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32-3

 

 ミオとメイは錬金術師組合に所属する錬金術師である。

 組合費を納め、規則に沿うことによって、様々な恩恵にあずかっている。

 一年ごとに錬金術師としての活動報告(収支報告含む)を行う義務がある。また、工房を持つる者はその運営内容も報告する。それによって納める組合費が変わってくるから、みな、わりにまじめに取り組む。これは年末が締め切りであるため、年末申告という。


 ニューイヤーを迎える間際まで活動する者にとっては恐ろしいスケジュールであり、組合の方でも最終月の収支は概算で良いとしている。そのため、たいていの者は最終月に入った頃に、早々と収支の拾い出しを始める。

 そして、報告は収支だけではない。


「この控除申告がめんどうなのよね」

「扶養家族や弟子を育てているかで大きく控除されるから、大切な項目よ」

 ミオとメイは祖母を失った。家計の大黒柱であり、工房の運営者であり、錬金術師の師でもあった。このことを申告すれば、工房の主となった一年目の新米錬金術師は組合費を大幅に抑えられる。


「錬金術師組合だけじゃないのよ」

「あ、そっか。リージュ市の方もあったんだ」

 リージュ市で営利活動をする者は税金を支払わなければならない。所得金額の割合によって変わってくるが、こちらも控除項目がある。


 リージュ市としても、錬金術師組合としても、活発な活動を行うことによって得られる利益が大きいため、育てる方針を持っている。救済目的である各控除項目が物語っている。


 ふたりはうんうんうなりながらも、なんとか組合と市に提出する申告書を作り上げた。

「来年はもう少し早くから取り掛かりましょうね」

「うん。今年はあれだね、<ブモォォの槍>に夢中だったから」

 それでも、ふたりは黒字であることに喜ぶことにした。<ブモォォの槍>はその一端を担っている。




 ニューイヤーの前後は街のほとんどの店や工房を締める。食材を売る店はニューイヤーの直前までにぎわう。自身の経営する工房を店じまいをした後、慌てて買いに走るのだ。そうして、ぎりぎりまで経営していた者たちは時間に追われながら掃除をして、せめて多少なりともきれいにしてからニューイヤーを迎えようとする。


 ミオとメイの錬金術師工房は冒険者稼業を先に店じまいにしたジェイクが住居部分から店まで掃除してくれた。お陰で、ミオとメイは工房の掃除をするだけで良かった。一年使った器具たちを手入れし、素材の在庫確認がてら保存状態を確かめる。

 終わったら、ニューイヤーを迎える準備だ。


 買い物にはジェイクも連れていかれた。

 大容量バッグがあるのだから荷物持ちは不要なはずだが、いかんせん、食料品をかすめとられる危険性があるかばんなのだ。

 市場はすれ違うのも大変なほどの人出でここだけ冬の冷気は忘れ去られている。


「ふたりとも、気を付けろ———」

 ジェイクは言い差して止めた。ふたりはどこをどうやったものか、両側の店の商品に気を取られながらも、人にぶつかることなく買い物をしている。ジェイクなど、立っているだけでもやっとなのに、大したものである。


「チロを連れてこなくて正解だったな」

 チロは寒さに弱いというほどでもないが、それでも、夏ほどには出歩く機会は減った。誘えば、冬場でも狩りに出かける。現に、ニューイヤーの料理用にひと仕事終えた。

 高度知能を持つからか、ふたりの料理を食べる経験を何度もしているからか、率先して美味しそうな魔獣に向かっていく。危険な魔獣もチロにとっては歓迎するところなのだ。


 そうして、買い物を終えたふたりはニューイヤーの料理に取り掛かる。

 タマネギスープの他、サラダや魚料理、肉料理も作った。

 肉はジェイクとチロが【つっつきヤマドリ】を狩ってきたので、チキンのワイン煮を作ることにする。

「パスタも添えよう」

「だったら、もうお腹がいっぱいになりそうね」

 ヒソップやタラゴン、ローリエといったハーブとともに白ワインでチキンを煮る。ソースは生クリームにマッシュルームやマイタケ、シメジ、シイタケといったキノコ類をふんだんにいれている。ニンニクや塩コショウも加わって食べ応えのある一皿である。


 だが、チロはお代わりをした。

 ジェイクはタマネギスープをもう一皿味わった。


 その日の夜はグリューワインをみなで飲んだ。

 ニューイヤーを祝うのは成人の日のような特別な日であり、そんな日には家族でアルコールの入った飲み物を飲むのは目こぼしされている。

 赤ワインにオレンジやレモンのスライス、【遠くまで香るクローブ】、ローリエ、シナモンといった香辛料を入れ、砂糖で甘味をつけたホットワインだ。


「チロちゃんはぬるめね」

「なん!」

「お気に召したようだな」

「本当に甘いもの好きなのね」


 暖炉に火が入った部屋で、グリューワインを飲む。

 ふと、ここにカリスタがいてもまったく違和感がないだろうとミオは思った。


 ならば、レジナルドは?

 たぶん、そんなに不思議ではない、ような気がする。


 では、サイモンは?

 ———なんだか、違う気がした。


 どうしてだろう?

 物腰穏やかで、ミオの話を黙って耳を傾けてくれる。それだけではだめなのだろうか。

 でも、なにかが違う気がするのだ。


「ミオ、どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない。少し考え事をしていたの」

「ニューイヤーだもんねえ。今年はどんな年になるかなあ」

「なうん」

「あ……、チロちゃん、もしかして、酔った?」

「みたいだな」

 見れば、ジェイクの足にかじりついている。そのうち、前足でひっかき始めるかもしれない。


「明日は二日酔いかなあ」

「どうかな」

 そう言いつつ、以前チロが酔って二日酔いになったこと、ミオの成人の祝いの日のことが自然と思い出された。あのころは、祖母を失った後、工房を開けたばかりで、なんとか軌道に乗せようと四苦八苦していた。自分の成人の祝いなど、考える余裕もなかった。

 だが、ジェイクが祝おうと言ってくれ、資金も出してくれた。

 遅れた成人の祝いだったが、とても嬉しくて、記憶に残っている。


 それだけではない。

 いろんなことがあった。


 ケイトを始めとする冒険者ギルドの女性職員たちと交流し、リージュのツートップと称される高ランク冒険者の仕事を請け負った。隣町のハントへも行き、新たな素材採取場所も得た。ミオとメイは鳴き声シリーズの改変をして新たな魔道具を生み出したと認定され、なんと、錬金術便覧に名前が載ることになった。工房はどんどん売り上げを伸ばし、新しい店番を雇うまでに至った。それが元Aランク冒険者のカリスタだ。ミオもメイもカリスタならば、ジェイクの隣にいてもしっくりくると思う。


 そう、ジェイクだ。昨年の一番の大きな出来事だと思う。いや、一番は祖母の逝去か。

 ともあれ、一、二を争うほどのものだ。


「今年はどんなことがあるんだろうね」

 できれば、いつまでもこうして、みなで元気に楽しく過ごしていたい。

 そうミオは願った。





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