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カリスタはとにかく、客あしらいがうまかった。
「冒険者さんたちは大丈夫だと思っていたけれど、ちょっときどったお客さんに、とてもていねいだったわ」
「うん、大分偉そうだったけれど、カリスタさん、すごかったよね!」
メイが言うのは先だってやって来た客のことだ。
「ここか、<コケコッコの時計>をオンリーワンの魔道具に変身させると言う工房は」
その客は店に入って開口一番、そう言った。樽のように腹が丸く膨らみ、手足が短い。顔は腹樽よりもひとまわり小さな樽が乗っかっているようだった。ミオもメイもカリスタの接客が気になって、工房の戸口からこっそりうかがっていたのである。
「いらっしゃいませ。お客様のおっしゃる通り、こちらで<コケコッコの時計>のカスタマイズをうけたまわっております」
カリスタは見事な口調で対応した。それ以前にやってきた冒険者の客にはぞんざいだったが、見る影もない。
肩で風を切っていた客は身長が高いカリスタが姿勢よく立っているのに気圧された風だった。
「そうか。では、見せてみろ」
実際、カスタマイズとはどういうものなのかとたずねる客は多いので、カウンター奥の棚によく見えるように、<コケコッコの時計>を飾っている。もちろん、カスタマイズしたものだ。
カリスタは説明したとおりに、<コケコッコの時計>を棚からカウンターに移動させ、起動させようとした。ところが、客がさっと取り上げ、ためつすがめつする。
売り物、しかも高価な魔道具だ。いくら客とはいえ、勝手に触らせてはならない。壊されては目も当てられない。
そうミオとメイに告げられていたカリスタは、冷静に自信を持って堂々と言った。
「お客様、そちらは非常に高価な商品です。もし、なにかございましたら、弁償していただく必要があります。なので、こちらで操作いたします」
「う、うむ。そうか」
きっぱりと責任の所在について言い切ったカリスタに気圧され、客はおとなしくカウンターに置いた。さすがは元Aランク冒険者というべきか、そこにはあなどる隙はみじんもなかった。自分が壊すとでも言うのかと怒る間隙も、堅いことをいうなよと茶化す余地もなかった。淡々と、かつ毅然としていてつけいらせない。
そうしてカリスタはひととおり説明し、さりげなく付け加える。
「当工房の<コケコッコの時計>は他にないものを提供いたします。お客様にヒアリングをし、それに沿う魔道具として作り替えます。そのため、ある程度の日数が必要となり、相応のお値段となります」
「ほう、そうか」
「けれど、単なるオンリーワンではございません。お客様のために変容されたお客様だけの魔道具でございます」
カリスタの言葉に、客は息を飲んだ。
様子が一変した様は、日をまたいでもまざまざと思い出すことができる。
「あれがダメ押しになったわね」
「もう、これでもか!ってくらい、お客さんの「自分だけの特別」感をくすぐったもの!」
もちろん、その客は即決で決めた。客は自分の<コケコッコの時計>を持ち込むことが多いが、その客は持っていなかったので、新しいものを工房で用意することになった。そのため、値段も跳ね上がったのだが、客は鷹揚に受け入れた。さらに言えば、受け取りに来た際も出来栄えに満足して帰って行った。
カリスタはヒアリングの時にも同席し、ミオとメイに助け舟を出してくれた。
「ランクが高くなると、報酬が高額になるだろう? そうすると、いろんな人間に対応しないといけないからね」
女性だからと初手からみくびられることが多いのだという。
「男の人ってそういうところがあるよね」
「ね。まあ、おじさんはそんなことないけれど」
ミオとメイは顔を見あわせて鼻にしわを寄せる。
「ああ、ジェイクな。あいつはわりに協調性があるから誰とでも合わせられる。周囲を良く見ているし、動きも良い。万年Cランクとかって言われているけれど、ランクアップ試験を受けないのか?」
カリスタが不思議そうに言う。ミオとメイはそれどころではない。
「おじさん、そんなこと言われているの?!」
「そんなの、ビルのせいなのに!」
頭から湯気が出そうなほど憤る。それがひゅっと引っ込んだ。
「でも、今はわたしたちのせいかも」
「そうだよね。店番ばかりしてもらっていたから」
怒ったりしおれたり忙しい姉妹に、カリスタが吹き出す。
「まあ、今はわたしが代わったからね。これからは自由にするだろうさ。それに、本人は若造どものからかいなんて気にしていない。ランクでは測り切れない実力ってのは、分かるやつには分かるからね」
カリスタの言葉に、ミオとメイが元気を取り戻す。
「そうよね」
「おじさん、冒険者稼業に専念できるようになったものね」
「それに、チロとの連携までするんだから、あいつは本当に合わせるのが得意なんだろうな」
カリスタには早々にチロが幻獣であると告げている。翼を持つホワイトタイガーはカリスタも見たことがないと驚いていた。さらには、人の言葉も理解し、ミオやメイの言いつけをよく守っていることに感心した。
「面白い職場だね。昼ごはんまでごちそうになれるし。ミオとメイの料理はうまいから、毎日楽しみだよ」
「そう言ってくれると作り甲斐があるよ」
メイが胸を張る。




