18-1.<バウワウの見張り番>の変化
錬金術素材一覧のような手引書の中に記載されていることだけならば、回復剤は作ることができる。けれど、素材のことを熟知していたら、その特性を利用した別の使い方もできる。
物事の本質をとらえるということだ。応用がきくということでもある。
ミオとメイ姉妹は祖母に教わり、自然とそういうことを身に着けていた。だから、アレンジすることを可能にしたのだろう。
「おばあさまに学んできてよかった。欲を言えば、もっともっと教えてほしかったな」
ミオの声音はしんみりとしていた。
「これからふたりでじっくり探していこう。ふたりで見つけていこう」
メイが明るい声を出す。
「うん、そうだね」
「がんばろうね!」
ミオとメイはまずは身近な鳴き声シリーズから取り掛かろうと話し合った。
「<パオンの圧縮機>みたいな大きなものはうちじゃあ、置く場所自体がないからね」
「<パオンの圧縮機>かあ。確かにあれは面倒そうだったな」
「え、おじさん、あれを持っている人を知っているの?」
「ああ。職人も使うんだろうが、俺が知っているのは錬金術師だ。非力だからな」
<パオンの圧縮機>はこう説明されている。
<パオンの圧縮機>
すり鉢とすりこ木では扱えない素材を圧縮したり粉砕する際に用いる。
場所を取る上、重いので取り扱いが面倒……
難しく、すり鉢に無理やり突っ込む錬金術師が後を絶たない。
「あー、やっぱりそうなのね」
さもありなんという表情を浮かべるミオのかたわらで、ジェイクが「言い直すんなら、なんで書き換えないんだ? わざと? 重い上に邪魔でもっと改良しろっていう要求なのか?」などとぶつぶつ言っていた。
「分かった!」
メイがはい、と手を高々と上げる。
「なにが?」
ミオがきょとんとメイを見やる。
「おじさん、その錬金術師にすりこ木ですりつぶしてって言われたんでしょう?」
「当たり。<パオンの圧縮機>を使うのが面倒だからって手伝わされた」
翌日には筋肉痛になった、とジェイクが顔をしかめる。
ミオとメイはころころと笑う。
「しかも、たちが悪いのが、筋肉痛の薬をたっぷりぬって、さあ、今日も昨日の続きをやろうか、って言われたんだ」
「どれだけの量をすりつぶしたの!」
「こき使われたのね~」
ミオとメイは腹をかかえて笑い出す。
「わたしたちなんて、まだまだよね」
「ね」
そして、顔を見合わせて首をすくめて顔をくしゃくしゃにする。
「はいはい。おいしい料理を食べさせてもらっているんだ。雑用くらいならがんばるさ」
「なうん」
「じゃあ、おいしいものをいろいろ作ってみるね。チロちゃんの新しい好物を発見しましょう」
「なん!」
嬉し気にミオを見上げる。
「またサイダーも作るから、いっしょに飲もうね」
「にゃ!」
メイを見上げて尾を機嫌よさげに振る。
ミオとメイはさっそく、手持ちの鳴き声シリーズ、<バウワウの見張り番>を取り出した。
魔物が近づいて来ると知らせてくれる冒険者にとっては必需品とも言えるアイテムだ。
「わたしたちはチロちゃんがいるから、最近使わないのよね」
「<バウワウの見張り番>はレベルの低いものは気配を隠すことに長けた魔物には太刀打ちできないってなっているのよね」
だから、レベルの高いものを買いたいところであるが、消耗品にお金をかける余裕があればの話である。
「じゃあ、レベルが高いものを作る?」
「うーん、それじゃあ、普通だわ」
ミオの提案にメイは腕組みをしてうなる。
「別に普通で良いじゃない」
「でもさあ、わたしたちの強みは<コケコッコの時計>みたいに少し風変わりな点をプラスするところでしょう?」
「そうだけれど、毎回そうそううまくいくものかしら」
メイが身を乗り出すのに、ミオは思慮深そうに手を頬にあてて考える。
「まずはなにをどうするかを決めようよ」
錬金素材のなにとなにをいつどうすれば、なにができあがるのか。それらをひとつずつ確認してレシピに変化をつけ、独自性を出していく。
レシピによってはひとつでも手順が違えば成功しないものもあれば、少しくらい加える順番を変えたり煮込む時間を長くしても成功するものもある。
ふたりは試行錯誤するものの、目覚ましい効果は発揮しない。
「だめね」
「方向性が見えてこないわね」
まる一日かかりっきりだったが、成果はない。けれど、錬金術の研究とはそういうものだ。
夕食の席でふたりは気落ちすることなくあれこれ話しながら食事を楽しんだ。
「ねえ、おじさん、<バウワウの見張り番>は使ったことある?」
メイが切りだすのに、ミオはなにを問いたいのかすぐに察した。
「ああ、あるよ」
「じゃあ、使ってみてどんな風?」
「こうなったら良いなとか、こういうところが使い勝手が悪いとかある?」
メイの漠然とした言葉に、ミオは用意しておいた言葉を口にする。メンテナンスに方々を回った時、お客さんたちから聞きだした話によって新たな道筋が見えてきたことがある。それに、薬を処方するのだって、その人の症状に見合うものにするために、詳細にヒアリングする。
「そういうことか。そうだなあ。あれ、魔獣の存在を知らせてくれるのはありがたいが、鳴き声で相手に気づかれることがあるんだよな」
「え、それって、見張りの意味がないね」
メイが身もふたもないことを言う。
「そう。だから、使い方をよくよく考えなければならないんだ」
「相手の方に気づかれたら逃げるのも難しくなるしね」
「そうだ。せっかくアイテムを使ったっていうのに、不意打ちもできなくなるしな」
ミオとメイはさっと視線をかわした。
「そこらへんを改良すべきね」
「うん、その線でいこう」
サブタイトルに鳴き声シリーズの名称を出すと、
目次で並ぶんですよね。
・・・目次を見たとたんにブラウザバックされそうな予感がします。




