26-1.<チュウチュウの斥候>
「恋愛かあ、良いなあ」
「わたしたち、自分たちに恋人がいないどころか、恋愛もしていないのに偉そうなことを言ってしまったわね」
「上手くいったから、結果良ければすべてよし!」
スタンリーがバーバラと付き合っていく過程をまざまざと見て、ミオとメイはうらやましく思った。あんな風に思われているのもうらやましい。
ひるがえって、自分たちはどうだろう。
ケイトたち冒険者ギルドの女性職員のおかげで姉妹錬金術師の噂は出回り、冒険者が多くやってくるようになった。けれど、物見高さがある。興味津々なだけだ。そういう好奇心おうせいなのが冒険者だ。
だからといって、彼らがすべて軽々しく、はっきり言ってしまえば隙あらば手を出そうという者たちばかりではないだろう。
ちなみに、スタンリーと双璧を成すもうひとりのBランク冒険者のバートはと言えば、たまにやって来ては「チロにやってくれ」と言って魔獣の肉を渡してくれる。
メイなどはそこはミオに、ではないのかなどとこっそり思っていた。きっかけが必要ならせめて「チロと一緒に食べてくれ」だろう。
それとも、ミオの顔を見るだけで満足ということか。なんにせよ、お気に入りのチロにかこつけて、ミオに会いに来ている。
しかし、それだけだ。
まったくなんの進展もない。
「よくうちに来るお客さんじゃない人のうちの誰かと付き合ってみる?」
「メイ!」
メイの提案にミオが悲鳴じみた声を上げる。
「でも、全員が手出しする目的ばかりじゃないだろうし。話してみないとわからないよ」
一理あるのでミオは黙る。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
「機会があったら、誰かと話してみるよ。姉さんも試してみたら?」
「そんなことより、スタンリーさんから教えてもらった場所で採取した鉱物の手入れは終わったの?」
「まだ! もう、いっぱいありすぎて困っちゃうよ!」
まったく困ってなさそうな満面の笑みでメイが言う。
スタンリーは装備のメンテナンス料の他に、ミオとメイには何度となく時間を割いて相談に乗ってもらった礼だと言って、鉱物採取ができる場所を教えてくれた。
そこは天然の崖で地層の変化がある場所だった。
「以前は川だったが、流れの向きが変わったかして干上がった場所だと言うんだ」
盗賊につけ狙われていた商人を助けてやって教わったのだという。商人曰く、こういう場所は手つかずの鉱物採取場なのだという。
「そう言う場所からは鉱物が採れるというが、俺よりもメイの方が価値があるものだろう」
流石は稼いでいる者は鷹揚だ。自分で採掘して売却をしなくても、他で金銭を得られるからこそ、そんな風に言える。
「そういう場所って採掘の許可関係はどうなるんだ?」
「大抵は個人採取は黙認されているわ。それでも節度は必要だけれど」
ジェイクの疑問にメイが答える。
例えば、砕石場でも鉱石が採れることがあるという。
「目ざとい石工がふところへ隠してネコババすることもままあるそうよ。これが大当たりしたりハズレ石だったりするのですって!」
一獲千金ね! とメイが目を輝かせる。
さて、スタンリーに教えてもらった場所で採取した鉱物の中には金はなかったが、あまり人の手が入っていないため、この辺りでは見かけられない鉱物が見つかった。
【苦みばしった青石】、【苦みばしった緑石】、【苦みばしった白石】、【伊達と酔狂の虹石】、【伊達と酔狂の赤石】、【伊達と酔狂の黄石】である。
【苦みばしった青石】はリージュの素材屋で購入し、【伊達と酔狂の虹石】はリージュの市場のすぐそばの細い路地で買ったことがある。
その係累の鉱石を採取することができて、メイはほくほくである。
ここ最近、大量に採取した鉱物を機嫌良く手入れにいそしんでいる。
