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「はいはい、そこまで!」
明るい声が緊迫した空気をやぶる。振り向いたミオとメイは安堵の声を上げた。
「ケイトさん!」
「レジナルドの言うとおり、ミオちゃんとメイちゃんは仕事中よ。邪魔しないように!」
「なんだよぉ、俺たちは別に邪魔なんかしないぜ」
「そうそう。あいさつしようとしていただけだ。それをレジナルドが妙な言い掛かりをつけてきただけだぜ?」
すかさず、事実をゆがめて自分たちは悪くないという方向に持って行こうとする。
嫌らしいやつら。
ミオはぎゅっとこぶしを握ってこらえた。
ミオがここで言及しても、口に出さないレジナルドの方がもっと悔しい思いでいるだろう。
「あらあ、わたしは最初から見ていたわよ?」
ケイトは両手を腰に当ててあごを上げる。
「さ、最初ってどこから、」
「もちろん、あんたたちがミオちゃんとメイちゃんの邪魔をしようとしたところからよ」
ひるむ男たちにケイトはにっこりと笑う。
「チッ」
「ひっこんでろよ、ババア」
舌打ちをし、小声でけなす。小さい男たちである。大声でののしることすらできないのだ。
今度はミオだけでなく、メイも唇をかんでこらえた。自分をかばう人たちが悪く言われるのは、とんでもなく腹が立ち、そして、胸が痛い。
「聞こえたわよ! あんたたち、ミオちゃんとメイちゃんはリージュだけじゃなくハントのギルド女性職員がついているんだからね!」
びしっと指を突き付けてケイトは言い切る。
その勢いに、男たちはたじたじと後ずさる。
「それともなあに?」
ケイトはにこやかに微笑む。だが、悪口を言われた腹立たしさがこめかみに青筋になって表れる。
男たちは完全に呑まれていた。隣にいるだけのレジナルドすらその余波を浴びて青ざめている。そのくらいの迫力が、ケイトの全身からにじみ出ていた。
「あんたたち、リージュとハントの女性職員を敵に回してやっていけるの? いいわよ? やってごらんなさい?」
具体的にどんな弊害をこうむるのか、ケイトは言わなかった。それがまた、怖い。人は不明瞭なことを嫌がる。不気味なのだ。
「い、いや、俺たちは、その、」
「も、もう、行くよ」
そそくさと立ち去ろうとした。
「あ、そうそう。言い忘れていたけれど、ミオちゃんとメイちゃんの工房ではカリスタが店番をしているからね! 彼女にも今日のことは話しておくわ」
「ひっ!」
「あのカリスタが!」
男たちは飛び上がって走って逃げて行った。
「まあまあ、逃げ足の早いこと」
ケイトは腰に両手を当てて仁王立ちして男たちを見送る。
「ケイトさん、ありがとうございました」
「ケイトさん、格好良かったよ!」
ミオとメイはケイトに近づいた。
「あら、そう? うふふ。オーディエンスをいっぱい出しちゃったから、わたしひとりの力じゃないんだけれどね」
ミオとメイに、いつでも引き合いに出して身を守れとケイトは言う。
「その、わたしたちをかばったせいで悪口まで言われて」
「あら、そんなこと気にしないで! 悪く言う方が性根が悪いんだから!」
ミオはレジナルドの方に向き直る。彼は呆然と成り行きを見守っていた。
「レジナルドも、ごめんなさい」
「いや、俺はなんの役にも立たなくて、」
「あらあ、そんなことないわよ。立ち向かっていく勇気が重要なのよ。ただし、ちゃんと逃げ道を確保しておかなくちゃね」
「はい」
ケイトにがくがくとうなずくのは、余波をくらった名残だろうか。
そんなできごとがあった後、こちらも余波を食らったのか、<モウモウの槍>を男はミオとメイに預けた。
「よろしくお願いします」
ミオとメイは改めて、冒険者ギルドの女性職員の力を思い知るのだった。
後ろ盾というほどでもないが、冒険者ギルドの女性職員たちがなにかとミオとメイに気遣っていることは冒険者にも浸透しつつあるだろう。
「冒険者の全員が手出しする目的ばかりじゃないだろうし。話してみないとわからないよ」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
メイは客ではない冒険者たちの中でも時折やってくる者のうちのひとりに声をかけた。あれよあれよという間に付き合うことになる。一応、お試しで、という言葉をメイはつけたが、相手が聞いているかどうかは怪しいものだった。
工房の休みの際、一度ふたりででかけた。日取りを決めるときからうんざりした。
「いつにする? 明日? 俺、明日なら時間あるよ?」
「ごめんね、明日は工房を開いているから。だから、工房の休みの時に出かけよう」
せわしなく言葉を重ねられてせかされているような気になりながらも、メイは提案する。
「ええ、それっていつよ? 五日後? そんな先? 休めないの? お姉さんがいるでしょう? あ、そうだ、明日俺とふたりで出かけて、五日後はお姉さんと三人で出かけようよ! 俺とメイちゃんとミオちゃんと!」
不満そうに言って、結局は自分の都合を押し付けてくる。メイの事情は入る隙間がなく矢継ぎ早に言う。しかも、ミオとも出かけるとはどういうことなのか。
どうしてこうなんだろう。
頼りないレジナルドは、それでもミオのために勇気を出した。
バーバラはBランク冒険者のスタンリーにあんなに尽くされている。
おじさんは元Aランク冒険者のカリスタにも認められているくらいだし、ふたりはなんだか良い雰囲気だ。
なんなら、Bランク冒険者のバートもミオを気に入っている風だ。
もちろん、それぞれ欠点はある。でも、それは個性の範疇だと思う。
お試しで付き合ってみた冒険者はメイが好きなのではない。それはメイもそうだし、付き合ううちに親交を深めていくものだと思っていた。でも、メイだけでなくミオも手に入れよう、噂の姉妹を両方とも、と思うのは、個性では収まりきらず、欠点でしかない。
結局、彼はあわよくば、ふたりを相手にしたいという気持ちがすけてみえて、気持ち悪くなって別れた。それが単に噂の姉妹のどちらかを選べないということなのか、ふたりともに手を出したいというのか、わからないけれど、わかりたくもない。
「ずっと胸ばかり見ているんだもの。わかるんだよね。本人はさりげなく、なにかの拍子に見みているつもりだろうけれど」
男性というものはもうそういうものだと思うしかない。
「おじさんは違うのにね」
ミオは肩をすくめる。ミオとて小さいというのではないが、妹のメイが標準よりも大きいから、比べられることはままある。いやな思いをすることも多々あるだろう。けれどそれはメイのせいではないという認識であるのがありがたい。それは真実なのだが、みながみなそう思えるのなら、逆恨みというものはこの世に存在しない。
「だって、おじさんが一緒に住んでいるのはおかしい。追い出して自分が一緒に住むって言うの。それはどうかなって思っていたら、「心配しなくても君のお姉さんとどうこうなろうという気はないよ」なんて言うのよ。それで、もうだめになった」
嫌悪しか感じなくなった。
端から下心があるではないか。ジェイクがうらやましくて、両手に花、メイとミオ、ふたりを相手にしたいというのだ。
気持ち悪い。
結局、メイのどこかを気に入って、自分自身を見てくれていたのではないのだ。
メイは普通の人と恋がしたい。冒険者のようにはらはらどきどきするようなのではなく、いつも一緒にいられる人が良い。




