第二話 「旅立ち前の試験です」
一夜漬けで、どうにか、頭の中にあったのは、書けた(…眠い)
「うっ、くっ!…あれ。ここは一対?」
「お目覚めになりましたか?」
辺りはまるで雲の上のように真っ白で何もない、空間で声の聞こえた方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
腰まで伸ばしたさわり心地の良さそうな蜂蜜のような黄金の髪。
そして、その瞳の色はまるで、エメラルドを思わせる緑金色だった。
「気分などに、問題はありませんか?」
「あ、ああ」
流石に見とれていたと素直に言えるはずもなく、俺は素直に頷いた後、女性から差し出された手を取り、立ち上がった。
「貴方は子供を助けようとして、命を落とされました。そこは覚えていますか?」
「ああ、覚えてるよ。それで、俺が死んだというのは、何となくな」
「そうですか」
仕事の帰り道、赤になった横断歩道を渡ろうとした子供にトラックが突っ込むのが見え、助けようとして子供を怪我しないように抱き抱えた直後、トラックと衝突、全身が砕けるような感覚を感じながらも、抱き抱えた子供が吹き飛ばされないようにした所までは覚えているが、それ以降の記憶は曖昧に途切れていた。
「改めて名乗りましょう。私はアフレイヤ。貴殿方が暮らしている世界とは別の世界の女神です。そして、貴方が命をもって助けた子供。あれは私です。厳密に言えば、私の分身ですけど」
「……はあ」
突如として、目覚めると何もない白い空間は死後の国のようなものか、と今いる不思議な場所に対する驚きが薄れたタイミングで、目の前の、今さら気がついたが背中から白い翼が生えている綺麗な女性の口から聞かされた内容に対しての俺の反応は間違ってはいないはずだった。
「貴方は、自らの体を、命を犠牲に、小さな命を助けました。そんな貴方に、私はあるお願いをするために、この場所に貴方を御呼びしたのです」
「お願い…?たかが一介の人間の俺に異世界の女神さまがか?」
「はい。貴方に、私の世界へと転生して欲しいのです」
転生という言葉を聞き、俺の頭に即座に浮かんだのは、小説でよくある、異世界転生、という言葉が思い浮かんだ。異世界転生。記憶や経験、知識や自我を持ったまま、別の世界で生まれる変わると言う事で、あながち間違ってはいないだろう。だが気になるのは、なぜ一介の人間である俺をこの女神が選んだのかだ。
「どうして、俺なんだ? 他にも子供を守ろうとして死んだいい奴だって他にいるだろ?」
「確かに、そのような方々もいます。ですが私は貴方を選びました。それは、間近で貴方を見たからです。先程と言いましたね、貴方が助けたのは私の分身であると」
「ああ」
「それが、私が貴方を選んだ理由です。私の眼は見た人間の本質を見抜くことが出来るのです」
「本質を、見抜く?」
「はい。幾ら人を助けようと。それが必ず善意である事はあり得ません。称賛されたいがためにする者、なかには異世界に行くためにと意図的に人助けを行い、死を選ぶ人間まで居る始末です。ですが貴方は違いました。助けよう。その思いの元に行動したのだと」
「そんな大層なモノでも、褒められる事をしていないですよ」
実際、俺としては特に考える事無く、ただ助けようと動いた結果であるだけで、何も褒められるようなした覚えは何一つなかった。
「いえ。それは凄い事です。ですが‥‥それは光であると同時に、支える者が居なければ酷く脆い。だからこそ、貴方を選んだのです。損得でも、自分の為でもなく助けようとする貴方は眩しいですが、同時に儚い。だからこそ、私の世界に来てほしいと思ったのです。貴方を支えられる人が居る私の世界に」
「…分かった。その申し出を受けさせてもらうよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
こうして、アフレイヤからの要請に答えるようにして俺は異世界に転生することにしたのだった。
「さて、ぼんやりしてるところ申し訳ないけど。いよいよ明日学院に入学するジークの為に、最終試験を行いますよ」
と、そんな事を思い出しつつ、俺は木屋の前でシークと向かい合うようにして、シークは鉄製の剣を構える。
「宜しく御願いします」
俺は十歳頃から発現した『心装武装』である剣を構える。因みに名前はまだ決まっていなかったりする。
剣の色は黒で、作りとしては片手剣直剣だったが、だが違う所もあった。それは剣の腹に一列に、複数の窪みが存在していた。
これはシークから教えられて分かったのだが、どうやら『心装武装』の武器に窪みがあるのは『王』の資質ある者だけで、騎士達の『心装武装』には無いものらしく、『心装武装』を見るだけでも分かるものらしかった。
(それにしても、剣を教えてもらって大方十年になるけど、やっぱりシークには隙がない)
シークの構えは、ごく自然に剣を構えているのだが、そこに突け込める隙はなく、正直、攻め手にあぐねていた。だが、シークに初手を取られる事も、なかなかに辛いものだった。
そもそも、シークの強さはもはやチートレベルで、更に闘気という、可視化が出来るほどの生命力を操る技で武器に闘気を纏わせることで『心装武装』を受けることが出来るという、ぶっ飛んだ存在だった。
(問題は、如何にシークの結界を破るかだが。まあ、まずは一撃を入れるように頑張ってみるか)
剣をやや水平に、打突の構えを見せるも、シークは動かずに俺を見ていた。、シークの様子を見つつ、感覚を研ぎ澄ませる。
シークには、剣を教えてもらいながら、もはや数えるのが面倒と言うほどに何度も俺は挑んだが、一度も勝てず。更に一度もその防御を破ることが出来ていなかった。
『剣の結界』
とシークは表現していたそれは、卓越した技術と腕を持つ剣士の、相手を完全に捉え、倒すことが出来る剣の絶対領域の事だった。
そして、今までの経験から推測するに、シークの『剣の結界』の範囲は五メルト(メートル)であると推測できた。勿論、普通の剣士では剣の届く間合いまでなのだろうが、シークは普通とは格が違った。
そして、シークと俺との間の距離は凡そ五メルト(メートル)なのだか、俺から五十ミル(センチ)先からはシークから五メルトなので、もはやシークの剣の領域の範囲内だった。
では、如何にシークのその領域を突破するか、俺の導きだした答えは簡単だ。
(魔力で身体能力を強化して、一息に剣を叩き込む!)
