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最恐の姑が大快調でツンデレ覚醒!? 夫の愛人登場! そして正妻がまさかの『神制度』に気づいた朝

 特製ヨーグルトの突撃から一夜明けた、翌朝のこと。

 宮廷の最奥、皇太后の広大な寝室には、信じられないほどの静寂――

そして、大いなる衝撃が広がっていた。

「……嘘」

 豪華な姿見の前に立ち、自らの顔を凝視していた皇太后は、

小刻みに震えながら呟いた。


 鏡に映っていたのは、昨日までの土気色の肌ではない。

まるで十年前の若々しさを取り戻したかのように内側から発光する、

驚くほど滑らかで瑞々しい美肌だった。

 さらに、数日間にわたって彼女を内側から苦しめ、

狂わせ続けていた「悪しき滞り」は、

今朝一番に見事なまでの大快調となってすべて洗い流されていた。

お腹の張りは完全に消え去り、身軽さすら感じる。


「私のお肌……まるで十代の美女のものじゃないの。

何とつやつや、プルンプルン、いや、トウルントウルンに輝いていること!」

外で小鳥が鳴いた。まるで、へいへい、とでも言いたげに。


「あの子の言ったことは、すべて本物だったというの……? 

あの白いドロドロとした奇妙なデザート…

あれは、本当に奇跡の逸品だったの……!?」

 最恐の姑は、自らの手で頬に触れながら、畏怖の念を込めて深く息を吐いた。

 一度は「毒殺する気か」とまで疑った。

こんなことがあるなんて想像すらできなかった。

しかし――結果がすべてを物語っていた。

「……エリザベート。ただの気の弱い田舎娘だと思っていたのに……。

こんな底力があったとは」

 皇太后は窓の方に歩き、外を見る。

「朝日がこんなにすっきりと清々しく輝かしい」

 ふっとため息をつく。

「認めざるを得ないわ。あの子はもう、この宮廷に、いいえ、

私の傍に必要不可欠な存在だわ……!」

  

 宮廷の最高権力者がツンデレの覚醒を迎え、鏡の前で震えていたその頃。

 宮殿の別棟にある、豪奢なバラの香りが漂うサロンでは、

全く異なる不穏な空気が流れていた。

「ひ、ひぃぃん! エリシア、聞いてくれ! エリザベートが……

エリザベートが恐ろしすぎるんだ!」


 ふかふかの高級ソファーにしがみつき、情けなく涙目を見せているのは、

ここ一番に爽やかな朝を迎えた皇太后の息子、皇帝フランツ。

 そして、そのフランツに呆れた視線を向けている女性が約一名。

優雅に紅茶を飲む絶世の美女——

フランツが熱烈に寵愛する宮廷公認の愛人、エリシアだった。

「まあ、相変わらず情けない方ね。あの田舎から出てきた冴えない正妻が、

一体何をしたというのです?」

「ち、朝食をすべて鳥の餌(雑穀粥)に変えて大臣たちを洗脳しただけでなく、

昨日はあの偏屈な母上まで白いドロドロの不気味な液体で

一瞬にして笑顔に変えてすっかり手なずけてしまったんだ! おまけに……」

「おまけに?」

「……私の恐怖が極限に達したとき、彼女の目が冷ややかに光った。

あれは絶対に先日私がお前の名前を、その……

ちょっと口走ってしまったことを思い出して私を睨みつけたのだ……!」

 ガタガタと震えながら告白したフランツに、

エリシアはピキリと整った眉を跳ね上げた。

「……は? 正妻の目の前で、私の名前をおっしゃったですって? 

あなた、おバカなの?」

「すまない! だが彼女はすべてを見透かしたような極上の笑顔で上塗りした

得体のしれない冷たさで私を見ていた! 

