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「さすがは、年の功。経験を積んでいると違うわね」
若い娘はあごを上げて笑う。
バーバラは鼻に皺を寄せた。
年齢というどうにもできない部分を、的確に抉ってくる。しかも、褒めているようにみせかけている。本人にだけ届く痛烈な言葉だ。
しかし、そこにはもうひとりいた。
「そうなんだよ。バーバラは素敵な歳の重ね方をしていると思う」
スタンリーだ。
とにかく、話しかけづらいというのならば、話題を全て褒める方向へ持ち込む。荒業だが、共通の会話を見つけられないのならば、彼に関心を持ってもらう、あわよくば、好意を抱いてもらうことを目指す。
一流の冒険者は初めてのことでも、しっかりと教わったことを実行している。
「え、そう? あ、ありがとう」
バーバラが頬を染めて面はゆそうにするのに、スタンリーは内心でミオとメイを「師匠!」と呼んでいた。「師匠! 俺、教えを実行できていますよ!」心の中で叫んだ。
ミオとメイが自分たちのあずかり知らぬところで、一流の冒険者に恋愛の師匠と呼ばれ始めた瞬間である。
だが、まあ、歴史的瞬間とかなんとかの分岐点とかの大仰なものではないことは確かだ。
「スタンリーはわたしと一緒に歳を重ねていきましょうよ」
若い娘が上目遣いになる。しかし、スタンリーはバーバラの様子に見とれながらも、視界の端で若い娘がその前に一瞬顔を歪ませたのを見ていた。
「そうだわ、わたし、ペスカ通りのレントに行きたいわ! ねえ、一緒に美味しいものを食べましょうよ。ね、付き合って?」
両手を唇の前で重ね合わせて、良いアイデアだとばかりに言う。
「いや、その、俺は君とは付き合えない」
女の子からの告白、というもう今後あるとは思えない椿事であったが、とにかく、バーバラの前だ。スタンリーはきっぱりと断った。
すると、若い娘はみるみる目を吊り上げた。
「ふん、おばさんとぶさいくとでお似合いよ!」
頬を膨らませて行ってしまう。
「あら、素敵な捨て台詞。行っちゃったわね。仕方がない、わたしが付き合ってあげるわ」
バーバラはペスカ通りのレントなんて高いお店は無理だけれど、討伐のお祝いに———と言いかけるも、スタンリーは違う風に受け取った。
「え、本当? バーバラ、好きです。付き合ってください」
告白もしていないのに付き合ってくれるという。驚きつつも、一応、自分の口からもきちんと言葉にした。もちろん、これも心得のうちである。
こと恋愛に関してはFランクの駆け出し同然である。言われたことを、とにかく守っている。時と場合に応じた臨機応変というものがない。そのため、とんちんかんになる。
ただ、そこには相手を思う心はしっかりとあった。
そして、相手もまた、多少のちぐはぐさに戸惑いはあれど、ちゃんと心意気を汲み取ることができる人柄だった。
「え、いや、そういう意味じゃ……ああ、でも、いいわ。そういうことにしておく」
「あの、それで答えは……?」
「もちろん、オーケーよ。よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ!」
こうして、スタンリーは恋愛のランクをひとつランクアップさせた。
ちなみに、ペスカ通りのレントという言葉を覚えていて、後からミオとメイにそこへ誘えば良いのか、とたずねた。
初デートである。
すべて師匠頼みというのも情けないが、繰り返すが初デートだ。失敗したくはない。
「初デートだし、そこで良いと思うよ」
「お高いけれど、バートさん、Bランク冒険者だもんね」
ミオとメイの言葉に、バーバラもそんな風に言ってためらっていたな、とスタンリーは思い返す。「付き合ってあげる」という言葉に有頂天になって、バーバラの言葉をきちんと聞いていなかった。師匠、すみません、教えを実践できていませんでした。
「討伐の報酬が入って高い店に行ってみたいから、一緒について来てくれって言うのはどうだ?」
「うん、その言い方だったら、バーバラさんも気にせず行ってくれそうね」
ジェイクの言葉にミオが同意する。
師匠が認めるように、ジェイクは気遣いができる人間だ。それは冒険者ギルドでも聞く話である。
「スタンリーさん、いい?」
メイがきりっとした顔で片手を腰に当て、残る片手の人差し指をぴっと立てる。
スタンリーは姿勢を正した。
「女性はね、身支度に気を掛けるものなのよ。バーバラさんは気遣いの人だと聞くわ。レントのような高級店だったら相応のおしゃれをしたいと思うわ」
だから、前もってちゃんとレントへ行くということをバーバラに伝えておくようにと厳かに告げる。
「そうね。素敵なお店でおしゃれして初デートなんて、良い思い出になると思うわ」
メイの言葉にミオは微笑む。スタンリーはそうなると良いな、と思った。しかし、甘い夢想もそこまでだった。続くジェイクの言葉がスタンリーを恐怖に落とす。
「スタンリーもそれなりの格好をしなくちゃな」
スタンリーはぽかんと口を開ける。
「そ、それなりの格好ってなんだ?!」
「きちんとした服装よ」
「大丈夫よ。服を扱う店に行って、高級店で食事をする服が欲しいと言えば見繕ってくれるわ」
慌てふためくスタンリーになんてことのない風にメイが言い、ミオが助け舟を出す。
安堵しつつ、スタンリーはがくがくとうなずく。
「あ、レントへ行くんだったら、大分お金がかかるね」
「もし、あれだったら、手持ちの服からわたしたちが選ぼうか?」
メイとミオが顔を見あわせ、心配げにスタンリーを見やる。
うちの師匠の優しさときたら、どうだ。
スタンリーは感激にすぐに返事が出来なかった。
「メイ、ミオ、大丈夫だ。スタンリーは稼いでいる。毎日レントに通うってのでもないんだから、そのくらいの出費は大丈夫だ」
「え、毎日レント通うくらいのレベルのお金持ちなの?」
「すごいのねえ」
その後、高級店で通じるマナーが分からないという話をし、おそらく、バーバラも同じだろうから、ふたりで一緒に勉強をすれば良いなど新たなアドバイスをもらった。
そうして、スタンリーはバーバラと記憶に残る初デートを楽しんだ。ほろ酔い気分で手を繋ぎながらペスカ通りから仰ぎ見た星空は、いつでも思い出せる。
こうして恋人ができたスタンリーはその後も鳴き声シリーズの装備を愛用し続けた。ただし、付き合いたては浮き立つものだ。その気持ちのまま、山間でジャンプに失敗した。
奇しくも、<ゲコゲコの鎧>にあるように。
そうして、<ゲコゲコの鎧>の説明に信ぴょう性を添えることとなった。
「こんなやつ、いるかあ?」
「いるんだって。ほら、Bランクの冒険者。<ゲコゲコの鎧>を使っているやつがさ」
「え、本当に飛び損ねたの?」
「らしいぜ」




