↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/12

皇太后、便秘と肌荒れで大不機嫌。主人公が特製ヨーグルト&食物繊維デザートで突撃

大食堂の朝食改革から数日。私――帝国皇妃エリザベート

(中身は日本の元クレーム対応担当・鈴木恵美子)の宮廷掌握計画は順調……のはずだった。


ネックは手ごわいあのお方ひとり。

宮廷の最奥に鎮座する絶対権力者であり、最恐の姑。 

比べてみれば、東京のトシ子さんなんて可愛いもんだわ。

「何事も比較だよ」って昔会社で言われたけど、全くその通りだ。

だからしんどい作業もやっていけば、他が楽になるからって。

ということで、職場で覚えたことをたまに思い出しながら、

私はこの宮廷世界でやっていくしかなさそうだ。少なくとも今のところは。


ここ数日、皆が恐れるあの彼女のプライベートエリアから高級な磁器の割れる不穏な音や、

侍女たちの悲鳴が絶え間なく聞こえてくるらしい。

正しい嫁としてはさりげなくリサーチを開始する。


「またお怒りなの? フランツがまた何かやらかしたのかしら」と専属侍女に聞いてみた。

すると、なぜかモジモジして中々はっきり言わない。

「いえ……その、原因は『お体に障りがある』とのことで……」

「お体に障りが? ご病気なの?」

「いえ、あの、ご病気とかではないようです。ただ、その」

ああもう。はっきり言わないのが上品でリスペクトの表れだとでも思ってんのかね。

「ねえ、マリア」

ぎくっ。

「あなた、マリアだったわよね? 今までお名前で呼んだことなかったかしら? 

ごめんね。今度からちゃんとマリアと呼ぶわ」

「……そんな、勿体ないことでございます! 私はただの名無しの侍女でございます!」

「ちょっと、マリア、聞いて? そんなに卑下しちゃダメ! 

あなたは侍女という立派な仕事をしてくれてる。

このクソデカい宮殿で嫌な顔一つせずに私に仕えてくれてる。

でも、ホントはそれ以外の細かい仕事もこなしているんでしょ? 

『名前のない家事』っていうか。知ってるのよ。いつもご苦労様。感謝してるわ」

「……エリザベート様!!」

あらら。

涙がブワッと洪水のように溢れ出した。

何もそこまで感動してくれなくても。と思ったが、確かに、

誰にも気づかれない家事をして、初めて誰かが認めて感謝してくれたら嬉しいかもな。

私だって、前の世界の姑、トシ子さんにこんな風に言われたらもっと優しくなれたかもな。

……と、反省している場合ではない。今はこっちの姑の話だ。


「マリア。いつもありがとう」

「エリザベート様!! 勿体なさすぎるお言葉でございます! うっ! 

マリアは嬉しくて嬉しくて……」

「よかったわ。で、話を戻したいのだけど、お義母様のご様子はどうなの? 

具体的に言ってくれる? 女同士じゃない。はっきり言ってよ」

マリアは一大決心したかのように息を大きく吸い込んで話し始めた。

「お肌に吹き出物ができて、その、お腹の、お通じがよろしくないようでございます……」

侍女は顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で言った。

なるほど、便秘と肌荒れね。

ただでさえプライドの高いお局様だ。自分の容姿に衰えが見え初めて、

お腹が張って苦しければ、八つ当たりもしたくなるというもの。

とくにこのマリアみたいに可憐な若い子には。

「お通じ、ね。――よし」

私はつかつかと厨房に向かった。

「ボリス! 出番よ!」

「はっ、皇妃殿下!」


そして小一時間後。

「白い特製デザート」と食物繊維を極限まで凝縮した秘密兵器を仕込んだ。


厨房で不敵な笑みを浮かべるのは、エプロン姿の私と、

私の「出汁教」にすっかり改宗した巨漢の料理長ボリス。

私は、現代日本から持ち込んだ(正確には現代編の私がスーパーで爆買いして涙した)

