38-10.
サルトスは王都を離れる前にもう一度工房をたずねて来るようにと言っていた。
「いやあ、君たちのおかげで、アルルーンたちが生き生きしているよ! ありがとう!」
「いいえ、こちらの方こそ、力を貸していただきまして」
ミオが丁寧に頭を下げるななめうしろで、メイも同じようにした。
ふたりからしてみれば、チロとジェイクが仲良くなっただけで、なにがどう不思議生物の琴線に触れたのかわからない。
「そうそう、【西方のハシバミ】は知っているね?」
「はい。錬成時の素材の溶媒となるものですね」
「うん。そのほかの効能があるのは知っている?」
「いいえ」
「そうか。じゃあ、今日のお礼に良いことを教えてあげる。【西方のハシバミ】は水脈や鉱脈を見つけるのにも用いられたんだ」
「えっ?!」
鉱物を扱うことを得意とするメイが目を見開いて上半身をのりだすようにする。
「【魔水晶】と錬成するんだよ」
「【魔水晶】かあ」
メイはがっくりと肩を落とした。【魔水晶】はその名の通り、魔力を通しやすい水晶である。通常の水晶よりも高価だ。
「【魔水晶】、見たことない?」
「ありません」
生きているうちにお目にかかれる機会などないだろう。さすがに、サルトスは取り扱ったことがあるかもしれない。
「じゃあ、この<鉱物探知機>をあげるよ。その【魔水晶】と【西方のハシバミ】で錬成したものなんだよ」
サルトスは棚をひっかきまわして見つけてきた先が二股に分かれた杖を、はい、と気軽に差し出した。
「え?! そんな貴重なもの、いただけません!」
「でも、【魔水晶】はちょっと手に入らない代物だからね」
なお、【魔水晶】は希少であると同時に、錬成するにも難しいと言われている。
「だったら、なおさら、いただけませんよ!」
しかも、口ぶりからすると、サルトスが錬成したようだ。Sランク錬金術師が世にも貴重な素材を用いて錬成した魔道具。
怖くて触れることすらできない。
いや、触ってみたら、錬成力が向上するご利益があるかもしれないくらいの、ミオやメイにとっては神器に等しい代物だ。
やる、もらえない、と二股の杖は行ったり来たりした。
それを見ていたアルルーンたちが棒きれで真似をしていた。ふた株が向かい合って棒切れを互いの根っこで巻き付け行ったり来たりさせる。
サルトルが噴き出し、ミオとメイもつられて笑う。
「じゃあ、こうしよう。これは君たちに貸してあげる。いつか僕に返しに来て。その時までにどんな錬金術を使ったか、聞かせてもらうのを楽しみにしているから」
そんな風にして、ミオとメイは地中から発する鉱物の反響をとらえることができる<鉱物探知機>を借り受けることとなった。
「それと、これと、」
「そんなにいただくわけには———これは、【あまいねリコリス】ですか?」
ミオは恐縮しつつも、書物の中でしか見たことのない植物に興味津々である。
その名の通り、根が甘い。
「うん、そうだよ。で、こっちは【天界に咲くリコリス】と言われるものだ」
「同じリコリス?」
「いいえ、こちらは球根植物だわ。全く違う。なにかしら」
サルトスが取り出したものをメイとミオがのぞきこむ。植物に詳しいミオも後者の方は初見らしい。
サルトスは同じ名を持つけれどまったく性質の違う「リコリス」を調査してごらんと笑った。それで、遠慮したものの、結局受け取ることになった。
サルトスは信頼するジェイクが認める錬金術師姉妹に直接会って話し、さもありなんと思った。ジェイクが自分を頼ったのがうれしかったこともあって、姉妹にあれこれ渡そうと思った。同じ錬金術師だから、ジェイクに渡すよりも彼女たちの方が有用に使うだろう。ジェイクもアルルーンにそう言っていた。
「これは【まもりんマレイン】。それと、【妖魅の石】ね」
だからといって、あれもこれもと引っ張り出してきて、盛大にミオとメイを恐縮させたのだった。
ジェイクにはなにかあったら、これで連絡してこいと<クルッポの通信機>を渡していた。高額な魔道具だ。ミオとメイが驚く。
そうして、サルトスが手を、アルルーンたちが根っこを振りながら見送られ、三人と一匹は岐路についた。
「なうん!」
わさわさわさっ。
「お世話になりました!」
「ありがとうございます!」
「急に手紙を送りつけたのに、いろいろ手配してくれて、ありがとう」
「君たちの役に立てたのなら嬉しいよ。僕の方こそ、アルルーンの劇的な変化に対して礼を言いたい。また、アントウェルへおいで」
それぞれが別れを惜しむ。
アルルーンたちはサルトスの足元にこんもりと群れ、しきりに葉を、根っこを揺らしてチロにアピールした。
チロもまた鼻をうごめかし、ひげをしおたれさせてしょんぼりする。
ジェイクは苦笑してチロをバスケットの中へ入れた。
わさわさっ。
「ああっ」とでもいう風にアルルーンたちがそよぐ。
「また来ような」
ジェイクが前かがみになって、バスケットをサルトスの足元、アルルーンたちの方に向ける。
「なうん」
チロがバスケットの縁に両前足を乗せる。
「その時はまた仲良くしてやってくれ」
アルルーンたちに視線をやると、わっさと大きくうなずく。いや、葉を上下させる。
そうして、一行はサルトスの工房を後にした。