『心装武装』を持つ者の心より生み出されし力である魔力を用い、俺は身体の能力を極限まで強化する。
もちろん、魔力で出来る身体能力の強化は、元となる体を鍛えていないと意味はない。あくまでも元の肉体を強化するだけなのだから。
まあ、華奢であっても、剣を振るう際や移動時に魔力を放出することでとんでもない力と速さを生み出せるのだか、それには精密な魔力のコントロールが必要で、俺はまだその領域に至ること出来ていなかった。
だがその代わりに、肉体に関しては、シーク程ではないがある程度、意図的にコントロールが出来るようになっていた。
「はっ!」
「これは、『縮地』。…自力で体得していましたか」
俺の今までの中で、最高の速さを上乗せした打突を繰り出したが、しかしその打突は剣の腹を滑らせるように横へと流され、返す剣で頭に振るわれたシークの剣を体を左に回転させるようにしてシークの剣を受け止める。
「くっ!」
「ですが、本来の『縮地』は体の全てを支配下に置いていることで、初めて可能となる技。ですがジーク。貴方はまだ体の全てを支配下に置けていない。だから魔力で体内の血管と自己治癒力を強化して扱えるようにした、と言うわけですか」
「…正解です」
人の認識が追い付かない高速での移動と破壊力を生み出す技、それが『縮地』だ。『縮地』は自らの肉体の全ての筋肉を、瞬時に零から百に上げるという、一種の暴力的な技で、分かりやすく例えれば、前世での車を急発進させるのと同じ事だった。
そして、そんな事をすれば体の心臓に強烈な負担がかかり、最悪は爆散して死ぬなんて可能性もある。だが、シークは自分の体を完全に支配下に置き、この『縮地』を完璧に扱うことが出来るのだ。
だが、俺はまだ肉体の全てを支配下に置くことが出来ていない、だが、シークに対して、初めての勝利を掴むために、俺は自滅に近い方法で強引に『縮地』を使えるようにした。
その方法が、魔力で肉体、血管の強度を、そして治癒力を高め、傷ついた筋肉やら血管を無理やり治す事だった。
「強引な事をしましたね。その代償は、高いですよ?」
「知っています。でも代償があるとしても、俺は使います。貴方に一撃を入れるためなら!」
今も、傷ついた筋肉や血管を治しておるのだろう、鈍い痛みと、時折鋭い痛みが襲い掛かってくる。それでも、俺はやめるつもりはなかった。
最悪、命を捨ててでも勝ちたい、そう思っていたからだ。
「…合格、とって言ったところですね。これ以上やるのであれば、互いに本気を出さざるを得なくなりそうです」
そう言うとシークは剣を引き、纏わせていた闘気を霧散させると、剣を鞘へと戻し、一方の俺も『心装武装』を解除し、身体能力強化を解く。
「はあ、はあ…っ」
解除した途端に、体の力が抜けてしまい、俺は地面に座り込んだ。そして、胸に浮かんだのは、嬉しさよりも悔しさだった。
シークとの間にある実力の差が、より明確に分かったからだ。
例えるなら、今の俺はかなりの実力者でなければ登れない山だが、シークは何人も入れない最高峰の山というべき差があった。
(くそ。まだまだ遠いな…)
だが、同時に嬉しくもあった。中々越えられない壁。それは人にとっては中々に得難いものだと、俺は思っていたからだ。
とまあ、こうして俺の学院に入学する前のシークによる試験は、俺の合格によって幕が下りたのだった。
次回の投稿も、思い付いたら投稿をします。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
また、違和感や誤字脱字などありましたら、ご報告頂けると幸いです。
それでは、失礼します。




