17-1. 茶話会兼問診会
一から魔道具を作るのが得意でないなら、カスタマイズを売りにしよう。
<コケコッコの時計>のカスタマイズの依頼が舞い込むようになったミオとメイはそう考えた。
「そのためには、ヒアリングが必要だと思うの」
「薬を処方するのといっしょね」
顧客のニーズを引き出すことこそが、満足度につながる。そうすれば、今のように口コミで依頼が増える。
「客が魔道具を持ち込まない場合は魔道具を購入して、それをカスタマイズすることも考えたらどうだ?」
「そうね……」
他から買うということに、やや抵抗がある様子だ。錬金術師として、一から作れないというのは不甲斐ないように思われるのだろう。
「まあ、そのことは追々考えていけば良いだろう。鳴き声シリーズに焦点をあてるのか?」
「ええ。新しく見つけたおばあさまのレシピ帳にもいくつかレシピがあったし」
「それに、なんとなく、カスタマイズしやすいというか、妙な付加価値がつきやすそうだものね」
「ああ、もともとが妙な感じの魔道具だからな」
ひと癖もふた癖もある物品が多く、なぜか、愛好者は一定数いる。
「魔道具はもともと高価だから、せっかくお金を出すのなら他とは違うものが欲しいと思うのよ」
「そこにさらに自分に合ったカスタマイズをするというわけね」
そんな風に話し合い、ミオとメイの錬金術師工房の方向性は徐々に決まって行った。
ある日の昼下がり、ケイトの紹介だという冒険者ギルドの職員が工房にやって来た。
「ケイトを通して入浴剤をもらったの。肌がすべすべになったわ」
そう話す女性は二十代半ばくらいの小柄な人だ。
「それで、他に、女性の悩みに関する相談も受け付けていると聞いたの」
「どんなことでしょうか」
「実はね、女性の日のことで、その、」
痛みがひどいという女性にあれこれ聞きだし、冷え性なのだと知る。
「でしたら、こちらを入浴剤として使ってみてください。これを布に包んで湯船に浮かして浸かるんです。あとは、こちらを煎じて三回に分けて飲んで下さい。用量は———」
ミオは書架から関連書物を引っ張り出して症状に該当する箇所を開いて処方を確認すると、てきぱきと説明し、薬草を渡した。
「ありがとう。さっそく、今日から使うわ」
「体調が変化したら使うのを止めて相談しに来てください」
客を見送った後、ミオは書物を本棚に直し、工房に戻った。
「お客さん、帰ったの?」
「うん。ケイトさんの紹介の女性だった。本を見なくても対処できたら良かったんだけれど」
「でも、ちゃんと症状に合う処方をしたんでしょう? 十分じゃない」
「そうね。いきなりおばあさまのようにはいかないわね」
「そうよ。おばあさまの域に達するにはそれなりの積み重ねが必要だもの」
錬金術師の全てが薬の処方に長けているのではない。薬作成が得意な者、魔道具作りに秀でた者、研究が好きな者、さまざまだ。ミオとメイとて、採取を得意とし、薬作成や魔道具作成の基本的な知識を持っていたが、つい最近まで錬成に関しては自信を持てずにいた。
メイからしてみれば、ミオはていねいに話を聞いて処方した。症状に悩む者からしたら、それだけで気持ちが軽くなると思う。
そして、そのことは的を射ていた。
数日後、ジェイクが夕食の席でふたりに話した。
「ミオとメイは前に冒険者ギルドの職員の相談に乗ったそうだな」
「姉さんよ。わたしは工房で作業をしていたわ」
メイの言葉にジェイクはそうかとうなずいた。
「今日、冒険者ギルドへ寄ったら、ケイトを始めとする女性職員が自分たちも話を聞いてほしいと言ってきてな」
「そうなの? 時間がある時に工房に来てくれたら、合う薬をだすわよ」
気軽に請け負うミオに、ジェイクは呆れたような鼻白むような表情を浮かべる。どうかしたのかとたずねると、こんなことを言う。
「女性というのはみんながみんな、なにかしらトラブルを抱えているものなのか?」
「そうだとも言えるし、そうではないとも言えるわね」
「と言うと?」
ミオの言葉に、ジェイクは意味深長に受け取った。
「女性の身体が特別繊細というわけではないけれど、やはり男女差はあるのよ。女性は特に、子供を体内に宿すからね。だからこそ、自分の身体の変化に敏感なのよ」
「なるほどな」
ジェイクが言うには、ミオに処方してもらった冒険者ギルドの女性が目覚ましい効果を得たことをギルド内で話したら、我も我もとなったそうだ。
