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ミオとメイは【立ち尽くす芍薬】と【苦みばしった石】、【伊達と酔狂の石】とで試行錯誤を繰り返した。
特にメイは採取したばかりの【苦みばしった石】、【伊達と酔狂の石】をいろいろ試してみることができてご満悦である。
ふたりは工房にこもって没頭した。
そうなると、店番のジェイクが不在の際、工房の来客を知らせるベルに対応するのがおろそかになる。
ミオとメイは相談して新しく店番を雇うことにした。
魔道具を専門に扱う販売店においてもらおうと思っていた。しかし、冒険者ギルドからの紹介やもともとの顧客らの評判で、工房へ直接やってくる者が増えた。さらに言えば、口伝えで女性が体調不良に対する薬を求めてやってくるようになった。一層、忙しく、もろもろに手が回らなくなる。
「おじさんにずっと店番をしてもらうわけにはいかないわ」
ミオとメイはいつまでもジェイクに店番を頼むわけにはいかないと考えた。それに、いままではぽつぽつと雨だれくらいの頻度の客足が増えだした。
「虫よけに腕が立つ者がいいな」
ジェイクに店番を雇おうと考えていると相談したところ、そう答えが返ってきた。
「虫よけ?」
「考え方がしっかりしているなら言うことはない」
小首をかしげておうむがえしで言うメイには答えず、ジェイクは追加の条件を付けたす。
「そんな人、いるかしら」
いろんな人の顔を思い浮かべているのか、今度はミオが首をひねる。
「大丈夫だ。元冒険者を当たってみれば良い」
「おじさん、心当たりあるの?」
「ない」
ミオの問いにジェイクは即答する。
「なんだあ」
メイがあからさまに肩を落としてがっかりする。
「俺にはなくても、ミオとメイには力強い味方がいっぱいいるじゃないか」
「あ、そうか。ケイトさんたちね」
「そうね。ケイトさんたちなら知っていそうね」
ミオはすぐさま冒険者ギルドへ出向こうとするジェイクを止めて、【酸っぱいスイバ】の葉の粉末を小分けにする。メイも手伝い、大きな葉を綺麗に拭いて粉末をつつみ、植物の長い茎の繊維を紐がわりにしばる。そうして、小さな花をひとつずつ挿していく。
ジェイクはそれらを詰め込んだバスケットを渡される。
「これは?」
「それはね、【酸っぱいスイバ】の葉の粉末で風邪の予防や美容に良いの。ケイトさんたちに渡してね」
「そりゃあ、喜びそうだ」
ジェイクは自分の表現が控えめだったことを知る。
ケイトたちはジェイクの説明に沸き立った。
「夏風邪ってひくと厄介なのよ」
「その上美容に良いなんて!」
「今回も可愛らしい包みね!」
ジェイクは彼女たちの興奮が収まってから、水で煎じる分量を説明した。
「店番ね! 任せておいて!」
「わたしたちのミオちゃんとメイちゃんの盾にになる人ですものね!」
「ちゃあんとした人物を見極めるわ!」
やる気満々である。
ミオやメイとしてはいつも世話になっているから、ちょっとした頼み事をするにも手土産があった方が良いだろうと思ったのだ。彼女たちの気遣いはケイトら冒険者ギルド女性職員の心をわしづかみにする。
いや、それだけではない。
最近ではバートやスタンリーといった高ランク冒険者からも感謝されている。彼らの「御用達の工房」という評判にもなっている。
やはり、店番は必要だ。
「やっぱり、【立ち尽くす芍薬】は必要ね」
「でも、方向性がうまくいかないわ。【苦み走った白石】なら放射状に伸びて、あちこちを網羅してくれると思ったのだけれど」
ミオとメイは祖母のレシピ帳と錬金術素材一覧と首っぴきである。
夕食の席でも上の空になるか、ふたりで<チュウチュウの斥候>のカスタマイズのことを話し合う。
ふとジェイクが思いついて言った。
「ふたりはレシピ帳は作らないのか?」
「え?」
「わたしたち、おばあさまのレシピ帳があるから」
「それはいわば、参考書のようなものだろう? ミオとメイはふたりの取り組みをしている。そのメモや研究課程を残しておいたら、後で見返すことができるんじゃないか?」
ミオとメイは目を見開いてジェイクを凝視した後、ふたりで顔を見あわせた。
「そうだわ。わたしたちはわたしたちの研究をしているのよ。おばあさまのレシピ帳は助言を与えてくれるけれど、わたしたちの研究とは関係はないわ」
なぜなら、祖母が存命のときに研究しているのではない。自分たちが今、行っているのだ。レシピ帳は過去のものだ。
「それに軌跡を残しておかなくちゃね。記録は大切だわ」
今までも、試みてきた分量や時間といった数値はメモを取っている。
「それをまとめた上で、カスタマイズしたアイテムごとのレシピ帳を作りましょう」
「わたしたちのレシピ帳よ!」
ふたりは食卓に着いていなければ小躍りしていただろう。
「おじさん、ありがとう」
「大切なことを教えてくれて」
「いや、記憶にとどめているかもしれないが、後で見返して改善点を洗い出すには記録が一番だからな」
文字を読み書きできるジェイクならではの考え方だ。もちろん、錬金術師として、ミオもメイも読み書きを学んでいる。だが、大都市リージュでも識字率はそう高くはない。冒険者なら特に低くなるだろう。
ミオとメイは自分たちの研究についてまとめた後、ジェイクに言われた通りに、振り返って見ることにした。
「【苦み走った白石】は駄目だったのよね」
「うーん、他の石も試してみる?」
「そうね。どうせなら、全部やってみましょう!」
レシピ帳に記載するメモが増えていくのが楽しかったことも手伝って、ふたりはどんどん試した。
結果、【伊達と酔狂の赤石】で成功した。
「曲がりくねって伸びるかあ」
「ネズミはあちこち入り込むところが性質が合うのかしら?」
メイが意外な結果に腕組みしてうなり、ミオも苦笑する。
「それにしても、食べ物の匂いにつられる率をもっと下げたいわ」
ふたりはもうひとふんばりすることにした。
「ね、これってちょっと<ブヒブヒのかばん>に似た性質よね」
鳴き声シリーズの大容量バッグは食べ物を入れると、減っていることがある。かばんによって食べ物が違うことから、好物があるのだろうと言われている。
「メイ、それだわ!」
ミオがぱん、と両手を打つ。
「どういうこと?」
「ようはお腹が減っているということよ」
ミオはぴっと人差し指をたてて、いたずらっぽく笑った。
<チュウチュウの斥候>は【立ち尽くす芍薬】、【伊達と酔狂の赤石】、そして【まんぷくのエダウチオオバコ】を用いて錬成したものを試してみると、臭いにつられて失敗する確率が大幅に下がった。
「やったわ!」
「成功したわね!」
ふたりは互いの両手を掴んで小躍りした。
「なうん」
鳴き声に気づけば、工房の入り口でチロが顔を覗かせている。扉は閉めていたから、どうやったものか、少しばかり自分で開いた様子だ。
「あら、チロちゃん、お帰りなさい」
「カスタマイズが成功したから、今日はもう切り上げようよ。チロちゃんもたまには夕ごはん、早めに食べたいよね」
「そうね。チロちゃん、今日はごちそうよ!」
「にゃん!」
以前、工房に入り込んでこっぴどく叱られて以来、チロは勝手に入らないようにしている。
そんなチロをメイが抱き上げ、ほおずりする。
「にゃうん」
ミオとメイにはチロが「お疲れ様」と言ったような気がした。