ふるいでふるったり、歯ブラシでこすり、採取して来た石から不要物を分離させる。あとで錬成するにしてもざっと手作業でやっておく。水をかけてタワシや歯ブラシでごしごしとやり、あるいはたがねや小ハンマーでたたいて不要物を落とす。
保存にも気を配る。
腐ったり虫が食ったりしないが、放置しておくと変容して性質を変えてしまうことがある。直射日光を避け、湿気のない、温度差の激しくないところで保管する。
ミオとメイは奇しくもBランクという高ランク冒険者たちの信頼を勝ち得て、それぞれが新しい採取場所というふたりにとってはかけがえのない報酬を得た。
鳴き声シリーズのカスタマイズのうち、<ホウホウの探知>と<カアカアの斥候>は失敗している。
ミオとメイは成功するまでとことん突き詰めるのも良いが、他のものを扱ううち、違ったアプローチの仕方が浮かぶかもしれないと話し合った。
「じゃあ、次は<チュウチュウの斥候>に挑戦してみない?」
「そうね。消費アイテムだし」
<チュウチュウの斥候>
離れた場所に入る敵の様子を探る(地上)。
障害物もなんのその。隙間に潜り込む。
食べ物に弱い。
良い匂いを嗅ぎつけると、引き寄せられ、役に立たなくなることもある。
「<カアカアの斥候>の陸上版みたいな感じかな」
ふたりの脳裏に失敗の苦い記憶がよみがえる。
「そう言えば、<バウワウの見張り番>は成功したのよね」
嫌な記憶を振り払おうとミオは殊更成功体験を呼び起こす。
「その時は、【苦みばしった青石】と【立ち尽くす芍薬】を使ったね」
メイも思い出そうと努める。
「おばあさまのレシピ帳よ!」
ミオがはっと顔を上げる。
「あ、そっか。わたしたち、<ホウホウの探知>と<カアカアの斥候>を取り扱ったときはおばあさまのレシピ帳を見ていなかったね」
メイは呆然と言う。
ミオとメイは目を見あわせる。すぐさま立ちあがって、身をは祖母のレシピ帳を、メイは錬金術素材一覧を引っ張り出して来る。
「<ホウホウの探知>はともかく、<カアカアの斥候>には【立ち尽くす芍薬】がまた使えそうじゃない?」
「ということは、<チュウチュウの斥候>にも有効そうだよね」
ミオが浮き浮きと言い、メイがわくわくと答える。
「そうね。ただ、鉱石の方は一方向ではだめね」
「それなら、【苦みばしった緑石】や【苦みばしった白石】はどう?」
ミオが思案し、メイが採取して来たばかりの鉱石を提案する。
【苦みばしった石】
いぶし銀色がかった緑や青、白色の鉱物。
色は含有するものが異なることで変化が出て、それぞれ性質も異なる。
石の割れ方(劈開)は必ず真っすぐに伸びる。
このグループの鉱物は単体では用いず、他と一緒に用いてその性質を変化させる。
【苦みばしった緑石】
いぶし銀色がかった緑色。渋みのある石。四方に割れる。
【苦みばしった青石】
いぶし銀色がかった青色。ひきしまった石。一方向に割れる。
【苦みばしった白石】
いぶし銀色がかった白色。きびしい石。放射状に割れる。
「それに、【伊達と酔狂の石】も使えるんじゃないかしら?」
「そうだね。いろいろ試してみたい!」
「そうね。せっかく、素材一覧の説明を読むばかりだったのだから、実物を使ってみましょう」
そうなのだ。
ミオとメイはまだ新人、駆け出しで、扱ったことのない素材ばかりだ。知識は必要だが、実践はまた文字では分からない事柄がある。祖母のレシピ帳のメモ書きにはそういった情報で溢れていた。それをやってみたくてミオもメイもうずうずしていた。
【伊達と酔狂の石】
華やかな色あいの鉱物。赤、虹、黄色など。
色は含有するものが異なることで変化が出て、それぞれ性質も異なる。
石の割れ方(劈開)が好き勝手あちこちに伸びる。
このグループの鉱物は単体では用いず、なにかと一緒に用いてその性質を変化させる。
【伊達と酔狂の赤石】
鮮やかな赤色。曲がりくねって割れ目が伸びる。
【伊達と酔狂の虹石】
派手な目を奪う虹色。好き勝手あちこちに割れ目が伸びる。
【伊達と酔狂の黄石】
目の覚める黄色。稲妻型に割れ目が伸びる。




