを書いている間にも時間は進んでいる! もしかするとこの作者の独白のような部分、文字稼ぎとして読者に捉えられているやもしれぬ。いやあ、わたしだってもちろん物語を進めたい気持ちはある。しかしそのためには思い付きが必要で、思い付きに必要なのは時間なのだ。だからこの段落は文字稼ぎというよりは時間稼ぎと呼称したほうが、よりその本質を捉えられるような気がする。こうやってまったく意味のないいろいろを書きなぐり続けているうちに、ふと本編を進めるためのアイデアが天のどっからからわたしの頭めがけて降ってくる可能性がないとも言えない。というかそれがなければこの話は全然進まない。どうか一刻もはやく降ってきてくださいますように! あと十一分しかないから、ほら、はやくはやく!
ダラは歩き続ける。まわりには相変わらず草原のみが見える。先ほどはこの風景に飽きるまで数日は要すると予測していたが、その読みは甘かった。もう飽きた。
彼の服装は各自で勝手に予想していただくとして、彼は時計を持っていなかった。まああったとしてこの異世界でそれが頼りになるものか、はなはだ疑問ではあるが、それでも目安程度にはなったかもしれない。その目安程度にはなったかもしれないものを彼は持っていなかったので、自分がいったいどれくらいの時間歩いているのかということは、まったく彼は理解しえなかった。もちろんわたしは知っている、だいたい三十分ってところである。
多くの人間、というかすべての動物はそうであるが、ずっと動き続けることはできない。ダラもまたその例に漏れず、歩き続けて疲れ始めていた。まだ三十分しか足っていないのにもかかわらず、である。どうやらこのダラという主人公は体力があまりないようである。それには様々な要因が考えられ、そのなかには本人の責任はまったくないものだって存在するだろう。だがはっきり言っておくと、ダラのそれはまったくもって本人の責任なのである。彼は昔からさっぱり運動をしてこず、体力不足とはそれに起因していた(という設定をたった今思いついた。というわけでダラの記憶に新たなものが追加された。「運動は苦手だった。体育は嫌いだった」)。
時間帯がどうであるかという描写が抜け落ちていた。まあ大体昼だろう。そういうことにしておく。空は青く、雲一つない晴天だった。この場所はどうやら自分が今までいた場所とは違うようだということはダラも気づいていたが、太陽が照っているので、まあそこまで異常な場所ではないだろうなという予測は立てていた。ちなみにそれは間違いで、彼がいるのは異世界であり、したがって地球のそれと同じように見えるものも、地球のそれとはべつの太陽(この世界でもこの昼に昇ってきて勝手気ままに日を降らすやたらでかい丸っぽいやつは太陽と呼ぶ)なのである。
ああああと一分しかない。またさっぱり話が進まなかった。次回こそ余計な独白など入れず、物語を巣進めることに注力したい。ので、どうか「はあ? なんだこの小説ぜんぜん話が進まねぇじゃねぇかふざけんなよマジでだれが書いてんだよ……皿日八目? クソみたいな名前だな。きっと作者も大便そっくりな奴なんだろな」と思った読者の方も、どうか次回までは読んでいただきたい。今までの二話よりは話が進むだろうから。
たぶん。




