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さて、鳴き声シリーズを改変させることに成功した工房ということで、客足が増えた。特に、鳴き声シリーズを持ち込む者が多くなった。
その客は<ブヒヒンのブーツ>をメンテナンスしたいという。
一見して扱いが荒いということが分かる。
「うっせーな。そんなもん、道具だろう?」
ミオとメイはなにも言っていないが、目つきが気に入らないとでも言わんばかりだ。
今まで、高価な魔道具は大切に扱う者が多かった。特に、鳴き声シリーズの愛用者は偏執とも言えるほど愛着を持っていた。
だが、こういう客もいるだろう。しかし、この鳴き声に関する魔道具は取り扱いを特に丁寧にしないといけないのだ。
<ブヒヒンのブーツ>
移動力が上がるブーツ。慣れるまではブーツの動きについて行くのに苦労する。
メンテナンスした<ブヒヒンのブーツ>を渡しながら、ミオとメイは話した。
「このブーツはとても気難し屋なんです」
そう言って、ブーツではないが、同じ鳴き声を発する魔道具について語った。
<ブルルの荷車>
軽量化して運べる荷車。ニンジン型かリンゴ型の所有者証を身に付けること。
たまにへそをまげられ、うんともすんとも動かなくなることがある。
所持媒体を決める時には慎重に。
なだめすかす必要があるので、いち早く傾向を掴んで対策を練る必要がある。
相性が合うと機嫌よく働いてくれる。
「うちの<ブルルの荷車>なんてさ、最初は見向きもされなくて普通の重さの荷を運んでいたんだよ。それがさ、だんだん仲良くなっていくうちに、荷が軽くなってきたんだよ! 嬉しくてさあ、よく手入れしてやっているんだぜ。今じゃあ、すっかり仲良しさ。坂道を上ったり下ったりするときの慎重な動き! うちの<ブルルの荷車>じゃなきゃ、あんな気遣いはできないね!」
「なにを! うちの<ブルルの荷車>なんてな!」
そして、始まる自分の<ブルルの荷車>自慢。
普段手入れをしているだけあって、愛着があるのだ。しかも、個性を持つ。となると、より一層自分のところのは、と話題は尽きない。
「<ブルルの荷車>、罪な魔道具ね」
「我がまま小悪魔ね」
「そういうものかなあ」
ミオとメイの感想に、客は首をひねる。
しかし、結局は機嫌を取った方が良い結果となると思い知らされ、そうするようになった。
なぜなら、メンテナンスから返ってきたばかりというのに、ものすごいスピードが出るようになった。初めは素晴らしいと思った。すぐに制御できなくなり、青ざめた。
そこで、荷車のエピソードのように、機嫌を取る必要を感じ、実践した。いやいやだったが、だんだん褒めているうちに愛着がわく。そうなってくると、<ブヒヒンのブーツ>も協力的になってきた。
「これを長く使いたい。素材も金もいくらでも使ってくれ」
そう言って、定期的にミオとメイの錬金工房にメンテナンスにやって来るようになった。
「そのうち、<ヒヒンの鎧>も使い出しそうね」
そんな風にメイが言ったものである。
さて、大金星を取った<ブモォォの槍>だが、いきなり暗礁に乗り上げた。
「<モウモウの槍>が手に入らないの!」
ミオがカウンターに突っ伏す。
「ああ、魔道具だからな」
自明の理だが、さあ、これから、と張り切る新米錬金術師ふたりには酷な言葉だろうと、カリスタが苦笑する。
「あのお客さんもハントでようやく見つけたって言っていたものね」
「リージュも大都市なのに!」
ミオがため息交じりに言い、メイががばりと上半身を起こして恨みがましく叫ぶ。
「これは王都まで行かないと駄目かな?」
「ふたりとも、なにを言っているんだ。こういうときに頼るべきだろう?」
カリスタが腕組みして面白そうな顔つきでふたりを見やる。
「誰を?」
もちろん、頼もしい味方を。
そんなわけで、ミオとメイは冒険者ギルドに訪れていた。
手土産に【すがすがしいメリッサ】と他のハーブをブレンドした茶葉を包んできた。少し大きい包みの他、小分けにしていくつか作っておいた。
「あら、いらっしゃい、ミオちゃん、メイちゃん」
以前、茶話会兼問診会に参加したことのある女性がめざとくふたりを見つけて声をかけてきたのでそちらへ向かう。
「こんにちは。ケイトさんはいますか?」
「ちょっと待ってね。そっちのテーブルに座っていて。ケイトー、お客さんだよ!」
示されたテーブルと椅子は雑に扱われているようで、腰掛けるとがたがた揺れた。メイなどは面白がって両足を床から離してわざと揺らしている。
「お待たせ! 今日はどうしたの?」
待つほどなくケイトが颯爽とやって来て、ふたりの向かい側に座る。
「実は、お願いがありまして」
ミオとメイはなかなか手に入らない<モウモウの槍>の入手法をたずねた。
「そうねえ。元々魔道具で数が出回らない上、今やリージュとハントでは鳴き声シリーズの武器防具はちょっとしたブームになっているから、一層見かけないのよね」
「えー」
「リージュってもしかして。でも、ハントもなら違うかな?」
メイが落胆し、ミオがもしかして自分たちが原因なのでは、いやでも、ハントでもなら違うかと首をひねる。
「あら、もちろん、あなたたちのお陰よ!」
今やちょっとした鳴き声シリーズのブームが訪れているのだという。
「リージュのツートップのバートさんとスタンリーさんも鳴き声シリーズの愛用者ですものね」
「それだけじゃないのよ。ミオちゃんとメイちゃんが開発した新アイテムを手に入れたいといって、<モウモウの槍>をこぞって欲しがっているの!」
「えー! だったら余計にわたしたちに回ってこないわ!」
ケイトの言葉にミオが悲鳴じみた声を上げる。
「あら、でも、リージュもハントも冒険者たちが手に入れたら持ち込むのはミオちゃんとメイちゃんの工房よ?」
「そうだと良いんですけれど。冒険者は自分の馴染み深い錬金術師工房や鍛冶屋を持っているでしょうから。それに、リージュはともかく、ハントはどうしてですか?」
気遣わしげに眉をひそめるミオは気を取り直してたずねた。
「地理的に近いというのもあるけれど、ミオちゃんとメイちゃんの快挙は即座にハントの冒険者ギルドにも情報共有されたのよ」
ハントでもお祭り騒ぎになったという。
「もうね、みんな、わたしたちの錬金術師が歴史に名を残したって喜んでいるのよ!」
「せんせいって……」
錬金術師もそれぞれ得意分野があり、中には薬草や鉱物を処方したり薬作成を不得手とする者がいる。逆にミオやメイはちょっとした処方ならレシピ帳を見なくてもできるようになった。これも茶話会兼問診会やその話を聞きつけた者がときおりやって来るようになった経験からだ。そういう処方を得意とする者を医師になぞらえて呼ぶこともある。




