34-2.
春分を迎え、ミオとメイはさっそく王都にある錬金術師組合本部へランクアップ試験の申込書を送った。
その際、ミオとメイの姉妹で申し込むことと、自由課題をふたりの合作で提出しても良いかという質問事項を添えておいた。
送った直後、ふたりは無駄に高揚して張り切っていた。
鼻息荒い姉妹を心配するジェイクを冒険者稼業に送り出し、カリスタに店番を頼んでチロを護衛に森と山、川跡で採取を行った。そして、そのままの勢いで薬をたくさん作った。もちろん、【がまん強いカラタチ】の入浴剤も大量生産し、小分けにして包み、三分の一をハントの冒険者ギルドへ送った。三分の一を店頭に置き、残りの三分の一を作成した薬といっしょにリージュの冒険者ギルドに持ち込む。
「薬の買い取りね。ミオちゃんとメイちゃんが一番乗りよ。もちろん、全部買い取るわ!」
「ハントの冒険者ギルドでも買い取るわよ。あら、送らなくても良いわよ。うちに持ってきてくれたらついでの時に一緒に手配するわ」
「きゃあ! 今年も入浴剤の差し入れ!」
「ありがとう!」
「ハントからもお礼の連絡が入っていたわ」
その後、今年の茶話会兼健康問診会の打合せを行った。
「ハントの方にも問い合わせておくわね」
よく気が回る。
「ミオちゃん、メイちゃん、今年はランクアップ試験を受けるんでしょう?」
「そろそろ受付が始まるわよね」
「ということは、課題物提出はそのすぐ後ね」
冒険者のランクアップ事情だけでなく、他の職業のものまで把握している。流石の情報通である。
「その準備があるでしょうから、茶話会兼健康問診会はうちもハントもその後にしましょうね」
すばらしい気遣いである。
今年も冒険者ギルドとの取引がうまくいきそうである。
「ケイトさんたちが言うとおり、要綱と指定課題案内書が届いたら、そちらに専念したいわ」
「きっともう、それで頭がいっぱいになっちゃうわね」
そんな風に話せるほどにはトーンダウンしてきた。
ふたりは組合から通知が来るまでにメンテナンスに回り、その後は工房に置く薬やハーブティ、干し果物を作成することにした。その合間に、レシピ帳や錬金術便覧、錬金術素材一覧を読み込む。やるべきことと、できる準備をしておこうとしたのだ。
そして、ふたりの下に、錬金術師組合本部より、要綱と指定課題案内書が届いた。
受け取った通知を工房の作業台の上に置いたまま、ミオとメイはじっと見つめた。
視線をかわして無言で互いに開けることを押し付け合う。しばらくの攻防の結果、ミオがおずおずと手を出し、包みを開く。
取り出した文面に視線を走らせる。メイが待ちきれなくて、覗き込む。
「やったわ、メイ。自由課題はふたりの合作で提出してもいいって!」
「じゃあ、予定通り<コケコッコの時計>のカスタマイズね!」
すでに出来上がっている。説明書も書き上げた。
つまり、自由課題は提出できる状態だ。
「問題は指定課題ね」
ふたりは紙面に視線を走らせ、しばし無言となる。
「あら、これって、」
「姉さんが受けたのと同じ感じじゃない?」
「そうみたいね。素材と魔道具の内容が違っているだけだわ」
素材や魔道具に関してのなぞかけの中からひとつ選んで答えるものだ。
その中から、ミオはとある植物に関して注意を惹かれた。
「指定課題その15:「黄金でもあり銀でもある花」」
「これって【誘惑のスイカズラ】のことじゃないかしら」
「<ホケキョの呼び寄せ>で使おうと思っていたもの?」
「そうよ。咲き始めは白色で徐々に黄色に変化するの。これが銀から金へということね」
ミオが読み上げたように、他の課題もなぞかけみたいな文が続く。メイはそのひとつに目を止めた。
「指定課題その18:「魔力を通し、あるいは通さない物質」」
「あ、わたしはこれ、分かったわ。【やわい石墨】ね」
【やわい石墨】は蜂の巣のような構造を持っており、この構造の平行方向だと魔力が良く通り、垂直方向だと魔力が通りにくくなる。また錆びにくい性質を持っているので魔道具に用いられやすい。
紙面に向けていた顔を上げ、互いに見合わせる。
「分かっちゃったね」
「あとは手に入れるだけね」
呆気ない。
気負っていた分、拍子抜けしたふたりは、ぼんやりと突っ立っていた。
昼を大分過ぎても声が掛からないことに不審に思ったカリスタが顔を覗かせて、ようやく我に返る。
事情を話したところ、カリスタは破願した。
「いやあ、すごいね、ふたりとも。ランクアップ試験なんだから、そこそこ難しいんじゃないのかい? ああ、そういえば、ミオとメイはEランクとFランクだろう? ランクが違うのに出される課題は一緒なのかい?」
「FランクとEランクに送られてくる要綱と指定課題案内書は同内容なのよ。自由課題の出来次第を見られるのだと思うわ」
「錬金術師の組合員も増えているみたいだしねえ。組合の方でもいちいち細かく分けて見ていられないのよ」
メイがうがった見方をするのに、カリスタが吹き出す。
「ミオはDランクに、メイはEランクに挑戦するんだな」
「そうなの。Dランクかあ。いっぱし、なのよねえ」
「わたしははやく駆け出しから脱したいわ!」
カリスタの言葉にミオはまだためらう風情を見せ、メイは最下層から上へ登りたいと言う。
「ふたりは順当に力をつけていっているよ」
「カリスタさんは最高峰ランクにまで上り詰めたのよね」
「まあな。とは言っても、この時代にはSランクが三人もいるから、気楽なものだったさ」
やはり、頂点に立つのは胸がすく分、重荷にもなるという。
「そう言えば、冒険者にもSランクの人がいるのよね」
「剣聖と言われているね」
ミオの言葉をカリスタが称号を挙げて肯定する。
「で、騎士とかどこかの誰かに仕えているのではなくて、冒険者稼業をしているのよね!」
「冒険者の憧れだな」
うきうきと言うメイに、カリスタがどこか誇らしげに言う。
「バートさんもそんな風だったわよね」
冒険者たちの尊敬や憧れの的の存在なのだろう。
「錬金術師にもSランクの方がいるのよ!」
メイが負けじと言う。
「残るひとりは魔術師だったな」
現在、Sランクの称号を持つ者は三人いる。その座に就くことが稀であることから、同時に三人も存在するのは奇跡であるとも言われている。
「あら、もうこんな時間! お昼にしましょう」
「本当だわ! カリスタさん、待たせてごめんね」
はっとミオが顔を上げ、メイもあっと声を出す。
「なにか買って来ようか?」
いつになく余裕のなさそうなふたりに、カリスタが心配する。
「ううん、下ごしらえは終わっているの」
「すぐにできるから、もうちょっとだけ待ってね!」
ふたりは丁寧に要綱と指定課題案内書をしまってから、大慌てで工房を出て行った。




