20. <ホウホウの探知>
<バウワウの見張り番>の改良に成功したミオとメイは次はなにに着手しようかと相談し合う。
「やっぱり、手頃な価格のものが良いんじゃないかしら」
「そうだよね。魔道具って高価だから試しにくいしなあ」
<コケコッコの時計>に続き、<バウワウの見張り番>、<ニャーニャのローブ>のカスタマイズに成功したわりに、ふたりは堅実なものである。
<コケコッコの時計>は客の要望に沿ったものだが、<ニャーニャのローブ>に関してはこれはもう、副産物としか言いようがないのだ。客であるバートが気に入ってくれたから良かったものの、わざとそうしようとしてついた効果ではない。
元々、採取を得意とするが、錬成に関しては自信がなく失敗を繰り返していたふたりである。こればかりはひとつずつ成功を収めて力をつけていくしかない。
そんなわけで、ふたりは<バウワウの見張り番>と同じく消費アイテムである<ホウホウの探知>を扱うことにした。
さっそく錬金術便覧を引っ張り出して説明を読む。
<ホウホウの探知>
敵の能力を調べる。明るい所では失敗することが多い。
敵の能力が分かったら「ほうほう」と納得してあげるのはお約束。
冒険者とは自由気ままな者が多い。ひとところでずっと居つく者はあまりいない。あっちこっちへ風来坊するものである。その際、この<ホウホウの探知>を持って行くとある程度、安全を確保できる。そのため、需要があるアイテムである。
「この「明るい所では失敗することが多い」というのがネックね」
「そうだよね。明るい所だったら、自分で敵の能力を見極めやすいから、そんなに問題視されていないだけで、使えたら便利だものね」
そこで、ふたりは<ホウホウの探知>のレシピを探した。これがなかなか見つからない。
「専門のレシピを買うしかないのかなあ」
錬金術便覧に掲載されているレシピはほんの一部であり、生活必需品となっている魔道具のものですら無数にある。さらに言えば、どれも高額だ。
そこで、名称からアプローチすることにした。
「ホウホウというのはフクロウの鳴き声ね」
ふたりは工房の店番をジェイクに任せ、連れ立って図書館へやって来た。
市民であれば保証料を支払って入館することができる。本を持ち出すことはできないが、入館時に渡された木札を返したら、保証料は戻って来る。
商業都市であるリージュでは多くの書を集められていた。
メイが「鉱物図鑑~カラーイラスト付き!~」という背表紙にふらふらと引き寄せられそうになるのをミオが腕を引いて止める。そのすぐ傍に「修道院の秘伝ハーブレシピ帳」という書があって、ミオが凝視するが、メイが服の裾を引っ張る。
ミオとメイは書架の本の背表紙に目移りしながらも、まずは鳥について記載されていそうな本を探す。
大きな百科事典を見つけてページをめくると、フクロウの項目が出てきた。
フクロウは夜でも遠くを見通せる。夜行性で夜に狩りをする。そのためわずかな光で見ることができるとあった。
「逆に、だから、昼間の明るさがまぶしいんだなあ」
メリットがデメリットになるということはままある。
「きっと、遠くを見通せるということで、フクロウをモチーフに探知アイテムを作ったのね」
「でも、そのせいで明るさがまぶしいなんて。見えすぎるのが仇になったんだね」
ひそひそと小さい声でささやき合う。
「じゃあ、明るさに慣れれば良いかな?」
「その方向からいろいろ試してみようか」
話がまとまり、メモを取り終えたふたりはふと思いついて、同じ鳥類のことも調べてみた。比較対象があった方が良いだろうと思ったのだ。
「鳥って鳥目で夜に活動しないと思っていたけれど、そうでもないのね」
「鳥目の鳥の方が珍しいんだ」
鳥目の鳥の代表がニワトリである。ふたりが今、ぽつぽつとカスタマイズのオーダーを受ける鳴き声シリーズの対象でもある。
意外なことを知ったふたりは満足して百科事典をもとの書棚に戻す。
そして、どちらからともなく、先ほど目についた本を引っ張り出して来て読んだ。ふたりはしばらく本に没頭した。
リージュの広場にある鐘の音をなんどか聞いた気がする。そして、その鐘の音が聞こえた後、係りの人間が閉館時間を告げにやって来た。
「え、もうこんなに時間が経っていたの?」
「うそ?!」
ミオもメイも机に何冊も本を出して、ページをめくってはメモを取っていた。違う書物でも関連することが書かれていて情報が繋がって行ったり、逆に全く異なった記載があって、自分で真偽を調べようと考えていた。写本においては書き写す際に間違った記載をしたり、違うものと取り違えていたりすることはままあることだ。
