34-1.ランクアップ試験
冒険者だけでなく、錬金術師や魔術師といった組合に所属するものはランク付けされている。ランクとは目安である。その位置にいるだけの実力があるとみなされるのだ。
錬金術師ならば、このランクが上がれば、取り扱い許可素材が増える。
認可素材とは、知識がない者が危険物を使用し、周囲に有毒ガスをまき散らして、錬金術師組合自体の存続が危ぶまれた過去のできごとから制限を設けた制度だ。もちろん、世の中にはまだ知られていない素材は沢山ある。「錬金術素材一覧」にないものに手を出してみたいというのはどの錬金術師も一度は考える。
錬金術便覧の中にランクアップ試験についても触れられている。
組合からランクアップ試験を受けるように言われているミオとメイは試験申し込みが開始される時期が近づいていることから、便覧を引っ張り出して要綱を読みこんだ。
◆ランクアップ試験について
一、試験課題
①指定課題
錬金術師組合(以降、当組合、もしくは組合と記す)が指定する課題(複数事項より選択)の各条件を満たすものを提出。
※毎年変更する。
②自由課題
自ら選定した錬金術に関する素材、魔道具、論文を提出。
※素材、魔道具の提出の際には説明書を添付のこと。
③活動報告書
現在のランクについてからの活動報告書を提出。
二、受験資格
・Aランク:当組合のBランクを有する者及び複数組合員によって同等の知識・技能を有すると認められた者。
・Bランク:当組合のCランクを有する者及び複数組合員によって同等の知識・技能を有すると認められた者。
・Cランク:当組合のDランクを有する者及び複数組合員によって同等の知識・技能を有すると認められた者。
・Dランク:当組合のEランクを有する者及び複数組合員によって同等の知識・技能を有すると認められた者。
・Eランク:当組合のFランクを有する者及び複数組合員によって同等の知識・技能を有すると認められた者。
三、申込期間と課題提出期限
・申込期間:春分から三十日間。
・提出期限:夏至必着。
※各年の試験要綱及び指定課題案内書は順次送付する。
四、申込方法
・組合本部ランクアップ試験申込窓口へ持込み。
・組合本部ランクアップ試験申込窓口へ配送。
※配送の際には必ず要綱及び指定課題案内書送付住所、錬金術師組合員番号、ランクを明記すること。
五、提出方法
・組合本部窓口へ持込み。
・組合本部窓口宛てへ配送。
※配送の際には必ずアントウェル(王都)の錬金術師組合ランクアップ試験課題窓口と明記すること。
※配送、組合に持込みのどちらも、必ず氏名住所、錬金術師組合員番号、ランクを明記すること。明記されておらず、後から申し出があっても受け付けない。
※危険物の配送には特別配送便を用いるか、本人あるいは代理人が持ち込むこと。
丹念に読みこみ、ふたりは便覧から顔を上げた後、ふうぅっと息をついた。
「これってさあ、配送だけじゃなく持込みの時にも氏名住所、組合員番号を書くように、って部分にある「後から申し出があっても受け付けない」と書かれているということは、誰の提出物か分からないものが結構あるってことなんだろうね」
「そうね。提出物を作り上げるのでいっぱいいっぱいになって、必要事項を整えないで送っちゃう人が少なからずいるんでしょうね」
ミオの言葉にメイがうわあ、という表情になる。
「やだあ、せっかく一生懸命に作ったのに、全部パァになっちゃう!」
「本当ね。全部なかったことになってしまうわね」
その年のランクアップは望めないということだ。
「指定課題なんか、毎年変わるんでしょう?」
「無駄になるということね」
ミオとメイは顔を見あわせた。
「わたしたちはちゃんとやりましょうね」
「うん! ふたりで二回ずつ確認しよう」
ミオとメイは見落としている。
その前に、申込用紙を配送した際、自身の住所を明記するように記載がある。つまりは、申込時点ですでに舞い上がってうっかり住所を書き忘れれば、いつまでも要綱や指定課題案内書が来ないということだ。
ともあれ、ふたりは気持ちを落ち着かせるハーブティーをいれてひと息つく。
「危険物の配送なんてあるんだね」
