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サロンのリラックスタイムと、ロマンス…未遂?

 大流行中の宮廷ウェルネスサロンの奥に設けられた秘密の花園。

最高級の深紅のシルクカーテンで仕切られた特別VIPルーム。

 そこは私と、今や私の最強の「共同経営者パートナー」となった皇太后様——

そう、いわゆる嫁姑だが、ここは私たちだけの秘密のオアシスだった。

いや、別に秘密ではないけど、オアシスであるのは間違いない。


「ふぅ……極楽、極楽。エリザベート、

この『こつばんちょうせい』というストレッチ、

本当にお腹の底から羽が生えたように軽くなるわね」

 極上のソファーに深く腰掛け、すっかりリラックスしている我が姑。

その隣では、私が配備した『イケメン護衛1号』が穏やかな微笑みを浮かべ、

完璧な角度とリズムで大きな高級扇を仰ぎ、

心地よい涼しい風を私たちに送り続けている。

「お気に召して光栄ですわ、お義母様。日頃の激務の疲れを癒やすには、

骨盤を立てて呼吸を深くするのが一番でございます」

「本当にね。……ねえ、エリザベート。

身体が楽になったところで提案なのだけど」

「はい? 何でございましょう?」

「たまにはお茶ではなく、もう少し濃度の濃いものをいただかない?」

「はい?」

 皇太后様がいたずらっぽく微笑む。

侍女に持ってこさせたのは、極上のヴィンテージ赤ワインだった。

「まあ、ワインですの?」

「ええ。ロマナ・コンティエラよ」

「おお!」

「宮廷の堅苦しい夜会なんてクソ食らえよ。

あんな油まみれの男たちの自慢話を聞くよりここであなたと、

こうして美しい騎士たちの筋肉を眺めながら飲むお酒の方が、

何万倍も価値があるわ。話したことなかったと思うけど、実は昔、

娘が欲しいとずっと思っていたのよ」

(……はあ? あんなに嫁いびりしてたくせに?)

「今のあなた、何だか前より何というか、とっても親切で、

しかもしゃきっとしているというか、

本当に自分が生んだ娘のように思えるの」


(まあ、気が強いってところは共通してるかも。

でも、この最恐の姑、東京のトシ子さんが可愛く見えるくらいだったけどね。

きっと本物のエリザベートもさぞかしイジメられたんだろうな)

というのはともかく。今がよければとりあえずOK。

「同性同士でこんなクオリティタイムを過ごせて最高だわ」

……このお義母様、完全にこっち側のガチオタ(同担)に覚醒している……!)


 元クレーム対応担当の私は、内心、快哉を叫ぶ。

 世の嫁姑は敵対したり愚痴を言い合ったりして無駄なエネルギー、

そしてストレスをため込みがちだが、私のポリシーは違う。

というか、こっちに来てから自分自身、変わったのかも知れない。

環境がガラリと変わったんだから、それもそうか。

ま、とにかく、「使える資源(権力)は最大効率で使い、最大の味方にする」

これっきゃないだろう。


 お義母様だって、最初から最恐の化け物だったわけじゃない。

かつてはこの過酷な宮廷で、

コルセットに締め付けられながら必死に生きていた、

一人の乙女だったのだ。たとえ今はその片鱗が一ミリもないとしても。


 その隠された「本音」を掴んでシェアしてあげることこそが、

最強のマネジメントである。

話を聞く。同調する。エンパシーってやつ。

そして好きなものを見つけて共有する。

私たちの場合、それが

1.楽な服装に切り替える

2.食べ物や飲み物を調整して美味しく健康に過ごす

そして、

3.イケメンたちを揃え、心置きなく愛でる

とりあえずこんなところだが、

これだけでもあの口うるさく厭味ったらしい姑が、

ほぼベストフレンド(彼女曰く)、少なくとも同志になったのだ。

私って凄い。


と自画自賛していると、

次女がイケメンたちをちらっと見て頬を染めながらお盆を持ってきた。

「どうぞ。年代物のロマナ・コンティエラでございます。

それとチーズプレートに野菜スティック、

デニッシュ生地のミニ…ホット、ドッグ……でしたっけ? 

とチーズ…バイガーでございます」

私は彼女ににっこりと微笑む。

「ありがとう。『バーガー』だけど、それだけ近けりゃ十分!

