35-2.
「そう言えば、ミオとメイは<チュウチュウの斥候>の改良を成功させていたんだっけな」
夕食時やその後に茶を飲みながら、ふたりのその日の成果を聞いて来たジェイクはしっかり覚えていた。
カリスタは事情の詳細は飲みこめないものの、問題解決の糸口が見つかりそうだと愁眉を開く。口を挟まないのは、ぼんやり描く解決策に確固たる道筋を通そうとするふたりの錬金術師の邪魔をするまいとしてのことだ。わきまえている。
「たしか、<ホケキョの呼び寄せ>は素材が開花していないとかなんとか」
かたや、ジェイクはふたりにとって良きアドバイザーであり、合いの手みたいなものであり、ふたりの思考の邪魔をするのではなく、追い風となる。
「それは、この間のランクアップ試験の指定課題だったから、多めに取ってきていたの」
「いちから魔道具を作り出すのは難しいかもしれないけれど、改良だったら、今までもなんどかやってきたもの!」
そして、失敗をしつつも、成功も納めてきた。
「鳴き声シリーズはその鳴き声の動物の特性を色濃く持っているから、もしかしたら、」
ネズミ駆除の役に立つ魔道具が作れるかもしれないとまでは言い切れないが、という風情のミオに、ようやくカリスタは口を開いた。
「いや、いろんな方策を持っていたいというだけさ。人海戦術で駆除しても、相手は小さくてすばしっこい生きものだ。あちこち入り込まれたら、こっちはお手上げだ。それに対する手を、先んじて作って置こうというだけだ」
ただ、これはギルドやリージュ市からのふたりへの正式な依頼ではないというカリスタは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「だから、もし、その魔道具なり薬なりが失敗したら、報酬は払えない———いや、わたしが払うが、そう多くは出せない」
「そんな、いいわよ、カリスタさんから取ろうなんて!」
「そうよ。わたしたちもちょうど<ホケキョの呼び寄せ>の改良をしようと思っていたんだもの」
「そうだな。ふたりは錬金術師として現実に起きたことへの対処する魔道具や薬を作ると言う得難い経験ができるんだ。なんなら、ふたりへの報酬は俺も出そう」
「い、いいわよ、おじさんからもカリスタさんからももらわないわ。おじさんが言うとおり、これはとても良い勉強になるんですもの」
ジェイクまで私財をなげうつと言い出して、ミオがあわてる。話すうちに、そんな気持ちになって来る。今までやってきたことが土台となって、現実に立ち向かう材料のひとつとなっていたのだ。
そして、同じようにメイも考えたようだ。
「そうだよ! 今までやってきた研究が役に立つかもしれないなんて、錬金術師冥利につきるってものよ!」
メイの良い様にカリスタがふはっと吹き出す。
「ミオもメイも良い錬金術師だねえ」
「違いない」
ジェイクがしみじみとうなずく。
「もう、おじさんもカリスタさんも身内びいきが過ぎるわ!」
「まあ、褒められて悪い気はしないけれどね」
ふたりはジェイクとカリスタに報酬はいらないと言い張った。
「それに、もし失敗したとしても、今年のリージュ市への年末申告に、「ねずみ駆除のために尽力しました」って貢献度申請しておくから」
メイがちゃっかりそんな風に言う。
「確かに、失敗したとしても、いち市民としてリージュ市のために働こうとしたことには違いないものね」
「ね。税金が抑えられたら言うことなし!」
ミオとメイは顔を見あわせ、首をすくめて笑った。
そんなふたりを、ジェイクとカリスタが頼もしげに、微笑ましげに眺めた。
ジェイクとカリスタは話し合った翌日からネズミ駆除に出かけた。
「一応、ギルドにはミオとメイがネズミ退治に有効な魔道具や薬が作れないかとあれこれやっていると伝えておくよ」
出かける前にジェイクはそう言った。
もし、魔道具なり薬なりが出来上がったとしても、それを採用されるかどうかは分からない。
「ケイトたちならうまいことやってくれるさ」
今までなにかと付き合ってきたから、ミオとメイの錬金術には信用があるだろうとカリスタが付け加える。
ミオとメイはジェイクとカリスタに弁当を持たせて見送った。
そして、工房へ入って<ミオとメイの錬金術レシピ帳>と錬金術便覧をめくる。
<チュウチュウの斥候>
離れた場所に入る敵の様子を探る(地上)。障害物もなんのその。隙間に潜り込む。
食べ物に弱い。良い匂いを嗅ぎつけると、引き寄せられ、役に立たなくなることもある。
<チュウチュウの斥候>は【立ち尽くす芍薬】、【伊達と酔狂の赤石】、【まんぷくのエダウチオオバコ】を用いたところ、臭いにつられて失敗する確率が大幅に下がった。その後、数が少ないことから、【まんぷくのエダウチオオバコ】を使うかわりに、使用直前に魔力をこめることで代用した。
「<チュウチュウの斥候>は食べ物の匂いにつられるから、食欲に注目したわね」
それでアイテムが迷走する確率が大幅に下がった。
「【伊達と酔狂の赤石】の曲がりくねって伸びる性質を利用したのよね」
「今回も、ネズミがあちこち入り込むことにうまく作用してくれるといいわね」
<ホケキョの呼び寄せ>
美しい鳴き声で魔物を呼び寄せる。
素材集めの時に使用するが、誘引しすぎに注意。
レベルが低いと、中々集まってくれない。
「ええと、<ホケキョの呼び寄せ>には【苦みばしった青石】、【苦みばしった緑石】、【苦みばしった白石】が有効だと思われる、って書いてある」
以前、自分が書いたメモ書きをメイが読み上げる。
数か月前のことだが、懐かしさすら感じる。
「呼び寄せ、誘引、美しい鳴き声……【誘惑のスイカズラ】が有効ではないか」
自分の走り書きを読んだミオが今度は錬金術素材一覧を引っ張り出してきた。
【誘惑のスイカズラ】
花開くと辺り一帯に甘い香りを発し、誘引する。花の蜜は甘い。
咲き始めは白で徐々に黄色に変化する。香りは白い花の方がする。
開花時期は5~8月。
ふたりは<チュウチュウの斥候>、<ホケキョの呼び寄せ>そして【誘惑のスイカズラ】を用いて、ネズミを呼び寄せることはできないか、試行錯誤を重ねた。




