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その後、ジェイクは焼き菓子の足りない材料を買いにいくついでに、冒険者ギルドに寄った。茶話会兼健康問診会の了承と日取りの調整、ミオからあった質問事項を伝えた。
「まあ、茶話会! 楽しそうだわ! すばらしいアイデアね! さすがはミオちゃん、メイちゃん、センスがあるわ」
ケイトが手を叩いて喜び、他の女性職員も話を聞きつけて集まって来る。
なんと、ギルドマスターも呼んで、当日の打合せを始めてしまった。女性の集団がやる気を出したらとんでもない勢いで物事は進んでいく。
「体調や生活習慣のことを知らせるのね。みんな、早めに書いてジェイクに渡してちょうだい」
「前もって調べておいてくれるのね。ありがたいわあ」
「大けがやひどい痛みでもないと、なかなかお医者さまのところに行こうとは思わないのよね」
「これも、橋渡ししてくれたジェイクと職員に優しいギルドマスターのおかげね!」
誰かが言った言葉に、女性たちはさっと視線をかわしあった。
そして、すかさずケイトが号令をかける。
「女性職員を大切にしてくれるマスターがいるギルドで働けて、幸せです!」
ギルドの女性職員たちは場の空気を読む力に長けていた。だてに修羅場をくぐって来ていない。
「「「「ギルドマスター、ありがとうございます!」」」」
一斉に黄色い歓声とともに礼を述べられて、ギルドマスターはまんざらでもなさそうでにこやかだ。
「こりゃあ、噂の美人錬金術師姉妹への報酬ははずまないといけないな」
ギルドマスターの言葉ににんまりするケイトを、ジェイクは見逃さなかった。ミオとメイの工房が潤えば、食事も豪華になるかもしれない。ミオとメイはジェイクが冒険者稼業に出かける日には昼食の弁当を持たせてくれる。三食お世話になっている。となると、ジェイクも余禄に預かるのだ。ケイトを心の中で拝んだ。
ジェイクは女性たちが手早く体調や生活習慣、質問事項を書いた紙束を受け取り、買い物を済ませて工房に戻った。
工房ではミオとメイが飾り付けをするために忙しく動いていた。
「この鉱物を砕いて粉末にして水に溶かすの。この液体にほかの鉱物のかけらをいれるとね。ほら、」
水中にメイが鉱物のかけらを投入すると、粒が増え、鮮やかなブルーの岩石のようになる。さらにそこへカラフルな塊を入れると、それを種に芽が出て上にゆらゆらと高く伸びていく。
「おお、伸びた」
ジェイクが思わず声を上げる。ミオも感心する。
「植物の生長を短時間で見ているみたいね」
「鉱物でできた不思議な植物みたいでしょう?」
「そうね。色鮮やかでとても美しいわ」
「不思議なもんだなあ」
ミオとジェイクがしげしげとガラス瓶の中を見つめている間にも、メイはほかのガラス瓶の中に木の枝や木の実、小さな【パインぼっくり】などを入れ、別の粉末鉱物の水溶液をふりかけておく。
「そっちは?」
「こっちはちょっと時間がかかるかな」
「どんなのになるか、楽しみだね」
メイはほかにもその粉末鉱物の水溶液単体で平たいガラス瓶の底に塗ったり、他の鉱物の欠片にまんべんなく塗ったりした。
木の実や木の枝、【パインぼっくり】が入れられたガラス瓶はまるで真っ白な雪をかぶっている風になっていた。
「冬の採取をそのまま閉じ込めたみたいね」
「いや、すごいものだな」
ミオとジェイクが感心する。
平たいガラス瓶には白いシダ植物が前からここにいましたよ、という風情で繊細な模様を作り出している。
「本当に植物みたいだな」
「でも、こんな色のものは見たことないわ。緑か茶褐色をベースに白っぽくなっているのとは全く違うもの。本当に雪まみれみたいね」
最後は鉱物の欠片に水溶液をぬったものだ。
「きれい……」
ミオがため息交じりに感嘆する。
「鉱物まで雪まみれだな」
鉱物の欠片が中からふんわりと青味がかった色を発し、白いこまかな結晶を照らしているのは幻想的な雰囲気だった。
「ハーブティとお茶うけに野菜のタルトを出そうと思うの」
「身体に良くておいしいもんね!」
ミオが言うと、メイが賛成する。
「女性は野菜好きだからなあ」
「あら、違うわよ。身体に良いから食べるのよ。たくさん食べても太らないしね。だったら、おいしく食べたいでしょう?」
あごをなでるジェイクに、ミオが笑う。
「なるほど」
おかしいと思っていたのだ。甘いものが好きだという女性が菓子よりも野菜を食べるのをよく見かけるのはそういう理屈かと合点がいく。
「野菜のタルトはニンジンとかボチャとミニトマトを使う?」
「そうね。それに、ズッキーニとパプリカとカブと……あとはセロリかしら」
「そんなに使うのか」
「おもてなしだもの!」
「そして、【ヘビも好むフェンネル】と【こんこんのタイム】ね」
「ヘビ?!」
「ヘビも食べるほどの効果があるという意味よ。変な味がするわけではないわ」
胃腸の働きを助ける作用がある。
「【こんこんのタイム】はその名前の通り、咳に良いんだよね」
「そうよ。のどや胃を調整してくれるの。どちらも効能だけじゃなく、香りも良いのよ」
「つまり、身体に良いものがたくさんつまったタルトというわけか」
素材の種類が多く、招待客が多いともなれば、したごしらえに時間がかかる。
「おじさん、野菜を刻むの、上手くなったね」
「ああ、もともと、ナイフの扱いに慣れているからな」
ミオは生地を作り、冷暗所でしばらく寝かせる。その間にあれこれ忙しく動き回る。
生地を伸ばしてタルトの型に生地を敷き、ジェイクが刻んだ野菜を生地に並べる。卵と生クリーム、おろしたチーズを加えてタイムの葉や塩などで味付けしたソースを注ぐ。
「しあげに【ヘビも好むフェンネル】のシードね」
種をぱらぱらと散らし、一時間ほどオーブンで焼く。
そうして出来上がった野菜のタルトは焼き色素朴なものの、ミニトマトの丸い赤色が鮮やかに点在して華を添えていた。