よく名前をマスターしてくださいましたわね」


そう、私がシェフたちに手ほどきして今や軽食人気ナンバー1となっているのが、

宮廷風ホットドッグとチーズバーガーだ。

東京やロサンゼルスなどでよくあるやつのハーフか三分の一サイズ弱にした。

だって、そうすれば色々食べられるでしょ?

ああ、みんなが言うことを聞いてくれるこの快適さ。

クレーム処理担当者の頃には味わえなかったラグジュアリーだ。


「では、乾杯しましょ」

「はい、お義母様」

「私たちのホワイト宮廷ライフに――乾杯!」

「乾杯!」


深いルビー色の液体が熟した葡萄の香りを放つ。

目と鼻が喜ぶ。

「んんんんんっ……!! お義母様、最高です!」

「でしょ? ぐぐっといきなさい、ぐぐっと」

「では、遠慮なくいただきますわ」


 最高のイケメンが風を送る。イケメン護衛1号である。

 背後でそっと肩を揉んでいるのがイケメン護衛2号。

 バラの花びらを浮かべた足湯を適温に保ち、静かに微笑んでいるのが3号。

 ふわふわ厚手のタオル係は4号、ワインを注ぐどハンサムが5号、

 空になった皿を次女に手渡すのが6号――

 という具合に、32人のイケメンヘブンで目の保養をしながら女二人で酒盛り。

 楽しすぎて二人とも飲みすぎないわけがなかった。

 


(う……頭が、痛い……。ここは……?)

 気がつくと、私は自分の寝室のベッドの上に横たわっていた。

完全に二日酔いだ。頭がガンガンする。

 ゆっくりと目を開けた、その時だった。う。朝日が眩しい。


「――お気づきになられましたか、エリザベート様」

 すぐ目の前に、夢のように整った顔が心配そうに私の様子をうかがう。

 私のベッドの傍らに跪き、

サファイアブルーの瞳を潤ませて私を覗き込むのは、

聖騎士団長(イケメン33号)。

 彼の長い指先が、心配そうに、私の額にそっと触れる。

その距離、わずか数センチ。

「昨夜は皇太后陛下とかなりお召し上がりになられたと聞き、

心配でお部屋の外で見守らせていただいておりました」

「ま、まあ」

「今朝ほど、侍女のマリア様がお部屋に入れてくれて――。

いえ、もちろん躊躇したのですが、やはり気になってしまって。

心配な気持ちの方が勝ってしまい、

図々しくも入室してしまいました。どうかお許しください」

「許すだなんて……あなた寝てないのでしょう?」

「一晩くらい寝なくても平気です。それに、

あなたが気がかりで眠れるわけがない」

「まあ…… あうっ!」

「大丈夫ですか?」

「あ、ええ、大丈夫です。頭がちょっとガンガンするだけですわ」

「どうかご無理はなさらないでください。貴女に何かあれば、私は……いえ……」

私は……何? 

「お顔が赤いです。お熱があるのでしょうか。失礼します」

 私の目の前、数センチ――

いや、数ミリくらいのところまで近づくウッディな香りの君。

おでことおでこを合わせる。ああ、昔はこうやって熱を測っていたのね。

余計にヒートアップしそう。

ちょっと、こんな展開、予想すらしていなかったぜ。


 低く響く、極上の甘い声。

 朝の木漏れ日を浴びて、イケメン33号のサファイアの瞳が、

バキューンと私を射抜いてくる。

 心臓がバコバコ、爆音を立てる。

 あまりの美しさと完璧すぎるロマンチックなムードに、

私の脳内の「既婚者バリア」が一瞬で消し飛んで、魂が吸い込まれそうに――。

「あ……」

……タイム。

「エリザベート様……?」

……タイムアウトだってば! お願い。

 吐息が触れ合うほどの至近距離の、その瞬間。

私の中でいきなり警報が鳴った。

 あ、ダメ。ダメだ。ガチで胃がひっくり返りそう! 

十秒前――七秒前——

「――うっぷ!!」

「えっ!?」


 私は自ら、極上のムードを音速でぶち壊さざるを得なかった。

青い顔でベッドから飛び起きて、

口を抑えてトイレへと脱兎のごとく猛ダッシュした。


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