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ケイトと話すうち、メイがはたと思い出す。
「あ、そうだ。【すがすがしいメリッサ】のハーブブレンドティを持って来たの」
メイがテーブルに手土産の包みを並べ、ミオが説明する。
「レモンのようなさわやかな香りがして、気持ちを落ち着けてくれるんです。眠れないときなんかにちょうど良いんですよ」
「わあ、ありがとう! いつもすてきなお土産をいただいて。あら、これ、大きなのと小さいのがいくつかあるのね」
不思議そうにするケイトに、ミオとメイはさっと視線をかわした。
「その、今日はケイトさんにお願いがあって、」
「<モウモウの槍>が手に入らないから知恵を借りようと思ったの」
ただ、今までの話からすれば、やはり入手困難だろうとふたりは肩を落とす。
「なるほどね。それで、大きい方はわたし宛で、小さい方は他の女性職員たちの分? ふふふ。本当に、気遣いがすばらしいわ。じゃあ、こっちはそういうのに詳しい子に渡しておくわね。他のはわたしと同僚たちとでありがたくちょうだいします」
ケイトは片目をつぶってみせる。普段は仕事ができる女性という雰囲気が茶目っ気たっぷりな様子に変わる。
「え、そんな人がいるの?!」
メイが身を乗り出す。
「そうなのよ。わたしは全般的な情報に詳しいんだけれど、彼女は魔道具関係に詳しくてね」
「ありがとうございます!」
ミオが慌てて礼を言う。
「いいのよ。ミオちゃんが心配するように、<モウモウの槍>を手に入れた冒険者から別の錬金術師が<ブモォォの槍>を改変しようとするかもしれないもの。
ふたりには他の属性も手掛けてもらいたいものだわ。
彼女は実は事情があって茶話会兼問診会に参加できなかったの。
ほら、ガラス瓶に多彩な鉱石を入れたディスプレイで神秘的な雰囲気にしてくれていたでしょう?
後から話を聞いて、魔道具に詳しいのに自分が行けないなんて!ってとても悔しがっていたわ。
だから、毎年開催してくれってギルドマスターに迫っていたの」
鬼気迫るという雰囲気だったと笑う。
「彼女は前からミオちゃんとメイちゃんのことを知っていたのよ」
「ああ、もしかして、工房に来たことがあるんですか?」
「いいえ。<コケコッコの時計>のカスタマイズよ。
噂で聞いて、それをやってのけたのがまだ若くて駆け出しの錬金術師姉妹だというので、有望株だって注目していたみたいなの。
同じ街のリージュにいるし、なんなら、あのジェイクが同居しているしね。
だから、彼女もミオちゃんたちの工房のアピールをせっせとしていたわよ」
ミオとメイが鳴き声シリーズを手掛けるようになったきっかけとも言える魔道具だ。そんな初期から気にされていたなどとは思わなかった。ケイトが言う、魔道具の情報について詳しいというのは相当なものだ。
「そのミオちゃんとメイちゃんが主催する茶話会兼問診会に参加できなかったのよ。そんなふたりが快挙を成し遂げたと聞いたときは涙を浮かべて喜んでいたわよ」
そんな風に言われると、あながち、「わたしたちの錬金術師」というのも間違っていないような気がしてくる。
「なんだか、そこまで喜んでもらえると、嬉しいというか、ありがたいというか、」
「ね。わたしたちもとても力をもらえるね」
「うん。なんだか、とても温かいものを分けてもらえた気がする」
ミオとメイは顔を見あわせて頬を染めながら肩をすくめて笑った。そんな様子をケイトは目を細めて眺める。
「ジェイクの気持ちがちょっとばかり分かるわ。あっちは娘のような気持ちなんでしょうから、わたしはお姉さんね!」
「わ、姉さんにお姉さんができたわ」
「ふふふ。ケイトお姉さんね」
ケイトは冗談を言ったが、それに対するメイとミオの会話に衝撃を受けた。
「ケイトお姉さん。良い響きだわ!」
そして、可愛い妹分から頼られたケイトはさっそく魔道具の情報に詳しい同僚に問い合わせた。
ケイトを頼った数日後には、冒険者ギルドから問い合わせがあったという商人が工房を訪ねてきた。
ミオよりも十と少し年上の落ち着いた物腰でサイモンと名乗った。
後でメイが格好良いとはしゃいでいた。確かに、茶色の髪に緑の瞳の商人はそこそこ格好良い。
「冒険者ギルドから連絡を受けてまいりました。<モウモウの槍>がご入用だとか」
「はい、そうなんです」
「今はどこにも見かけなくて」
サイモンはそうでしょうとも、とうなずいて商談に入る。
念のため、カリスタにも同席してもらった。ミオとメイが工房の主であり、決定権者であると分かっていても年若い女性だということで侮られることはままある。しかし、サイモンはそういうそぶりは見せずにスムーズに話は進む。
「やはり、現在人気の魔道具数点ということでお値段の方も高くなりますが」
提示された金額は危惧していたものよりも大分低かった。
「では、最低でも三本ご用意いたします」
「よろしくお願いします」
「あ、あの、なるべく早くお願いします!」
頭を下げるミオの隣でメイが懇願するのに、サイモンは穏やかに笑って見せた。
ほどなくして、<モウモウの槍>が三本届けられ、ミオとメイは小躍りした。
「こんなに早くに手に入れられるなんて!」
「ご無理を言ってすみません」
「いいえ。今話題の錬金術師のお役にたてられて、光栄ですよ」
ミオの言葉にサイモンはやんわりと笑う。市場に出回らない物を仕入れてくる手腕、その苦労をおくびにも出さず、そんな風に言われて、ミオは頬を染めた。
誰にでも丁寧な姿勢を崩さないのだろうが、仕事を離れてはどんなだろう。
やはり、それなりにぞんざいになるのか。それとも、丁寧なのだろうか。いや、普段からこうでは気が休まらないだろう。だとしても、たぶん、サイモンは穏やかな物腰に変わりはない。そんな気がする。
「わたしは魔道具を武器だけではなく様々に取り扱っております。これを機にお取り引きをさせていただきたいですね」
サイモンのことが気になり始めていたミオはいちもにもなくうなずいた。




