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メイの恋は上手くいかなかった。けれど、錬金術は成功した。
<モウモウの槍>に【魔銅】と【魔鉄】を組み合わせて魔力の流れを誘導した。そうして、槍の穂先から使用者の属性による魔法の噴出を可能にした。
【魔銅】と【魔鉄】を用いるにはそれなりの金額がかかる。使用する前に男に説明したところ、決然とやってくれと言われた。
「あのとき、修練場でふたりが絡まれているというのに、俺はぼんやり見ているだけだった。でも、ふたりは他の冒険者やギルドの受付から救いの手が差し伸べられるほどの錬金術師だ。そんなすごい人たちに手を加えてもらえるなんて機会はこの先あるかどうか分からないからな」
すっかりケイトの脅し、もとい釘差しの余波をかぶって、ミオとメイの腕を想像で高く買っている。ちなみに、カリスタから「ケイトから聞いた無礼なやつらは、きちんと躾け———訓練しておいたからね」とにこやかに説明を受けている。言い直されたが、どんな風に躾けられたのか、知りたいような、知るのが怖いような気がして詳細は聞けずじまいだ。
「お客さんは火の属性だと聞いたから、同じ火の属性【猛火の火炎茸】を素材に使ったの。これでお客さんの魔力に馴染むようになるわ」
「そして、【魔銅】と【魔鉄】で魔力の流れがスムーズに通るようにしたの」
試してほしいとふたりが言う前に、男の方から申し出て、さっそく冒険者ギルドの修練場に向かう。ジェイクも先だっての一件を聞いているのか、ついてきた。
保護者付きかと思うとくすぐったいような、情けないような、申し訳ないような気がミオはするが、メイは嬉しかった様子で、男にしきりに<モウモウの槍>について話している。
「なんだか、こうしてミオたちと一緒に昼間に歩くのも久しぶりな気がするなあ」
「おじさん、冒険者稼業に復帰したものね」
「ああ。カリスタはしっかり店番と虫よけをしてくれているから、安心さ」
そうは言っても、なにかあればこうしてさりげなく付き添ってくれる。ケイトもカリスタも、そしてレジナルドもそうだ。リージュとハントの冒険者ギルドの女性職員たちもだ。思えば、自分やメイは温かい人たちに助けられている。
「ありがとうね、おじさん」
「なにがだ?」
「うーん、こうして昼間に一緒に歩いてくれて、かな?」
「うん?」
ミオの唐突な礼の理由を聞いてもいまひとつぴんとこないジェイクは首をかしげる。ミオはそんなジェイクに、ふふふ、と笑うばかりだった。
さて、冒険者ギルドの修練場で、男は待ちきれないとばかりに、<モウモウの槍>を振るった。ケイトも見物に混じっている。
ケイトとしてはミオとメイという若いのに腕の良い錬金術師になれそうな存在と懇意にすることはプラスになるという点もあれば、ギルドの意向を汲んでいる面もある。
ギルドとしては冒険者に人気のあるミオとメイを取り込みたいということと、とある方面からせっつかれているジェイクの冒険者ランクアップ試験を早く受けさせたいという思惑がある。
ケイトからしてみれば、彼女たちをダシにして、冒険者をてのひらで転がそうという考えもある。
「ふん!」
男が槍に力と共に魔力を籠める。
すると、<モウモウの槍>に顕著な変化が現れた。
「モウ、モウ」という鳴き声が聞こえてくるはずだった。
居合わせた者たちの予想を裏切る事態が起こった。
「ブモォォ!」という鳴き声がしたと同時に、槍の穂先から炎が噴き出す。
「うお?! な、なんだ?」
「おお、炎が!」
「わあ、すごい、すごいわ!」
男が驚き、ジェイクが目を見開き、ケイトは歓声を上げながら拍手する。
「ええと、説明しても正確に伝える自信がなかったので、実践してもらったんですけれど」
「鳴き声も変わっちゃったし、炎の魔法も噴出するようになったんだけれど、威力は増しています!」
ミオとメイはカスタマイズと言うには大きく変容した<モウモウの槍>に、内心、冷や汗をかきながら、客の反応を待つ。
「いや、すごい! すごいよ!」
ケイトと同じようなことを言っている。彼女の反応に引きずられたのかもしれない。ミオとメイは心の中で盛大にケイトに感謝した。
「魔法が出てくる槍なんて!」
「噴出は籠める魔力で調節できます」
「魔力を籠めすぎて枯渇させないように、うまく配分を考えてください」
興奮する男にミオとメイは注意事項をのべる。
「ああ、分かった!」
ふたりの説明を聞きつつも、男は手に握った<モウモウの槍>から目を離さない。
「いや、本当にすごいな。これはもう<モウモウの槍>ではないんじゃないか?」
「どういうこと?」
ジェイクが近づいてきながら言う内容に、ミオとメイは驚く。
「鳴き声シリーズの名称はその鳴き声から取っているだろう? だったら<ブモォォの槍>になるんじゃないか?」
「あら、言われてみればそうね」
ケイトも納得する。
「<ブモォォの槍>……」
男が噛みしめるように呟く。
「ふふ。さしづめ、あなたが最初の<ブモォォの槍>の所有者ね」
「俺が最初の!」
ケイトがあおるのに、男はやすやすと乗る。
ケイトの手腕は素晴らしかった。
「こんなにすごいカスタマイズ、いいえ、改変とも言えるわね。
別物の魔道具の初めての使い手になったのだもの。
しかも、威力は今実践した通り。
これは相当なお値打ち品よ。
え?
【魔銅】と【魔鉄】と取り扱いの難しい火の属性の素材を使っているの?
あらあ、それはそれは。
いえね、もちろん、お値段は天井知らずに上がっていくわね」
男はとたんに青くなる。しかし、大事そうに槍を抱えている。
もはや、彼にとっては宝物に等しい価値がある。
「あら、大丈夫よお。
ミオちゃんもメイちゃんも事情を汲んでくれるわよ。
なんてったって、優しくて腕の良い錬金術師ですもの。
ちゃんと分割払いで支払いましょうね。
任せておいて。ギルドが間に入って支払いを徴収するわ!」
そんな風にしてあれよあれよという間に話をまとめてしまい、高額の報酬がミオとメイに転がり込んできた。男は分割でギルドに返済していくことになった。
「大丈夫、手数料なんて微々たるものだし、あっちに支払ってもらうから!」
そんな風にミオとメイにはこっそり告げる。
元々、<モウモウの槍>を手に入れるために財産をはたいたと言っていたし、失敗するかもしれないリスクにも躊躇していた。そんな冒険者に高額の支払いを呑ませる手腕たるものや。
「な? 恐ろしくも頼りになるだろう?」
「おじさん、ケイトさんを紹介してくれて、最初のころに手土産を準備するように言ってくれてありがとう」
「ケイトさん、格好良い! でも、敵に回したくない!」
ジェイクとミオとメイはケイトが話をまとめているあいだにこそこそと囁き合った。