絶対に何か恐ろしい復讐を企んでいるに違いない!」

「フン、調子に乗らせておけば良いものを。母上まで丸め込むとは、

ただの田舎娘ではないようですわね。

……フランツ、あまりにあの女が不穏な動きをするようなら、

そろそろ表舞台から静かに消えてもらう方が、よろしいかもしれませんわね。

……私が懇意にしている、影の――プロを手配いたしましょうか?」

「へっ!? プ、プロ? なんの?」

「みなまで言わせる気? 流石にそれくらいはあなたでも分かるでしょう?」

「ひ、ひぃっ……!」

 エリシアは妖しく微笑み、冷酷な光を瞳に宿した。

 愛人としてのプライド。

そして自らの地位を脅かしかねない正妻エリザベートを直接マウントし、

叩き潰すべく、彼女は立ち上がった。



「あら、あなたがエリザベート様? 初めまして」

 宮殿の廊下を歩いていた私の前に、

取り巻きの侍女を引き連れた美女がこれみよがしに立ちはだかった。

 扇子で口元を隠し、全身から「私が皇帝に愛されている勝者ですのよ、

ホーッホッホ」。

そういうオーラ(マウント)を隠そうともしない。

きれいに結い上げた髪の毛が一部だけ乱れている。わざとだね。

 彼女が夫・フランツのうっかり誤爆のお相手、エリシア。

 へいへい、夕べから今朝まで一緒に過ごしてたわけね。

私だってそれくらいわかってるよーだ。

 元クレーム対応担当の私は、目の前の美女を一目見てすべてを察した。

ていうか、これくらい誰だって気づくだろう。ド鈍感夫でもない限り。

 そんな私にマウントを取ろうと、

エリシアは勝ち誇った笑みを浮かべて口を開く。

「いくら朝食やデザートで取り繕ったところで、

フランツ様の心がどこにあるかは……ねえ。

使用人にでもなりたいとお思いなのかしら?」

高笑い。

「もちろん、雇われる側をご希望なのでしたら、

彼に頼んで差し上げてもよろしくてよ」

 なかなか大したタマじゃないの。

 絵に描いたような愛人の宣戦布告ってことだろう。

だったら受けて立ってやろうか。

 ビシバシと飛び交う火花に、私の後ろに控えていた専属侍女のマリアが

顔を真っ青にして私の耳元で必死に囁いてきた。

「エ、エリザベート様、落ち着いてください……! 

お忘れではありませんよね? この帝国において、

高貴な貴族が愛人を持つことは公認の嗜みでございましょう? 

精神的な純愛を貫く『プラトニック恋愛文化』として、

正妻側もそれを受け入れるのが高尚な美徳とされているわけですので、

この方がいくら厭味ったらしくて可愛げがなくて腹立たしくて憎たらしくても

公けに排除することは難しく……っ」

「……え?」

 マリアの必死の解説を聞いた瞬間、

私の脳内で前世(鈴木恵美子)のワーキングウーマン回路がカチッと音を立てた。

 ブレーク。

 ちょっと待った。

 公認の愛人。プラトニックな恋愛文化。

 それってつまり――。

 法律と宮廷の制度でガチガチに守られた「公式の業務委託アウトソーシング」ってこと!?

 私の頭の中で、ド派手なファンファーレが鳴り響いた。

(最高すぎる……! あの面倒くさくてマザコンでヘタレで油まみれの料理ばかり好む最悪な男の精神的なケア、およびプライベートの愚痴聞き業務を、

この超絶美女が公式の外部業者として丸ごと引き受けてくれてるってこと!?)

 私は正妻としての最低限のステータスと、安全な衣食住、

そして宮廷大厨房の権力さえ握っていればいい。

 厄介な「夫の世話」というクソ重たい定例業務は、目の前のエリシアが全部代行してくれる……しかもコストゼロで!

 さらに考えてみると、美味しいおまけがついてきた。

これは男性に限ったことではなく、女性にももちろん言えることだった。


 つまり。

 マザコン夫が好き放題やり放題なら、妻の私もそれは同じ。

 既婚という最強の安全地帯に身を置きながらよ、

宮廷にいるイケメン聖騎士団長や他国の公爵たちを「オトナの推し活」として

堂々と愛でることができる神制度じゃないか……! 

よりどりみどりだぜ! WOW。ハレル―ヤ!

「業務委託と推し活が100%両立できるって……? 何この神システム!? 

ホワイト企業どころの騒ぎじゃないじゃん……!

 あまりの全能感と幸福感に、私の顔に、昨日以上の「神々しすぎる極上の笑み」が浮かび上がった。

「エリザベート様……?」

 エリシアが、予想していた「悔し涙」や「激怒」とはあまりにもかけ離れた、

眩しすぎる私の笑顔を前にして後ずさりした。

「エリシアさんとおっしゃるのね。いつも本当にありがとう」

「……は、はい?」

「いつもあの樽みたいなヘタレ夫の面倒を見てくれて感謝してるわ。

あなたのような優秀なパートナー(外部委託先)がいてくれて、

私、本当に心強いわ。これからも彼を全力で甘やかして、

定時で引き取ってちょうだいね!」

 ガシッと両手を握りしめられ、満面の笑みで感謝を述べられた愛人エリシアは、

完全にキャパシティをオーバーして脳がバグを起こしていた。

「な、な、なんなのよこの女……!? 悔しがりもしないで、正気なの!?」


 マウントを取りに来たはずの愛人の脳を初手で完全に破壊し、

私は「推し活ピクニック」の計画を立てるべく、

(どちらにしよおかな♪)と鼻歌交じりで、

しかしあくまでも優雅にその場を去るのだった。



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