30-1.<ブヒヒンのブーツ>のメンテナンス
事の次第を聞いたカリスタが、ジェイクの言うとおり、鳴き声が変化したのだから、それはもう従来の<モウモウの槍>ではないだろうと言った。
そして、錬金術師組合に届けるべきだとも。
「え、そうかな」
「そこまでする必要はあるかな?」
ミオとメイはそこまで大事なのかとまごつく。
「なにも悪いことをしたわけじゃないさ。錬成する上での変化だからな」
カリスタの励ましに力を得て、ふたりは報告書を作成しようとした。しかし、これが難航した。
「どんな風に書けば良いんだろう?」
「もういっそ、絵を描いて、ここに【魔銅】を使いました、そこに【魔鉄】を使いました、それで魔力の流れがこうなって、って注釈を入れたい!」
ミオは戸惑い、メイは泣き言を言う。
結局、メイの言うように、絵を描いて都度都度に詳細な注釈を入れることにした。
「うん、分かりやすいんじゃないか?」
「ああ、相手に伝わるのが一番大切なことだからな」
不安になったふたりはジェイクとカリスタにも見せ、太鼓判を押される。
「そうかなあ?」
「でも、レシピ帳でもそうだもんね」
それでもまだ心配が残るが、えいやっと勢いをつけて送ってしまうことにした。
「なにか違反していたりだめなことがあったら、言ってくるでしょう」
「そのときに知らなかったです、すみませんでした、って謝ろう」
そんな風に片付けた。
ちなみに、<ブモォォの槍>(仮名)の所有者はさっそく魔道具を使って討伐に乗り出したらしい。
「借金返済があるからな」
そんなことを言いつつ、「俺の槍が火を噴くぜ」とノリノリなことからも、新しい魔道具を使いたくて仕方がない様子だ。
なにはともあれ、自分たちが手を加えた魔道具を気に入って使ってくれていることに、ミオもメイも喜んでいた。
ふたりは<モウモウの槍>を<ブモォォの槍>(仮名)に変化させる過程で、依頼者が火の属性だったから同じ属性の素材を用いた。つまり、使用者によって属性は異なり、水ならば水の属性の素材を用いることによって水が噴出すると仮説を立てている。
そのため、組合に報告書を出すのはちょうど良かったのかもしれない。今後、誰かがふたりと同じように<モウモウの槍>を<ブモォォの槍>(仮名)に変化させるかもしれない。その際には先んじて火の属性は試されており、実証されているのだ。
さて、しばらく後に組合から返答があった。
「えっ?!」
「やったわ!」
ふたりは工房を飛び出して冒険者ギルドに走った。
まだ朝の時刻で、仕事を請け負ってでかける前のジェイクを捕まえられるかもしれないと思ったら、矢も楯もたまらず身体が動いていた。
「お、噂の錬金術師姉妹じゃないか」
冒険者ギルドの前にいた冒険者に声を掛けられ、ようやく足を止めたふたりは荒い息を繰り返し、ろくに返事をすることが出来なかった。
「おいおい、大丈夫か? なにかあったのか?」
心配する男が背にする扉が開き、他の冒険者が出てきた。
「あー、ミオちゃんとメイちゃん!」
「おい、止せ! うかつに近寄るんじゃない!」
「手を出したら、冒険者を廃業することになるぞ!」
ケイトの脅しは浸透しつつある様子だ。おそらく、ケイトから女性職員に伝わり、そこからも冒険者らになんらかの作用があったのだろう。
恐るべし、冒険者ギルドの女性職員。そして、カリスタ。
「ミオ、メイ、どうしたんだ?」
そんなことを考えつつ、汗を拭っていると、ジェイクが出てきた。
もう冬になろうとしているのに、汗をかくほど走ってきたふたりに、ジェイクが眉をひそめる。
「あ、ううん、悪いことがあったわけじゃないの」
「組合から返事が来たのよ!」
ミオが慌てて心配はないと言い、メイが握りしめた手紙を突き付ける。勢いに押されるように受け取ったジェイクはふたりを見やる。
「読んでいいのか?」
