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ハイファンタジーのエター集  作者: 皿日八目
わたしのための異世界 -三十分で紡ぐ姑息な物語-
12/26

まえがき

 どん。

 主人公は死んだ。

 彼は一八歳だった。彼は大学生だった。彼の名前は――

 えーと……なににしようかな。


 そう、この物語は主人公の名前すら決まっていないのだ。ついでに主人公がなぜ死んだのかも決まっていない。それはつまり「どん」というのがなんの音なのか決まっていないということで、車に追突されたのか、ダムに落ちたのか、銃で撃たれたのか、まったく定かでない。これが今後明らかにされることはまずないだろう。作者のわたしが言うのだから間違いない。なぜならそんなことどうでもよいことだからだ。


 それよりも主人公の名前を決めることが重要だ。名前というのは大事なもので、それはいろいろな人がいままで散々言ってきたことだから、今さらわたしはとくになにも説明しないが、とにかく大事だ。これを決めておかないと話にならない(これは我ながら上手い言いまわしだと思う)。仲間(登場するかは知らないが)に名前を呼んでもらえないし、敵(これも登場するかどうかは未確定)にも名前を呼んでもらえない。いっそ決めないで、「彼」とだけ呼称して物語を進めることもできるが、しかしそれでは主人公の名前を決めるタイプのゲームで自分の名前を入れたけれども「(自分の名前)くん! おはよう!」とメッセージウィンドウには書いてあるにもかかわらず、実際の音声においては「おはよう!」としか言ってくれないようなことになってしまう。それはよくない。だからやはりここで名前を決めておきたいのだが……


 あー思いつかない。わたしは昔から名前を付けるのが苦手である。ゲームとかではよく名前をつけなければならない場面に遭遇するだろう。わたしはそのたびこの足りない頭を抱えてのたうちまわり、なんとかアイデアを絞りだそうとするのだけれども、結局大した案は浮かばず、既存のなんらかの作品のキャラクターの名前をそのままパクって名付けてしまうのだ。しかしこの作品においてもそれを行うのはちょっとまずい気がする。もちろんこんな駄作(になるんじゃない? 多分)に値札がかけられ店頭に並ぶ日など世界最後の日と同じくらい遠いが(この例えだとけっこうあり得てしまうような気がする。そうすると適切な比喩だとは言えなくなってしまうが、三十分という制約がある以上、いちいち修正してはいられない。読者の皆様方、不適切な表現をしてしまったこと、深くお詫びいたします)、万が一ということもある。その場合、その元ネタ(本物)のキャラクターを生み出した作者がわたしの作品にその名前を丸パクったキャラクターが存在することを発見し、「ああこの奴! なんという恥知らず! 死ね!」と叫んで瞬時にわたしの住所を特定し、出刃包丁を携えタクシーごと突っ込んでくるかもしれない。わたしは家に突っ込んできたタクシーに驚愕するが、その中から飛び出してきた出刃包丁を携える作者(わたしはその人の顔を知っているとは限らない。むしろ知らない可能性のほうが高いだろう。しかし出刃包丁を向けられたときそれを持っている相手がだれかというのは実はあまり意味のない話だ)を見てさらに驚き、そのままショック死するだろう。


 こんな話をしているうちに、残り時間が半分を過ぎてしまった! いきなり物語が暗礁に乗り上げたような気がする。主人公の名前すら決まらぬまま一話目が終わってしまいそうだ。こんな話読んでくれる者が果たしてこの地球上にひとりでも存在してくれるのか? もしそうだとするのならば、わたしはその者に深く感謝し、もしその者がタコに喰われるための生贄に選ばれたとしたら、行って助けようとするが化け物ダコを見て怖気づき心の中で謝罪しながらその場を立ち去り、すべてを忘れて家で麦茶でも飲むだろう。


――もう脱線はしない。神に誓ってわたしはもう脱線をいたしません。わたしは二度と関係のない話を(少なくともこの一話目の中では)せず、本来の目的――主人公の名前の決定を達成するべく尽力する所存です。よろしく。

 しかしどうすればよい名前を付けられるだろう。これは適当に私が行き当たりばったりその場の思いつきで書き上げていく駄作になることがすでに決定づけられた作品なれども、主人公の名前くらいはちゃんと決めてやりたい。ここはひとつ、身近にいる名付け親に、いかようにしてわたしの名前をつけたのか聞いてみよう。


 ではよろしくお願いします。

――よろしくお願いします。

 あなたはわたしの母親、つまりわたしの名付け親ですね。

――はい。

 わたしの名前はどのように決めたのでしょうか。

――ええと……どうだったけかな。

 ……早くしてください。あと九分です。

――え? なにが?

 この一話目はあと九分以内に書き上げないといけないのです。

――それ破ったらどうなるの?

 たぶんだれかが死ぬ。

――それは大変……えーと……あ! そうだ思いだした!

 どうやって決めたのですか?

――なんか姓名診断のサイトで適当に拾ってきた名前ですね。

 ええ……


 わたしとわたしの母親との対談はわたしに思わぬダメージを与えたが、比較的実りのあるものとなった。ひとつの結論を得ることができたからである。その結論とは、名前というものはなんとなくで決めようというものだ。どうせ大した意味なんかなくとも、そのうち愛着が湧くのである。

 そうと決まれば話は早い。なんか適当に響きがよくって、頭に残りやすそうな名前をつけてやればいいのだ……で、それはどうやって思いつけというのだろうか……

 あああ! あと四分しかない! どうしようどうしよう……あー、わたしが今触っているものはキーボードである。キーボートは英語でkeyboard。これを反対から読むと……draobyek。だいたい「ダラオベック」と読めるような気がする……ダラ=オベック……

 名前が決まった。


 残り二分を切りながらも、どうにかして名前を決定することができた。いやあ良かった~。次回からはもうちょっと話を進めたい。というかこの一話目のノリを次回以降も続けるとすると、この話はわたしが死ぬ前に終わらなくなってしまうだろう……まあこれは誇張だけど。

 次回もよろしくね。

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