あの「菌」の力で、宮廷の牛乳をじっくり発酵させておいたのだ。

そう、現代日本の腸活の王様――特製濃密ヨーグルトである。

実は自分自身、ちょっと便秘気味だったのでちまちまとやっといたんだよね。


さらにその上には、宮廷の魔術で乾燥・粉末化させた根菜類や果物から作った、

水溶性・不溶性ダブルの食物繊維を配合した、特製の「とろ〜りベリーソース」のてんこ盛り。

日本でいうなら、オールブランとプルーンを極限まで美味しく煮詰めたような、

まさに「一発快腸」の悪魔のデザートだ。

「これより、皇太后陛下の御寝所へ突撃(クレーム処理)に伺います。マリア!?」

「は、はい!」

ちゃんと柱の陰で待機していたのね。うん、いい子だ。

「ついてきなさい!」

「はいっ!」


私はマリアとボリスを従えて、銀のトレイに載ったガラスの器を掲げ、

不機嫌の嵐が吹き荒れる姑の部屋へと足を進めた。

「お義母様? エリザベートでございます。ちょっとお邪魔いたします」

「引っ込みなさい! 食事を持ってきたのでしょうけど、脂っこい肉なんて見たくもないのっ!」


もちろん無視して扉を開けて入室した。

皇太后の寝室の前へ着くと、案の定、中から鋭い怒鳴り声と、

何かが激しく砕け散る音が響いてきた。

そっとドアを開けると、頭を抱えてガタガタと震えている男が一人。

私の夫であり、この帝国の最高権力者(笑)である、マザコン皇帝フランツだ。

「は、母上、どうかご機嫌を直してください! 朝食の肉がダメなら、

子牛のチーズメルトオムレットをせめて一口――」

「それも油まみれでしょうが! 引っ込めこのマザコン息子!」

実の母親に盛大に一蹴され、フランツがドアの前で涙目になっている。

そんなヘタレな夫の後ろから、私はヒールの音を響かせて優雅に近づいた。

「皆様、ごきげんよう。そんなところで何をしておいでですの、あなた?」

「ひっ……!? エ、エリザベート……!?」

ふいに声をかけられたフランツは、飛び上がるほど驚いて私を振り返った。

その顔は目に見えて引き攣り、必死に目を泳がせている。


……バツが悪い。猛烈にバツが悪い顔をしている。はん、分かってんだよ。

実は先日の大食堂での朝食改革の際、この男は私の気迫に圧倒されるあまり、

とんでもない失言をしたのだ。

私を自分の愛人の名、「エリシア」と呼んだのだ。


まあ、この帝国において、貴族が愛人を持つこと自体は「公認の嗜み」であり、

高尚なプラトニック恋愛文化として認められている。

こいつらがプラトニックなのかどうかは知らないけど、それはともかく。

だから愛人がいること自体は罪ではない。

ではないのだが――それとこれとは話が別だ。

宮廷の重鎮たちを朝食で胃袋から掌握し、

今や最恐の母上の寝所にまで堂々と突撃しようとしているこの「ガチ有能正妻」の目の前で、

別の女の名前を呼ぶなど、夫として、いや皇帝として致命的なウッカリである。

その証拠に私を見てやたらと怯えているではないか。

私は、すべてを見透かしているかのような冷徹で極上の笑みを彼に向けた。


(怒っているのか……!? やはり怒っているのかエリザベート!? 

あの日から私のことを『あなた』と呼ぶ声が、

どこか事務的な業務委託のベテランのような響きに聞こえるのは気のせいか……!?)