ふたりは慌てて本を書架に戻して図書館を出た。
「ああ、夕暮れがまぶしいわ。フクロウの気分よ」
調べた記載はまさしくこういうことか、とミオが目を細める。
「お昼、食べそこねちゃったね」
一食抜いた自覚をした途端に空腹を思い出したメイが腹に手を当てる。
「おじさんに悪いことしちゃったわね」
「早く帰って夕ごはんを作ろう」
だが、ミオとメイはすぐには家に帰りつくことはできなかった。
最近、工房に籠っていることが多く、広場の市場にまで足を伸ばさず、近場でまかなっていた。せっかく、広場が近いのだからと市場に寄ることにしたのだ。
「あらあ、ミオちゃん、メイちゃん、ずいぶん久しぶりじゃないの!」
「近頃、ずっと工房で作業していたのよ」
「今日は図書館にいたの。お昼を食べるのを忘れていたのよ」
お腹が空いたと眉を下げるメイに、屋台の親父がそれはいけない、と言って串焼きをくれる。
「わあ、ありがとう!」
こういうところがメイの無邪気なところで、ミオには真似できない部分だ。誰にでも好かれる点だろう。
「姉さん、もらったよ。半分ずつ食べよう」
そして、メイは自然に自分にその余禄を分けてくれる。
先にかぶりついたメイの頬にタレがつき、幸せそうに咀嚼する姿に苦笑しながらぬぐってやる。
ミオは知らない。
茜色の西日に朱金色に髪を輝かせる姉妹ふたりのやりとりは、まるで絵本の中の挿絵のように美しく、その場にいた人間に感嘆のため息をつかせていたということを。
頬を大きく動かしながら、メイが残りの半分の串を差し出して来る。ミオは受け取って食べた。
「おいしい」
「ね。タレのかかった肉って焼くと香ばしくて、たまらないわね!」
「ねえ、チロちゃんもこういうの、好きかしら」
「どうかな。動物には食べさせない方が良いんだろうけれど、幻獣で甘いものが好きなくらいだから」
ふたりはすっかり忘れているが、以前、ミオの遅れた成人の祝いに作った【身軽なシカ】のステーキは香辛料たっぷりのワイン液でマリネしたものだ。チロはがっついていた。
「今度、あげてみようか」
「賛成! 美味しいものをいっぱい発見していってほしいよね」
そんなことを話しながらも、ふたりは食材をあれこれと買い込んでいく。
「ねえ、これってあったかしら」
「あと一本だった」
「じゃあ、買っておこう」
「ミオ! ミオじゃない!」
ミオが店員に個数を告げて支払いをしていると、通りかかった者から声がかかる。
見れば友人だった。
「久しぶりね」
「本当ね! あなた、ちっとも顔を出さないんだもの。また工房に籠っているの? 少しは外に出ていらっしゃいよ。カビがはえちゃうわよ」
ミオのあいさつの何倍もの言葉が流れていくのに苦笑する。
「工房を再開したばかりなんだもの。今が踏ん張り時なのよ」
「まあ、そうなんでしょうけれど。ああ、メイちゃんも。ひさしぶり。元気そうでなによりだわ」
「こんにちは」
「良いこと、落ち着いたら、必ず会いに来てよ。少しは気分転換をしなくちゃだめよ!」
そんな風に言いながら、遊ぶ約束を取り付け、友人は手を振って去って行った。
「相変わらず、パワフルと言うか、おしゃべりが途切れないと言うか」
「でも、確かにわたしたち、工房の仕事ばかりしていてるものね」
苦笑するミオに、メイがくちびるをとがらせる。
ミオは不満げなメイに、そう言えば、まだ成人もしていないのだから、根を詰め過ぎたかと反省する。
「それにさ。最近、バートさんの件で素材屋に行ったきりで、素材の店を回遊していないよ!」
そっちの方が不満だったのか、と思いつつ、ミオもうなずく。
「そうね。今日はもう遅いしお腹もすいたから、今度はじっくり市場を回りましょう」
「ね、ね、冒険者ギルドの報酬も入ったし、新しいチャレンジもしていることだし、珍しい素材を見つけたら、買っても良い?」
「使えそうなものならね」
「えー、どこでどんなものが使えるかなんて、今の段階じゃあ分からないよ」
そんな風に話し合いながらふたりは足早に帰途についた。工房ではおじさんとホワイトタイガーが腹を空かせて待っていることだろう。
さて、<ホウホウの探知>に関して、ミオとメイは明るさを加えたらどうであろうかと思い付き、【ふつふつ光る水滴石】を用いて見た。
これは魔道ランプにも用いられる鉱石で、暗いところで光る。水滴のようにふつふつと粒が集まったものである。
結論から言うと、どのように錬成しても<ホウホウの探知>の改良にはこぎつけなかった。
「うーん、明るさを足したら逆に探知できなくなるようね」
「そうか。この方向性では駄目そうね」




