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5.胃もたれに苦しむ帝国貴族たち、皇妃特製「朝の雑穀粥」に救済される

大厨房を掌握した翌朝。

帝国の中枢である大食堂には季節の花々が豪華に飾られ、

窓からは朝日が差し込む。

これだけ見ればうっとりするような宮廷の朝食シーンなのだが、

実際にはいつも通りの重苦しい空気が漂っていた。


長テーブルには重厚な銀食器が並び、そこに鎮座するのは、

いつもなら山盛りのベーコン、脂の乗った羊肉のロースト、

バターを固めたような重たいペストリーの数々……のはずだった。

でも、私がここに来た今、そんなの許さない。

だって朝から油まみれのものばかり食べたくないんだもん。


「……な、なんだこれは?」


財務卿の老貴族が、目を丸くして目の前の深皿を見つめた。

白い磁器には、ふっくらと炊き上げられた雑穀と根菜の温かいお粥から

湯気が立ち昇る。

その横には、昆布と椎茸の出汁が香る澄まし汁と、焼き魚の切り身、

そして大根おろしが添えられている。


「ボリス料理長! 我が帝国の伝統ある朝食の肉はどこへ行ったのだ!」

「朝からこんな鳥の餌のようなものを食わせる気か!」

軍務卿をはじめとする大臣たちが一斉にざわめく。

毎朝の過食と胃もたれで顔色を土気色にしながらも、

見栄と伝統に縛られた貴族たちの不満が爆発しかけたので、

私の出番だとみて厨房から出た。

食堂の扉が開き、私が優雅に一礼して足を踏み入れ、

「皆様、おはようございます。今朝のお食事は、

わたくしがボリス料理長と考案いたしましたの」

後ろには、すっかり私の信徒と化した巨漢のボリスが、

誇らしげにお盆を持って控えている。

「こ、皇妃殿下……!?」

「皆様、毎日の国政へのご尽力、誠に頭が下がります。

ですが、お顔を拝見するに、

慢性的な消化不良と肝機能の低下が見受けられますわ」


クレーム対応の基本その三。

集団の不満に対しては、

「あなた方の健康と利益を最優先に考えている」という大義名分で包み込む。


「朝一番の胃腸に過度な脂質を送り込むのは、

燃え盛る暖炉に泥水を注ぐようなもの。

まずはこの『特製・雑穀薬膳粥』を一口お召し上がりください。

胃壁を優しく保護し、頭脳の回転を劇的に高める効果がございますのよ」


大臣たちが恐る恐るスプーンを手に取った。

まず口にしたのは、日頃から胸焼けに悩まされていた内務卿だ。

匙が口に運ばれた瞬間――。

「……っ!? 優しい……! 穀物の素朴な甘みと、

滋味深い出汁が喉を滑り落ちていく……!」

「う、美味い……! 重たくないのに、腹の底からじわじわと

力が湧いてくるようだ……!」

「汁物も素晴らしい! この大根おろしという白いすりおろし、

魚の脂を完全に中和しておる……!」


食堂のあちこちから、感動の吐息が漏れ始めた。

毎朝「義務」として脂っこい肉を胃袋に詰め込んでいた貴族たちにとって、

胃に負担をかけず染み渡る和風の朝食は、まさに砂漠のオアシスだったのだ。

あっという間に全員の皿が空になり、大臣たちの顔色にはほんのりと

健康的な赤みが戻っていた。

「素晴らしい……! 頭が冴えてきた気分だ! 

今日の御前会議はいつも以上に捗りそうですぞ!」

「皇妃殿下、万歳!」


拍手喝采が巻き起こる中、上座で一人、スプーンを持ったまま硬直している男がいた。

私の夫、皇帝フランツである。

「エ、エリシア……お前、大臣たちまで手なずけたのか……? 

母上だけでなく、宮廷の重鎮たちまで……!?」


ガタガタと震えながら私を見るフランツの瞳には、

「こいつ、何者なんだ……!?」という恐怖の色が浮かんでいる。

私はにっこりと極上の笑みを向けた。

「あなた。手なずけたなんて、何ということをおっしゃるの。ご安心くださいな。

次は、その青白いお顔と猫背をみっちり叩き直して差し上げますわ」

「ば、バカなことを言うな! 

私は朝は子牛のチーズメルトバターオムレットをしっかり食べないと調子が出ないのだ!」

「出ているのは調子じゃなくてその樽のようなおなかでしょ? 

そろそろ改造計画をはじめることにいたしましょう」

「ひ、ひぃぃっ……!」

マザコン皇帝の悲鳴が、朝の清々しい食堂に心地よく響き渡った。


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