38-4.
査問会議の行われた部屋を出ると、メイとジェイクが待ち構えていた。バスケットに入ったチロも。
「どうだった?!」
メイが詰め寄る。
「事情を話したら、すんなり受け入れられた」
「へ?! そうなの?」
「うん、わたしも拍子抜けした」
特にしつこく追及されることもなかったと言うと、その場の空気が弛緩する。
「よ、良かったあ」
メイはその場にへたり込んだ。安堵から腰が抜けたのだ。
「あ、それでね、」
「今度はなにい? もう驚かないわよう」
座り込みつつまなじりに涙を浮かべるメイが間延びした声を出す。
「わたしとメイ、ランクアップ試験に受かったんですって」
「へ?!」
メイが素っ頓狂な声を上げる。
「ランクアップしたんですって」
「そうなの?!」
「なんだか、わたしたちが送った提出物を見た人がいたの。<ブモォォの槍>のことも知っていたわ」
「どうして?!」
「分からないわ。ただ、特許を取得したのだから、それで興味を持ったのかも」
そんな風に話し込むところへ、声がかかる。
「ジェイク、ジェイクじゃないか! 久しぶりだね!」
廊下の向こうから細身の男性がやって来る。ジェイクだけではなく居合わせた全員の視線がそちらへ向く。
「あれ、あの人、」
「知っている人?」
「さっきの審問会に出席していた人。ほら、ランクアップしたって教えてくれた人」
「えぇ?!」
ミオとメイのやり取りをよそに、ジェイクが言う。
「走ると危ないですよ。転びます」
ジェイクは珍しく敬語を用いたことに、ミオとメイはすぐに気づいた。
「そんなこと、」
ないよ、とでも続けたかったのだろう。しかし、ジェイクの言葉通り、彼はつんのめった。なにもない廊下で。
ミオとメイは顔を見合わせる。メイはその段になってようやく立ち上がった。ようやく平静さをいくぶん取り戻しつつある。
ジェイクはたたらを踏む男に素早く近づいて腕を取って支える。
「今、簡単に話を聞いていたところです。ずいぶん、骨を折っていただいたようで」
「ふふ。この前、杖を送ってもらったお礼だよ」
そのやり取りから、彼がジェイクの知人の錬金術師で、今回のことに口添えをしてくれと頼んだ相手だとわかる。
「あの、ありがとうございました」
「ありがとうございます!」
ミオとメイはとにかく礼を述べて頭を下げた。
もしかすると、ミオの言い分がすんなりと受け入れられ、反対尋問のようなことが一切なかったのは彼のおかげかもしれない。ただ、審問会がどのような結論を下すかはまた別の話なので楽観視できないが。
「審問会に出ていたそうですが、出口は別にあるんですね」
「ああ、うん。受ける側と出会わないように別室を通って行くんだよ」
「なるほど」
よく考えられている。
「今回は災難だったね、ミオ君」
「え、あ、はい」
「こんなところでなんだから、僕の工房へ行って話そう。昨日もたずねてくれたんだって?あいにく出かけていてね。せっかくだから、これまでのことを聞かせてほしいな」
彼はいわばミオの恩人である。その彼の誘いをむげに断ることはできない。
「王都の錬金術師の工房!」
メイなど、期待で目を輝かせる。
「ははは。大分散らかっているけれどね」
「あ、そういえば、おじさんからお弟子さんがたくさんいらっしゃると聞きました」
そういえば、とミオも言う。
「そうなんだ。大所帯でね」
「あのっ! <パオンの圧縮機>をお持ちなんですよね!」
メイがぴっと姿勢を正してたずねる。
「うん、でも、あれ、出し入れが面倒で」
「そうらしいですね。それで、おじさんが筋肉痛になったんですよね」
「ははは。やだなあ、ジェイク、僕のことを結構話しているんだ?」
いやだと言いつつ、非常ににこやかだ。会わない間も自分のことを話題に持ち出されて思い返されていたことが嬉しいのだろう。
「彼女たちは同じ錬金術師ですしね」
「君がアントウェルを離れて大分経つけれど、忘れ去られていなかったなんて、うれしいよ」
やはりそうか、とミオとメイは視線をかわす。
「<ブヒブヒのかばん>に好物を入れて、他の物を食べないようにしているとか! 発想の転換ですね!」
「そう?」
男はにこやかに興奮気味のメイに受け答えする。
さて、男は錬金術師組合本部を出て待ち受けていた馬車に乗った。その時点で、ミオとメイはさっと視線を交わす。自然な様子で乗り込み、ジェイクらを促す様子に、これは相当高ランクの者だと確信する。
もしかすると、Aランク錬金術師かもしれない。ふたりは同じことを同時に考え、そして、とたんに緊張しだした。
馬車が止まった工房は四階建ての大きな館だった。階数は同じだが、なんなら、錬金術師組合本部よりも大きいかもしれない。後から知るのだが、吹き抜けの大きな第一工房が相当広いのだ。ミオとメイの錬金術工房の建物がすっぽり入ってなお余裕のある空間だ。
建物には煙突がいくつもある。そこから予想した通り、炉がいくつもあった。そして、工房も複数あった。
だが、更なる驚愕が待ち受けていた。
「おかえりなさい、サルトス師」
忙しく立ち働いていた弟子が一斉に作業を中止し、頭を下げたのだ。
「え?!」
「サ、サ、サルトス師?!」
「ああ、そうだった。ごめんね、名乗るのを忘れていて。サルトスです」
「「Sランク錬金術師?!」」
おじさん、どんな人の護衛をしていたの?! 言っておいてよ!
ふたりの心の叫びはシンクロした。
世にも稀なSランク保持者である。査問会議の出席者も遠慮しようはずである。
伏線回収!
だいぶん前のことですが、覚えていらっしゃいますでしょうか。
忘れたころに顔を出すチート。