フランツが内心、勝手に恐怖の妄想を膨らませてガタガタと震えているのが手に取るようにわかる。

が、私は気にせずスルーする。

ぶっちゃけ、元クレーム対応担当の私からすれば、夫の浮気なんて

「他部署への業務委託(夫の世話)」くらいにしか思っていない。

怒るエネルギーがもったいない。

「そんなに震えて、お腹でもお悪いのですか? よろしければ、母上のご機嫌を直すついでに、

あなたの分もございますよ?」

「い、いや! 私は万全だ! どこも悪くない!」

「左様ですか。では、お通じと肌荒れに苦しむお義母様をお救いしてまいりますわ」

私はフランツをすっと通り過ぎて不機嫌の嵐が吹き荒れるベッドの姑の方へ進んだ。

「お義母様、大丈夫ですか? お顔の色が優れないと伺い、お身体を芯から整える、

特別な『純白の癒やしデザート』をお持ちいたしました」

部屋の中が静まり返った。

しばしの沈黙の後、姑が豪華なベッドカバーから顔を覗かせた。

確かにいつもより顔色が土気色で、額には無数の小さな吹き出物ができている。

絵に描いたような「お便秘でイライラしているお局様」だった。

「ふん、エリザベート。大厨房をそそのかして、今度は私に何を食わせる気ですか。

私は今、何も受け付けないと言ったはず――」

「まあ、そうおっしゃらずに。こちらの『特製・濃密ヨーグルトのベリーソース添え』を、

まずは一口だけ。お義母様のその気高き美貌を内側から濁らせている『悪しき滞り』を、

一瞬で洗い流す奇跡の逸品にございます」

私は優雅に一礼し、ガラスの器を差し出した。

皇太后は疑わしそうな目で、見たこともない「真っ白でドロドロした謎の液体」を見つめる。

お、くいついた。興味津々だ。

異世界には存在しないヨーグルトに。

「酸っぱい匂いがするわね……。私を毒殺する気ではないでしょうね?」

「滅相もございません。私の言葉が嘘かどうかは、

お義母様のその聡明なお身体が証明してくださいますわ」

私の自信に満ちた微笑みに圧されたのか、皇太后はフンと鼻を鳴らし、

恐る恐る銀のスプーンで白い液体と紫色のソースをすくい、口へと運んだ。

その瞬間――。

「……っ!? な、何これ……!?」 

皇太后の目が、これ以上ないほど丸く見開かれた。

周りで固唾をのんで見守っていた侍女たちやフランツに緊張が走る。

「酸味があるのに、信じられないほど濃厚でクリーミー……! それにこの紫色のソース、

果物の濃厚な甘みの中に、何か細かくて香ばしい『大地の恵み(オールブラン)』のような食感があって、噛むたびに楽しいじゃないの……!」

「お口に合いましたでしょうか」

「ええ、ええ……! 重たくないのに、なんだかお腹の奥が、

じんわりと温かくなって動くような不思議な感覚が……美味しいわ。美味しいわこれ!」

さっきまでの怒り狂っていた姿はどこへやら、皇太后は夢中になってスプーンを動かし始めた。

日本の最先端の腸活技術(ヨーグルト×ダブル食物繊維)が今、

異世界の絶対権力者の胃腸へとダイレクトに届き、凝り固まったお腹を優しく刺激し始めた。

「美味しい……! こんな素晴らしいデザート、食べたことがないわ!」

あっという間に器は空になり、皇太后の頬には、さっきまでの土気色が嘘のような、

ほんのりとした赤みが差していた。

部屋の中には、わいのわいのと侍女たちの歓声が広がり、

緊迫していた空気は一瞬でオアシスのような平穏へと変わった。

そんな中、ドアの隙間からその光景を見ていたフランツは、

スプーンを握りしめたままガタガタと震えていた。

(ば、バカな……! あの偏屈で一度怒ったら手が付けられない母上まで、

一瞬で笑顔にしたのか……!?)


母上を完璧に味方につけた正妻。そして、その正妻の前で愛人の名前を呼んでしまった自分。

フランツは、次に自分がどんな「改造計画」の標的にされるのかを想像し、

ただただ恐怖に涙目を浮かべることしかできなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。