29-2
ミオとメイはカリスタに呼ばれて店側へ向かった。
「ああ、作業中に悪いね。ちょっとこいつの話を聞いてくれるかい?」
カリスタが指し示す先には冒険者風の格好をした男がいた。
「冒険者ギルドの受付から、この工房でバートやスタンリーが鳴き声シリーズの手入れをしてもらっていると聞いたんだ」
そう言って槍の穂に巻いていた布を取り去る。
「あ、もしかして、<モウモウの槍>?!」
「知っているのか?」
飛びつくようにしていうメイに、男は顔に喜色を浮かべる。
「ついこの間、話題に出て説明を読んだだけなのですが」
高ランク冒険者ふたりの名声につられて、初手から期待値を上げられてしまっては敵わない、とミオが予防線を張る。
「そうか」
「まあ、話だけでも聞いてみてはどうだ?」
カリスタの言葉に、双方が同意した。
「俺はこんなだから、力はあまりなく、代わりに魔力がそこそこあるんだ。それで、無理して手に入れた魔道具が<モウモウの槍>なんだが、なかなか威力が出ない」
男は中肉中背であり、カリスタと並べば細身に見える。
「相性が悪いのかな」
メイが男と<モウモウの槍>を見比べる。
「そんな。せっかく手に入れたのに」
男はうなだれる。
「ところで、鳴き声シリーズの武器はもっと他にもありますが、どうして<モウモウの槍>を選んだのですか?」
「鳴き声シリーズの武器はあまり出回らないんだ。リージュでもあまり見かけない。そのせいか、店頭に並んだらすぐに売れてしまう。俺はこれをハントで見つけて有り金をはたいたんだ」
なるほど、そういうものなのか、と市場についてひとつ知識を蓄える。
「わかりました。わたしたちでできる限り、改善点を探ってみます」
「ありがたい!」
ミオとメイは詳細に聞き取りを行う。
「まず、どんな風に使うか、見せてもらえますか?」
冒険者ギルドの修練場に三人で行って、どこをどう握り、魔力をどうこめるとどんな風に力を発揮するのかを観察する。
男が的に向けて槍を繰り出す。
「モウ! モウ!」
「あ、鳴いた!」
メイが手を叩いて喜ぶ。
「突きの鋭さを魔力で増加させているようね」
「魔力量はあるって言っていたよね」
ふたりであれこれ話し合い、男に渾身の魔力をこめて槍を突きださせた。
「モウ! モウ! ブモウ!」
「うん? 最後がちょっと鳴き声が変わっていたような?」
ミオは首をかしげるも、男が近づいて来て「どうだ? なにか分かったか?」と言うのに向き直る。
「槍をお預かりしていろいろ試してみてもいいですか?」
「もしかしたら、ちょっとした変化があるかもしれないのだけれど」
「ああ、バートがそんなことを言っていたな。しかし、威力がこれ以上落ちることになったら、」
「正直なところ、ないとは言い切れません」
「そのときにはもちろん、お代はいただきませんが、」
威力は落ちたままということだ。
男は腕組みして考えた。
ミオとメイは急かすことなく、待った。
鳴き声シリーズはれっきとした魔道具だ。高額なものである。それだけに、性能を向上させようとした結果、劣化しました、となる可能性がある選択は慎重に行うべきだろう。
しかし、邪魔は別なところから入った。
「お、ミオちゃんだ!」
「え、どこどこ? 本当だ! メイちゃんもいる!」
昼間だからか、人気がなかった修練場に顔を出した冒険者のうち、ミオとメイを見知った者が近づこうとした。
「なになに、なにやってんの? 俺たちも混ぜてよ」
「そんなことより、飯でも食いに行かない? それとも、別のことでもする?」
にやにや笑いながら、自分たちの誘いを断るとは思いもしない風だ。
「おい、止せよ。仕事中だ。邪魔するなよ」
いつからいたのか、レジナルドが冒険者たちを止める。
「ああ? なんだよ、レジナルド、お前こそ邪魔するなよ」
とたんに、不機嫌そうに制止する方を振り返る。
「どうしたんだよ、弱虫のくせに、ずいぶん生意気なことを言ってくれるじゃないか」
ミオは胸が痛んだ。自分たちをかばったせいで、あんな風に言われている。
傍らのメイも表情を硬くしている。ミオは一歩足を踏み出そうとした。




