18-2
ミオとメイはさっそく、祖母のレシピ帳と錬金術素材一覧を引っ張り出して来て、望む効果を得られそうな素材を片っ端から探していく。
「これは?」
「ちょっと違うわね。こっちはどう?」
「どれどれ? うーん、どうかなあ」
その日は朝から雨が降っていたので、ジェイクは冒険者稼業を休み、工房の店番を買って出た。客がいない間は暇だから掃除をしておくと言って箒を持ち出していた。
「おじさんってマメだよね」
「ね。ああいう人の方がもてそうなんだけれど、恋人っているのかな」
「ちょっと前までビルに手を焼いていて、それどころじゃなかったみたいね」
「なうん」
チロも今日は散歩には行かず、調べものをする間だけ姉妹とともに食堂にいる。ミオがハーブティを入れたが、ページを繰るのに忙しく、カップの中身が減るよりも冷めていく。チロはハーブティも飲めるようで、こちらは水入れの中身はすっかり空になっている。しきりに顔を洗ったかと思えば、あちこち歩きまわり、時折ミオやメイの足に頬ずりしてするりとすり抜けていく。
「メイ、この鉱物はどうかしら?」
「姉さん、この植物、使えそうじゃない?」
ミオとメイが声を上げたのは同時だった。それぞれの得意分野ではなく、相手の専門とするものを見つけ出したのだから、仲が良いものである。
ふたりは本から顔を上げて顔を見あわせ、おもむろにトレードして、紙面に視線を落とす。
「【立ち尽くす芍薬】かあ。ちょうど、今が開花時期ね」
祖母の文字で、こうある。
「薔薇の双璧を成す華やかさにもかかわらず、恥じらいをもつはにかみ屋。思いやりが感じられるだろう」
なんてことのない記述だ。なんなら、素晴らしい花なのだなくらいにしか思わない。けれど、そこで終わってしまってはいけない。錬成時に加えれば、「思いやり」によって、使用者の意思に沿うように錬成物を変化させやすくなるというのだ。
「根を薬に用いることしか知らなかったわ」
ミオはため息をついた。その向かいでは錬金術素材一覧を見てメイが声を上げる。
「ああ、そっか、【苦みばしった石】があったわね!」
【苦みばしった石】
いぶし銀色がかった緑や青、白色の鉱物。
色は含有するものが異なることで変化が出て、それぞれ性質も異なる。
石の割れ方(劈開)は必ず真っすぐに伸びる。
このグループの鉱物は単体では用いず、他と一緒に用いてその性質を変化させる。
【苦みばしった緑石】
いぶし銀色がかった緑色。渋みのある石。四方に割れる。
【苦みばしった青石】
いぶし銀色がかった青色。ひきしまった石。一方向に割れる。
【苦みばしった白石】
いぶし銀色がかった白色。きびしい石。放射状に割れる。
「姉さん、これで方向性を持たせられることができるんじゃないかしら? ほら、この【苦みばしった石】!」
メイがミオの方に錬金術素材一覧を向ける。
「そうね。その【苦みばしった青石】と【立ち尽くす芍薬】を使ったら、使用者だけに分かるようにアラームを調節できそうね」
「でも、【苦みばしった石】はいつも行く坑道では採れないわ」
ミオの言葉に、途端にメイの顔つきが苦くなる。まるで、記載されている石のようである。
「素材屋に行きましょう。リージュだったら大抵のものが置いてあるわ」
【立ち尽くす芍薬】の方はちょうど開花時期と重なり、花を得られるだろうとミオは言う。
午後から雨は止んだが、足元が悪い中で採取をするのは止めておいた方が良いというジェイクの言葉に従って、今日は素材屋に行くことにした。
冒険者ギルドで報酬を得たふたりは滅多に行かない素材屋で【目移りするアヤメ】に出会ったように目移りした。
ともあれ、ミオの言うとおり、目当ての【苦みばしった青石】は見つかり、購入することができた。
翌日には【立ち尽くす芍薬】の花を手に入れることができた。
朝早く出てきたせいか人影がないのを幸いと、魔獣が出てきた際、チロも戦闘に加わった。翼を広げて飛びまわり、魔獣たちをかく乱をした。魔獣の意識がそれた瞬間を逃さず、ジェイクがかんたんに倒す。
「よし、チロ。次は爪や牙を使って行こう。実際に当たらなくても威嚇だけでも十分効果はあるからな」
「にゃん!」
ジェイクの言葉に、チロは意気揚々と答える。案外、良いコンビネーションを築けそうなふたりである。
そうして採取して来た【立ち尽くす芍薬】と前日に手に入れた【苦みばしった青石】を使って、試行錯誤する。
錬成は万能ではない。思い描いたものを自在に作り出すことは難しい。まず、あやふやな考えでは失敗する。用いる魔法陣はレシピと筋道だった理論によって形作られる。
【苦みばしった青石】の割れ方(劈開)が必ず真っすぐに伸びるという点が重要だ。
「その性質を用いることによって、薬が作用する方向を特定することができるのではないかと思うのよ」
「【立ち尽くす芍薬】は思いやりのある性質で、錬成すると使用者の意思をある程度反映する作用があるのね。試してみましょう」
そうして、なんどか失敗を繰り返し、ふたりはとうとう成功させた。
街の外へ出て、試用する。
もちろん、実際に使うのはジェイクである。
<バウワウの見張り番>は魔物に反応し、鳴き声を上げる。
「バウバウ、ワウワウ!」
鳴き声のアラームは魔物の方へは飛ばず、使用者にのみ届く。
「やったわ!」
「成功したわね!」
ミオとメイは手を取り合ってその場で飛び跳ねた。
「なうん」
「いやはや、大したものだ」
ジェイクが冒険者ギルドの受付で<バウワウの見張り番>の改良を成功させたことを話したところ、ギルドでも取り扱いたいと話があり、工房にも噂を聞きつけた冒険者たちがちらほらやって来た。
そうして、ミオとメイの錬金術師工房では鳴き声シリーズを取り扱うと認識が広まって行ったからか、ある日、バートが駆け込んできた。