ミオとメイは必死の顔をしながら二度三度うなずく。
「ああ、<ブモォォの槍>が正式に認定されたんだな。すごいじゃないか! メイが前に行っていたものな。新たな発見をして名前を載せるのが錬金術師の夢だって」
「それは錬金術素材一覧ね」
手紙から顔を上げたジェイクが興奮するのに、メイが冷静に返す。
「まさか、錬金術便覧に魔道具の製作者として乗るなんて、思ってもみなかった!」
ミオとメイは互いに向き合って両手を握り合せ、その場でぴょんぴょん飛び跳ね始めた。
騒ぎを聞きつけて出てきたケイトが大きく拍手しながら満面の笑みで言う。
「おめでとう!」
「なんだなんだ?」
ギルドから冒険者が出て来て、道行く街の人が足を止める。
なんだかよく分からないが、噂の錬金術師姉妹がすごいことをやってのけたのだという雰囲気は伝わる。
そこで、ケイトがざっと経緯を説明する。
「え、マジかよ?!」
「すっげえ!」
「新しい魔道具の発明者!」
「このリージュから、この時代に出るなんて!」
「うおおおおお!」
「「「「「おめでとう!」」」」」
おたけびが上がった後、一斉に祝福の声があがり、誰からともなく拍手が起きた。
「あ、ありがとうございます」
「でも、一から作ったんじゃなくて、改変しただけなんだけれどね」
ミオはとまどいつつ、あちこちに頭を下げ、メイが照れくさそうに笑う。
「なに言っているの、すごいわ! だって、火の属性だけじゃなくて、他の属性でも通用しそうなんでしょう?」
ケイトが謙遜する姉妹にじれったそうに言う。もはや彼女やその同僚たちにとってはふたりは話しやすく的確に処方してくれる頼りになる医師でもあるのだ。医療技術にばらつきがあり、発展途上の世情では貴重な存在である。また、なにかと心配りをしてくれるふたりが可愛くもある。
「はい。そちらも成功したら報告書を出すようにって」
「なんとね、特許申請してくれるんですって!」
ケイトに言いつつ、なんとか<モウモウの槍>を手に入れられないかと考えるミオを他所に、メイが胸を張る。
「おおおお! 特許取得者!」
「すっげえ!」
ふたたび、その場が沸く。
「来年はランクアップ試験を受けるようにとも書いてあるな」
騒ぎに苦笑しながら、ジェイクがふたりに言う。
「そうなの。元々、今年は受けられなかったから、来年こそはと思っていたし」
「わたしも、早く見習いから新人になりたい」
ミオもメイもやる気だ。
「まあ、組合から受けるように言われるなんて、すごいわ! あ、ジェイクも来年こそは受けてよね!」
喧噪の中というのに、三人の会話を聞きつけたケイトがちゃっかりとジェイクにも釘を刺す。
「おじさん、今年のランクアップ試験、結局、受けなかったの?」
「ああ、なにかとばたばたしていてな」
「工房の店番、もっと早く探せば良かったね」
ミオとメイがしおれ、それ見ろとばかりにケイトが腕組みしながらにんまりと笑った。ジェイクはこれで自分も来年はランクアップ試験を受ける羽目になったなあ、と苦笑する。
特に受けたくない理由はない。ただ単になんとなく受けそびれていただけだ。
「俺の槍が火を噴くぜ」
→あ、うん、そういう魔道具ですから。
でも、まあ、一度は言ってみたくなりますよね(笑)。
ジェイクが言う「新たな発見をして名前を載せる(のが錬金術師の夢)」は
この場合、人工物なので、<錬金術便覧>になります。
どちらが確率が低いかは人によります。
そのとき、ふたりはまだ錬成に自信を持てないでいたので、
新種素材発見の方が確率が高いという認識でいました。
ちなみに、その会話は3-2で出てきました。
伏線回収!
ちなみに、初期に放りこんだ伏線、まだ回収しきれていないものがあります。
そこまで到達できると良いのですが・・・。
ともあれ、読み返してみようかな、と思っていただける話を書けるようにかんばります!




