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「ねえ、カリスタさん、体調がよくないって言っていたけれど、もし、よければ、わたしが薬を処方しましょうか? 話を聞いてみないと、わたしで対処できるものかどうかわからないけれど」
ミオがそう言うと、カリスタは破願した。
「そりゃあ、うれしいね。ミオとメイはリージュとハントの女性職員たちの面倒をみたって聞いているよ。話を親身になって聞いて、いろんな症状に合わせて処方してくれたって」
「耳が早いのね」
「冒険者のときの癖でね。情報を集めておくようにしているのさ」
「ああ、それでおじさんのことも良く知っていたのね」
カリスタは既に何人かの薬師や医師に診てもらったが、処方された薬は徐々に効かなくなるのだという。
「初めはよく効くんだけれどね」
カリスタの症状が下痢ということで、他人には言いにくいものだということもある。
「薬師や医師ってのに高圧的になられるとね。こっちとしては、ある意味命を握られているから、どうにもね」
「そう言えば、ケイトさんも同じようなことを言っていたわ。異性の医師には言いにくいし、同性でも年配の人は居丈高で接しにくいって」
「薬師や医師の側からしてみてもねえ。困ったときには拝まんばかりだけれど、いざ治療が終わったら知らん顔で支払いを踏み倒されることもあるから」
「ああ、そうなのかい。世の中、どこでも身勝手なやつらのせいで割を食う人たちが出てくるものだね」
ミオはカリスタの症状を聞き取り、採取に出かけた際にカリスタの症状に合う素材を手に入れた。
「ちょうど秋の採取に出かけようと思っていたから、ついでに採って来るわ」
「そういうことだったら」
と、カリスタが護衛を務めた。
店番なのだから、と遠慮するミオとメイにカリスタは爽やかに笑った。
「元がつく冒険者だけれど、この周辺の魔獣くらいなら大丈夫だよ。たまには外に出ないと勘が狂うしね」
そうして工房の定休日に採取で得てきた【さわやかシソ】の葉を水洗いし、陰干しする。ついでに、チロのおもちゃにどうかと思って採取して来た【ふわふわ狗尾草】も一緒に乾しておいた。
「沸騰した水と酢に【さわやかシソ】の葉を入れて色が抜けたら葉を取り出すの」
「あとは砂糖ね!」
そして煮ながら、アクを取り除く。
出来上がった【さわやかシソ】のジュースの原液を瓶に詰めてカリスタに渡す。
「これを水や湯で好みの濃さに割ってね。【さわやかシソ】のジュースよ」
「へえ。飲みやすい。これなら毎日続けられそうだ」
試しに水で割って飲んだカリスタが感心する。
「あとは茎や葉を粗く刻んで布に包んで入浴したら、身体を温めてくれるわ」
「ありがとう。助かるよ」
カリスタはジュースと入浴剤によって徐々に体質が改善して来たという。
「ミオとメイのお陰だよ」
そんな風にして高ランクだったというのに、ミオとメイに感謝と尊敬を向けてくる。
だから、ミオとメイも認めざるを得なかった。
「だって、おじさんと並ぶと釣り合いがとれるというか、しっくりくるというか」
「そうね」
そのころから、メイは恋人を作ることを真剣に考え始めた。ミオはおじさんがいなくなるのではとやきもきしつつも、工房を守っていくことを第一にしている。でも、メイはさみしかった。たまらなく、さみしかったのだ。
ときおり、男がミオとメイの周りをうろついていることに、カリスタはすぐに気づいた。注意を払ってみると、どうも姉妹の動向を探っているらしい。
姉妹のファンか、同業者か、付きまとっているのか。
ミオとメイは新人とはいえ、腕の良い錬金術師でまっすぐな性質をカリスタは気に入っていた。ちょっとしたことだが、誰かになにかをしてやろうという向きがあるところが良い。
ただ、そうした「優しさ」は「自分への特別な好意」と勘違いされやすい。しかも、噂に違わぬ美少女姉妹である。
「ジェイクが心配するのも無理はないね」
「カリスタが虫よけをしてくれるから、安心だ」
虫よけするのは「恋愛は自由」で押し通して、しまいにしつこく付きまとって自分の思うとおりにしようとするからだ。「他の男に優しくするな」と勝手に腹を立てる男もいた。
「俺がいることで虫よけになると同時に悪評をたてられたが、ミオとメイは早々にケイトたち冒険者ギルドの女性職員を味方につけたからな」
「素晴らしい手腕だ」
そう言いつつも、おそらく、ケイトと誼を持てるようにジェイクが骨折りしたのだろうと想像がつく。ミオもメイも素晴らしい錬金術師だが、いかんせん、世情に長けていない。もちろん、彼女たちの気遣いにケイトらが感激したからこそ、幸運を引き寄せたのだろうが、そのきっかけを作ったのはふたりの傍にいる分別のあるおとなだ。そうカリスタは推測していた。
当のジェイクはミオとメイを褒められて破願する。
「そうだろう?」
自分の手柄でもないのに胸を張るジェイクにカリスタが吹き出す。
今まで評判は良いけれど、面白みのなさそうな男だと思っていた。だが、ジェイクもまた、ミオとメイと接することで砕けたというか、厚みが出た。引き出しが増えたとも言える。
そのジェイクもまた、とびかう虫とは別にミオとメイの情報を集めている男のことには気づいていた。
「怖がらせるのもなんだから、ふたりには言っていない」
「相手の思惑がどこにあるか分からないから、その方が良いね」
「今後も気を付けておいてくれ。俺も気に掛けておく」
「おやおや、過保護なことで」
「娘みたいなものだからな」
カリスタにからかわれるも、ジェイクは肩をすくめて軽くいなした。
ふたりがそんな風に話している間、ミオとメイはイヌの尾に似ていることから名付けられた【ふわふわ狗尾草】を振ってチロと遊んでいた。
「にゃん! なん! なうーん!」
ふわふわ揺れる草に、尾をぴんと伸ばし、指の間を広げて、チロは大興奮であった。




