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スタンリーはその後、順調に思い人であるバーバラと親交を深めていった。といっても、ふたりでどこかへでかけるというところまでこぎつけていない。ただ、なんとなく親しみを感じてもらえるようになっている気がするのだという。
「バートは良い錬金術師工房を教えてくれた」
メンテナンスに出した鎧と盾を受け取ったスタンリーが満足げに言う。
その鎧と盾を身に付け、高ランク討伐を終えたスタンリーがリージュへ帰って来て冒険者ギルドへ報告した翌日、街にはすでに噂が回っていた。
リージュと隣町を結ぶ街道で魔獣が出現したという注意喚起は素早く駆け廻った。街道は陸の流通において重要なものだ。ハントから水路でリージュへ運ばれてきた物品はこの街道を通ってあちこちの街や村へ向かう。
商人だけでなく職人たちも青くなった。いくら物を作っても売る先がなければ金銭は得られない。
しかも、一度はCランクのベテラン冒険者パーティが討伐を行って失敗している。一時は王都へ連絡し、Aランクの冒険者に助けを求めるか、軍を派遣してもらうべきではないかという意見が飛び交った。
リージュの冒険者ギルドは自分たちの縄張り内でのことに、他の手を借りてなるものかとばかりに、スタンリーとバートに指名依頼を出した。一時的にふたりはパーティを組み、みごとに討伐を成功させた。
息を潜めるようにしていたリージュは開放感に沸いた。商人たちは意気揚々と流通を再開させる。職人たちは胸をなでおろした。
「さすがはBランク冒険者!」
「リージュのツートップ!」
「もうふたりでパーティを組めばいいのに」
そういった声も出るほど、興奮状態にあった。バートとしてもスタンリーとしても、同じ地域で活動する同ランクの同業者で気心も知れているが、スタイルが違うので長期間行動を共にしようとは思わない。
討伐から二日経つも、街を歩くスタンリーにあちこちから声がかかる。中には若い女性もいた。常にはないことだ。危険な仕事は報酬も良いから、それ目当てかな、などと思いつつ、スタンリーは市場を巡って目当ての人を探す。
日差しの下、汗を拭いながら品出しをしているはつらつとした女性だ。茶色の髪を結い上げたその女性はバーバラという名前で、やや垂れ目で下唇が厚いのが色っぽいとスタンリーには思える。白い頬にそばかすが散っている点が少しばかり幼さを感じさせる。それ以上に親しみを覚える。
バーバラはリージュの近隣の村に住む親せきが持ち込む野菜や果物を、市場で売る手伝いをよくしている。兄弟姉妹が多く、母親を手伝って彼らの面倒を見ているうちに行き遅れたのだと笑っていた。その時の、さっぱりした雰囲気を思い出すと、居ても立っても居られない気持ちになって、とりあえず、外に走り出して魔獣に剣をぶち込むことで気持ちを落ち着けたスタンリーである。
バーバラは中背で低くはないが高くもない身長で、精いっぱいつま先立ちして腕を伸ばし、日よけの布を引っ張ろうとしていた。
「手伝うよ」
久しぶりのバーバラの姿を、立ち止まって凝視していたスタンリーは、はたとなって声を掛けて布を掴む。
長身のスタンリーはつま先立ちしなくても届く。
「このくらいでいい?」
「うん、いいわ。ありがとう」
「あ、バーバラ、久しぶり」
挨拶を忘れていた。ミオとメイにとにかく、こまめに会って挨拶をしろと言われていた。それはとにかく顔を見るようにしろという意味だったが、スタンリーは討伐に日数をかけたので久しぶりに会う挨拶をしなくては、と思ったのだ。
「お帰りなさい。けがはない?」
バーバラは女性と話慣れていないがゆえにたまに噛み合わない言動をするスタンリーに慣れつつあった。「なにはともあれ挨拶」というミオとメイのアドバイスは案外有効となっている。だからこそ、スタンリーがその意味合いを掴み損ねつつも、とにかく助言通りに行動するという、さらにとんちんかんさが磨き抜かれている。
「あらあ、この人はBランク冒険者よ? そんなわけないわ。ねえ?」
横合いから声がかかる。昨日からなにかとスタンリーに付きまとう若い娘である。むやみに褒めちぎられ、とにかく、近寄ろうとしてくる。女性にちやほやされる経験のないスタンリーからしてみれば、不気味で、間合いを取る訓練かというくらいのらくらと動き回っている。
「いや、でも、油断は禁物だからな。心配してくれて嬉しいよ」
姉妹から伝授された心得をしっかりと実践する。
その二、相手の言動に関心を持ち、気遣いのそれには感謝や喜びを伝える。
もちろん、その一は清潔感である。
その三は誠実に。いや、乱暴な言動をしないだったかな。あれ、それはその四だったかな? あ、挨拶はどこに入るんだ?
まあ、順番はどうでも良い。
とにかく、彼は教わったことを一生懸命思い出している間にも、女性ふたりの間には火花が散っていた。