「それで、いっそ、みんなで一斉に診てもらったら早いのじゃないかとなってな」
「え、わたしたちで良いの?」
「ああ。女性だというのがまず第一だ。そして、しっかりした専門知識があり、話しやすい。ここが結構引っかかるらしいんだ。年配の女性や老人となったら、きつい物言いをしたり、頭ごなしに言われたりするので嫌がられるらしい」
女だてらに医師や薬師、錬金術師といった職業を長らくしてくると、世間の荒波にもまれ、自分とその手法を守るために意固地になったり権高になるのだという。
「なるほど。お医者さまに言われたら、守るしかないものね」
どれほど口が悪くても、横柄な物言いでも、症状が悪化すると言われれば従うしかない。
「気になっていることを質問して、それに合った処方をしてくれたら、ずいぶん気分が楽になるんじゃない?」
メイは数日前、ギルドの職員がやって来た際にミオと会話したことを思い出す。
「まあ、そんなに大掛かりなものではない。希望者の相談に乗る、雑談がてら程度に思ってくれれば良い」
「後はそれぞれに応じた適切な処方をすれば良いのね?」
「そういうことだ」
もちろん、報酬は出ると言う。
女性とはいえ、冒険者ギルドでは重要な役割を担っている。
「彼女たちなくして冒険者ギルドは成り立たない」
ギルドマスターをしてそう言わしめる活躍をしているのだという。
「だから、いっそ、ギルドがもつから、相談に乗ってもらいたいとなった」
しかも、ミオとメイの意向を確かめた後、指名依頼として、冒険者ギルドへの貢献度にも加算されるという。
「もしかして、おじさんがまずはわたしたちに話をしてみて受ける気持ちがあったら、って交渉してくれたの?」
「まあな。ミオもメイも仕事の都合があるだろう。せっかく工房を再開したんだ。メンテナンスをしたりして、営業活動とカスタマーサポートをしっかりしているのに、急にねじこまれたら予定が狂うだろうからな」
ギルドマスターもケイトを始めとする女性職員もジェイクの提案を受け入れたのだという。
「逆に感心していたよ。手厚いサポートだって。ギルド職員も紹介しやすいってな」
そうなのだ。ジェイクの身元を保証してくれたケイトに礼がわりに渡した入浴剤を喜んでもらい、折に触れてミオとメイの工房を勧めてくれている。いわば、好意からの行為であるが、下手な仕事をしては彼女たちの顔に泥を塗ることになる。
優しい気持ちに仇を返すようなことはしたくはない。
「姉さん、やりましょうよ。これで冒険者ギルドとの伝手を持てることになるわ」
「そうね。そんなに本格的なものではなくて茶話会のようなものなら、わたしたちにもできそうね」
ジェイクが内情を話してくれたので、和やかな雰囲気で悩みを話し、解決したいのだと知ったメイとミオはそれぞれ乗り気になる。
「楽しい雰囲気になるものが良いわ。そうだ、ガラス瓶に綺麗な鉱物を入れて飾ろうかな。姉さんも植物を加えてみて」
部屋を不思議な雰囲気で、けれどおどろおどろしいものではなくきらきらと色とりどりのもので、心躍るような飾りつけにしようとメイが両手を叩いてはしゃく。
「良いわね。後はハーブティや身体によい焼き菓子なんかを用意しましょう」
目で楽しむ他、舌や鼻でも楽しめるようにしようとミオは提案する。
「ああ、そりゃあ、女性が好きそうだ。全女性職員が希望しそうだな」
「おじさん、普段から気になっていることや、体調、生活習慣なんかをメモにして先にもらっておくことはできないかしら?」
人数が多いなら、先に情報を得て調べておきたいとミオは言う。
「当日あたふたしてしまわないように。調べる時間にお待たせしてはいけないわ」
「賛成! わたしも石薬関係で身体によさそうな処方を探すわ」
ミオとメイは腕まくりをして、さっそくハーブティや焼き菓子、ディスプレイの準備に取り掛かる。
「おじさんも手伝ってね」
「もちろん、構わないけれど、おじさんにはなにかを飾ったりするセンスはないぞ」
「分かっているわよ! 収納しているガラス瓶を降ろしてほしいのよ。それで、それをきれいにみがいてね」
「ああ、そういうことなら俺にもやれそうだ」
「なうん?」
和気あいあいと話しているとチロがどうしたの、とばかりにやって来る。
「チロちゃんはディスプレイした部屋には入っちゃだめよ」
「もし入ったら、罰としてお風呂だからね!」
「なん!」
絶対に入らない!とばかりにチロが鳴く。入らないというのはこの場合、部屋と風呂、両方だろう。




