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ジェイクがハントの冒険者ギルドに行った際、そこの女性職員たちにも茶話会兼健康問診会を勧めたということはミオとメイも聞いていた。
その話が決まれば、ミオとメイの錬金術工房としても大口の取引となる。ふたりはジェイクに大いに感謝した。
「どうやら本決まりになりそうだ」
リージュの冒険者ギルドにその連絡が入ったというジェイクは、雨の日に出没するという魔獣の素材が欲しいという依頼を受けたので、ずぶ濡れだった。風呂に直行させられ、ついでに服も洗ってしまう。
ジェイクが風呂に入っている間に、ミオとメイはブーツや剣帯などの革製品の手入れをしてくれていた。
「ああ、ありがとう」
湿地帯に行って泥だらけになったこともある冒険者からしてみれば、雨に降られるくらいどうということはない。しかし、帰り着いたらすぐに温かい風呂が用意されており、入浴している間に物品の手入れをしてくれているのは非常にありがたい。
「こちらこそ。おじさんのおかげで、冒険者ギルドの大口の取引が舞い込んできたわ」
「しかもリージュとハントのふたつの大きな冒険者ギルドよ! おじさん、営業力があるのね」
「長い間冒険者をやっているからな」
立地が近いので、リージュとハント双方の冒険者ギルドで仕事を請け負っていただけである。
ジェイクはそう言うものの、女性職員全員が一度にいなくなることを防ぐために二回に分けるなどの気遣いを見せる彼だからこそ、相手も耳を傾けるのだろう。
「ミオとメイが入浴剤を手土産に持たせてくれたのが効いたのさ。ハントとリージュは近いから、それぞれの女性職員たちは仲が良い上、常に情報交換しているんだ。ケイトたちから聞いていた入浴剤だって喜んでいた。そうそう、ケイトたちもハントの土産を喜んでいたぞ」
ミオとメイは【やさしさのアニス】のハーブティと【まんぷくのエダウチオオバコ】を処方したものを土産として用意した。
「まがい物が出回るほどの人気のダイエット薬らしいな」
「そうなのよ。今は素材すら市場から姿を消しているの」
「一般の人が見つけたとたんに買うのと、専門家の処方されていない物を使う人が出たら大変だからって、規制されているの」
「本当に冒険者ギルドの女性職員の情報網はすごいな」
半ば感心し半ば呆れるジェイクは、そのケイトたちがハントの冒険者ギルドに茶話会兼健康問診会をねじこみそうなほど勢いづいて喜んでいたと話した。幸い、彼女たちが勇躍する前に先方から打診があったという。
「報酬は期待しておいてくれって言っていたよ」
かくして、ミオとメイはケイトたちの手腕で、目が飛び出るほどの報酬額を提示された。しかも、それもハントの冒険者ギルドの指名依頼という形を取ってくれた。
そうして、ハントの冒険者ギルド女性職員たちの茶話会兼健康問診会が開かれた。
「うちにも薬を売ってちょうだい。回復剤に解毒剤はいくらあっても良いから」
「ミオちゃんとメイちゃんは植物と鉱物の採取が得意なんですって? 依頼が出ていたら連絡するわね」
「リージュの冒険者ギルドに連絡したら、ジェイクを通して話がいくでしょう」
ハントの冒険者ギルドの女性職員たちはリージュの者たちよりもさらにてきぱきしていて、動きが早い。話も早く進む。ケイトたちがおっとりしているように見える。
後でジェイクに話したら、比較対象がおかしい、錯覚だと言われた。
「ところで、ミオちゃんとメイちゃんにお願いがあるの」
「会ったばかりで、しかも入浴剤のお土産までもらっておいて、その上ねだるのは申し訳ないのだけれど」
「こんなに素晴らしい催しをしてくれた手腕を買っているのよ。素晴らしい能力の持ち主だわ」
「あのね、わたしたちもその、」
ハントの女性職員たちはケイトから【まんぷくのエダウチオオバコ】を処方したダイエット薬をほしがった。
そこで、ミオとメイは茶話会兼健康問診会が終わった後、【まんぷくのエダウチオオバコ】を処方したダイエット薬をリージュの運送便でハントの冒険者ギルドに送った。
ケイトたちにも土産として渡したから金銭を受け取っていないので、ハントの女性職員たちからも断った。
「気持ちはとても嬉しいわ」
「でも、こういうのはきちんとしておかなくてはいけないわ」
「そうよ。いま、どれだけも値が吊り上がっている上、専門家しか買えない素材なのよ」
「そうそう。それに、技術料もあるわ」
そんな風にして押し切られてしまった。
ケイトたちリージュの冒険者ギルド女性職員は土産だというミオとメイの気遣いを受け取った上で、対価を貨幣ではなく、素材や食品などをジェイクに託して渡してくれた。ミオとメイは喜びつつ恐縮して気持ちが落ち着くハーブティや焼き菓子をジェイクを通して差し入れする。
「差し入れも嬉しいけれど、ミオちゃんとメイちゃんたちの顔も見たいわ」
「工房で作業するのが忙しそうだからな」
ケイトのおねだりをジェイクは軽くかわす。それでなくても、錬金術師姉妹の噂はいや増すばかりだ。冒険者ギルドにふたりが来れば、すぐに虫が寄って来る。そのくらいなら冒険者稼業の傍らにジェイクが使い走りする。
「そんなに【まんぷくのエダウチオオバコ】が人気なら、工房にも置いたら良かったんじゃないか?」
集客につながっただろうとジェイクは言う。
しかし、ミオとメイの友人たちにも土産で渡したし、【まんぷくのエダウチオオバコ】ほとんど使い果たした。
「ううん、いいの。こういう一時の人気商品というのは客層が変わってしまうから」
「ずっと流行を追っていける体力のある工房なら良いのよ?」
「でも、わたしたちはそういうわけではないから」
さほど残念そうでもなく、流行り物に飛びつかず、地道に自分たちの工房とその取り扱う商品を気に入ってもらうのだというミオとメイに、ジェイクは心底感心する。
ちなみに、なにかの折にケイトにその話をしたところ、彼女もいたく感じ入った。そして、そのことはすぐさまリージュとハントの冒険者ギルド女性職員たちに伝わった。
「さすがはミオちゃんとメイちゃん」
「リージュの美人錬金術師姉妹!」
「リージュの宝ね」
「茶話会でごちそうになったお茶もお菓子も美味しかったわあ」
「リージュの冒険者ギルドにはたまにジェイクが差し入れだって持って来てくれるんですって」
「良いわね、リージュのギルド」
ケイトを通してそんなハントの女性職員たちの意見を聞いたジェイクは言ったものである。
「いっそ、ハーブティや焼き菓子を置いたら売れるんじゃないか?」
カウンターの端にバスケットにちょこんと小さなブレンド茶葉や菓子が置かれるようになるのは、少し後の事である。そして、店番にすげなく対応された冒険者たちが美人姉妹の手作りだという食べ物を買っていく。美人姉妹の手作り料理もまた、工房の目玉のひとつとなった。
「女の子へのちょっとしたプレゼントにも良いしな!」
「ちっ、充実されていて良いですねえ」
「俺らは自分で食べますけれどね!」
そんな会話をカウンターの向こうで聞きながら、毎日ミオとメイの手料理を食べているジェイクは自身の幸せに、改めて感謝するのだった。
~ 第三章 「試行錯誤」 ~ 完