「<ブモォォの槍>ですら、普通配送便で送れたのに。特別配送便を使うか本人や代理人が持ち込むことを指定されるような代物ってどんなものなのかしら」
「ちょっと衝撃を与えると、ドカンと爆発するとか?」
「それはあまりにも危険すぎるわ。そうではなくて、壊れやすいとか、回路が繊細だということではない?」
「でも、危険物って、書いてあるよ?」
「壊れやすいものを普通配送便で送って破損があったら、失格、ということなのかもしれないわ」
「シビアね」
指定課題、自由課題の他、現在のランクにおける活動報告書を提出する必要がある。長い期間、無為に過ごしたとみなされれば、どれほど課題で素晴らしい成績を挙げても、ランクアップに値しないとみなされることもあるのだという。
「あ、これは年末申告をベースに書けば良いとおばあさまから教わったわ」
ミオの言葉にメイがみっつのうちのひとつはそう時間をかけないでも済みそうだと安堵する。
「年末申告をまじめに書いていてよかったあ」
そして、ふたりであんなことがあった、こんなことがあったと話し合う。
一年を振り返ってみれば、多くのことがあった。
「なんとかやってこられたわね」
「はじめは、どうなることかと思ったわねえ」
すっからかんだった財政を立て直すことに必死だった。明日のパンもあやういところまで追いつめられていた。
「おじさんを拾って良かったわね」
「本当ね」
その後、ふたりは指定課題はどんなものだろう、自由課題はどうしようなどと話し合った。
冒険者稼業をぼちぼち再開し始めたジェイクが戻って来て、夕食となる。
話題はもちろん、ランクアップ試験についてで、ミオとメイは交互に話す。食事が終わって片付け、食後のお茶を片手に話は尽きない。
ジェイクはミオとメイに断って錬金術便覧を持って来た。
該当ページを開きながら、なんの気なしに言う。
「そう言えば、ミオは一度受けてランクアップしているんだよな」
「そうなの。その時はおばあさまがいたから、不備があってもすぐに気づいて教えてくれたの」
それでも、師に任せっぱなしにせず、ミオ自身が行った。
「二年も前のことなんて、大昔のことを覚えていないわ!」
メイが目を見開いて言う。大げさのようにも見えるが、十代の少女たちにとっては時間の流れはジェイクとは違う。一日いちにちが長い。
「十年ひと昔とは言うけれど、ミオやメイにとっては一年二年は大昔なんだなあ」
しみじみ言うジェイクに、ミオとメイは顔を見あわせて首をすくめた。笑うのをこらえている様子だ。きっと、「おじさん、おじさんくさいよ!」とでも思っていることだろう。ふたりに険や嫌味がないので、そんな風にされても全く気にならない。笑うのをがまんしてくれるなんて、良い子たちだなあという気持ちが先にくる。
「ミオの受けたランクアップ試験の指定課題はどんなものだったんだ?」
「わたしの時は素材や魔道具に関してのなぞかけの中からひとつ選んで答えるものだったわ」
ジェイクの問いに大昔のことを思い出そうとミオは記憶を探る。
「なぞかけ?」
メイが気になるフレーズを繰り返す。
「そう。これこれこういう条件を満たす素材、魔道具を送りなさい、というものだったの」
つまり、それが課題物の提出ということだ。
「なるほど。条件を満たすものがどんなものなのか知った上で、それを手に入れなければならないということだな」
なぞかけの意味を正確に把握する必要もある。錬金術師に必要な資質であるといえる。良く考えられているな、とジェイクが感心する。
「そういうことね。物によっては、入手経路は問わないとあったから、素材屋や魔道具屋の伝手があるかどうかも見られているんだと思う」
「自分で採取したり、作らなくてもいいんだ!」
メイが目を見開く。
「もちろん、自分で採取したり、作る必要があるものもあったわよ」
「採取する必要があるんだったら、協力するよ」
「にゃうん!」
ジェイクの言葉に、眠っていると思っていたチロも鳴き声を上げる。自分も力を貸す、というところだろう。
「ありがとう、おじさん、チロちゃん」
「頼りにしているわ! わたしと姉さんのふたり分、お願いね!」
メイがちゃっかり言った。




