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ミオとメイはもともとあった<モウモウの槍>に手を加え、<ブモォォの槍>という新しい鳴き声シリーズを生み出した。
ここぞとばかりに<ブモォォの槍>を作りたいところだ。だが、いかんせん、<モウモウの槍>は魔道具だ。なかなか手に入らない。
「ないものは仕方がないわ」
炉に火が入っていないと寒い工房で、ミオは両手をさすり、息を吹きかける。メイも首を縮めながら答える。
「そうだよね。後はどうしようか。冬は需要がないから冒険者ギルドに回復剤を納品する必要はないし」
「魔道具のメンテナンスかしらね」
ミオの視線が棚の上の顧客台帳に向く。
「外を歩き回るの、寒いよ!」
工房の中にいてさえ、凍えそうなのだ。遮るもののない外に出れば寒風が肌に突き刺さる。
「なにを言っているのよ。普段、工房に籠っているのだから、動かないと! 冬の天気が良い日は貴重なのよ!」
「じゃあ、寒い日は錬成?」
メイの言うとおりにするならば、冬はずっと工房に籠っていることになるとミオが目を細める。
「木枯らしが吹く日や雪が降る日はね。錬成の他に、おばあさまのレシピ帳や錬金術素材一覧などの本をもう一度見直して、勉強し直しましょう」
「それ、良いね。暖炉の前で温かいお茶を飲みながら」
「チロちゃんを膝に乗せてね」
メイの言葉に、ミオも言う。彼女もまた、寒い日に外に出歩きたくはないのだ。柔らかい毛並みのチロが丸まれば毛玉と化す。ふいごのように呼吸をする温かい生き物を膝に乗せていればさぞかし心地よいだろう。
「ねえ、チロちゃんを膝に乗せるの、時間制の順番にしなくちゃね」
「おじさん、乗せたがるかしら?」
「チロちゃんが乗車拒否しそうじゃない?」
当事者がいないところで好き放題言われている。
ふたりは天気が悪い日には、他の鳴き声シリーズのカスタマイズをも試みた。
「<ホケキョの呼び寄せ>って特定の魔獣を呼び寄せることはできないかしら」
<ホケキョの呼び寄せ>
美しい鳴き声で魔物を呼び寄せる。
素材集めの時に使用するが、誘引しすぎに注意。
レベルが低いと、中々集まってくれない。
消費アイテムで、魔獣を狩る冒険者の間がよく用いる。特定の魔獣を呼び寄せることができたら、非常に重宝するだろう。
「やっぱり【苦みばしった石】類と【伊達と酔狂の石】類かな」
「それと、【立ち尽くす芍薬】ね」
【立ち尽くす芍薬】は錬成に用いると、使用者の意思をある程度反映する作用がある。どれも今まで鳴き声シリーズの消費アイテムの改良に使ってきたものだ。
今回も同じ路線からそう大きくは外れないだろうと考えた。
ミオとメイは次々に【苦みばしった青石】、【苦みばしった緑石】、【苦みばしった白石】、【伊達と酔狂の虹石】、【伊達と酔狂の赤石】、【伊達と酔狂の黄石】と試していくが、どれも決定打に欠ける。
「鉱石は【伊達と酔狂の石】類の方が良さそう」
「そうね。【立ち尽くす芍薬】じゃないのかしら」
こんな時は、基本に立ち返るべし、とミオは錬金術素材一覧を引っ張り出して開く。メイは祖母のレシピ帳を繰った。
「呼び寄せ、誘引、美しい鳴き声……」
「あ、これはどうかしら?」
「どれ?」
ミオが指さす項目をメイが覗き込む。
【誘惑のスイカズラ】
花開くと辺り一帯に甘い香りを発し、誘引する。
花の蜜は甘い。
「良さそうだね!」
「ただ、開花時期が……」
【誘惑のスイカズラ】
花開くと辺り一帯に甘い香りを発し、誘引する。
花の蜜は甘い。
咲き始めは白で徐々に黄色に変化する。香りは白い花の方がする。
開花時期は5~8月。
続きを読むと、メイも肩を落とした。
「来年までお預けかあ」
「香りは咲き始めの方が強いみたいだから、夏まで待つことはないわよ」
「来年と言えば、ニューイヤーのごちそう、どうしようか」
「メニューはおじさんのリクエストも聞こう」
「そうだね」
昨年末は祖母が体調を崩しており、それどころではなかった。
新米ふたりでどうなることかと思っていたが、幸運に恵まれ、工房も売り上げを伸ばしている。
冬は天候が荒れるので、家にこもる時間が長くなる。冒険者稼業も休業することが多く、定住しない冒険者は南へ向かう。ジェイクはそうして人気が少なくなった冒険者ギルドへ顔を出しては簡単な雑用からたまに出没する魔獣の討伐を請け負っていた。
「そろそろ魔獣も冬眠するだろう」
と言っていたので、ジェイクの方もお役御免だろう。
ふたりはすっかりジェイクはこの家でひと冬を過ごすものだと考えていた。
「今冬はどうするかな」
「え、どこか行くの?」
「ああ。ここ数年はリージュにいたが、その前は俺も南に行っていたよ」
最近の数年はビルの面倒を見ていたので、リージュを離れることが出来なかったのだろうとミオとメイは察する。
「別に用がないなら、うちにいたらいいんじゃない?」
「工房の売り上げも上がっているから、食費や宿代はいらないよ?」
「いや、俺もこの夏は稼いだから、それは大丈夫だ」
そう言いつつ、ジェイクはそのままお世話になるかなと言ったので、ミオとメイは喜んだ。
「時間ができたから、家じゅうの蝶番や建てつけの具合を見て回るか」
「おじさん、大工仕事ができるの?」
「見よう見まねだがね」
「器用だねえ」
「どちらかというと、器用貧乏だな」
ともあれ、ミオとメイにとってはありがたいことである。祖母の代からの家だから、造り自体は頑丈でも、どうしても小さな弊害は生じてくる。経年劣化というやつだ。
「お礼にニューイヤーにはいっぱいごちそう作るね!」
「おじさん、なにが食べたい?」
「そうだなあ。ミオとメイが作るものはなんでも美味しいからな。ああ、そうだ、出会ったときに食べさせてもらったタマネギスープ、あれは格別に美味かったな」
「あのときも寒かったものね」
「あつあつとろとろのタマネギスープ、おいしいよね!」
こうして、ニューイヤーのメニューのひとつは決まった。そのことがジェイクとともにニューイヤーを過ごせるのだという保証のような気がして、ミオとメイは安堵するのだった。




