16-1. 濡れ衣泥棒ネコ
ちょっと間が空いてしまいました。
三章を開始します。
よろしくお願いいたします。
ミオとメイは新米錬金術師で、師である祖母を失ってすぐのころ、売り飛ばされようとしていた幻獣のチロを有り金をはたいて買い取った。そういった財政事情があったから、すぐにでも工房を再開したいと思っていたところに、ひょんなことからジェイクと知り合った。
「おじさんを拾った」
とは妹のメイの言葉であるが、あながち大きく間違っていない。
ミオとメイはそれぞれ十六歳と十四歳で、成人したばかりと、大人まであと一年半ある年若い姉妹である。しかも、近隣で美人姉妹錬金術師と噂されるほどである。声を掛けてくる者は多かったが、ジェイクはふたりに対して、保護者のような立ち居振る舞いをした。だから、ふたりは安心して同居生活を送っている。
「おじさんが一緒に住み始めて変わったことってある?」
メイの唐突な問いに、すこし面食らいながらミオが思案する。
「そうねえ、わたし、少し子供っぽくなった気がする」
ミオはメイと同じように背中に両手を回して組み、少し前かがみになってジェイクを見上げながら笑いかける。
「家の中が明るくなった気がする」
メイも同じようにはしゃいできゃっきゃと笑い声を上げる。
「しょぼくれたおじさんがひとり増えただけで?」
なにがおかしいのか、ミオもメイもよく笑う。三人暮らしのうちの大黒柱を欠いたら、それは消沈するだろう。自分がどう役に立ったかは分からないが、とにかく明るさをとりもどせたというのだから良いだろう、とジェイクは考える。
「おばあさまのレシピ帳に鳴き声シリーズのレシピも載ってあったわ」
ミオは大事そうにレシピ帳を取り出す。使い込まれており、端がすりきれ、めくり癖がついて反っていた。
「え、すごい! 錬金術便覧にも一部しか載っていないのに」
身を乗り出すメイの言葉に、ジェイクはああ、あの、と思い出す。
「錬金術便覧って妙に説明が詳細じゃないか?」
正確にいえば、なんでそういう説明なのだと記載者にたずねてみたい気にさせる。
「面白いじゃない」
メイの意見は明解そのものである。
「錬金術便覧は手引書みたいなものだから、一部しか載っていないのよ」
「鳴き声シリーズみたいな有名なアイテムならレシピは手に入りやすいけれど、お値段の方がね」
ミオの言葉に、メイは肩をすくめて見せる。
「おばあさまのレシピ帳には独自のメモやアイデアが付け加えられているから、とても勉強になるわ」
姉妹の祖母は、死してなお、師であり続けるのだ。
「わたしたち、一から魔道具を作るのは得意ではないから、助かるね」
「まずはこのレシピ帳のアイテムを作れるようにならなくてはね」
そんな風に話し合ったが、結論から言えば、ミオとメイはすぐには新たなレシピにチャレンジすることはできなかった。
立て続けに、<コケコッコの時計>の時計のカスタマイズ依頼が舞い込んだのだ。
「こちらが、以前、<コケコッコの時計>の時計のカスタマイズをしたと聞いてね」
「それでいらしたんですね」
「ありがとうございます!」
ジェイクは冒険者稼業を、チロは日課の散歩に出かけ、工房で店の呼び鈴が鳴ったのを聞いて対応したミオとメイが口々に言う。
やって来たのは中年の痩せた物静かな男性だ。
ミオとメイはカスタマイズするに当たり、ヒアリングを行う。男はうるさい音を嫌う、という。
<コケコッコの時計>に関する錬金術便覧の説明は以下の通りだ。
<コケコッコの時計>
所定のボタンを押さないと、「コケコッコッコ」というアラームが徐々に激しくなり、
最終的には「コッケェェェェッコッコッコォォォオオオ!!」
という命を取られるんじゃないか、という勢いになる。注意が必要だ。
つまりは、徐々にうるさい音に変化していくのだ。
「ということは、鳴き声を大きく変化させていくことなく、一定の音量で、ということですね?」
「ああ、そうしてほしい。やはり、目ざめはニワトリの鳴き声に限るからね」
メイは小首を傾げた。そういうものだろうか。人それぞれのこだわりというものがあるのだろう。
ミオとメイは客が持ち込んだ<コケコッコの時計>を預かり、祖母のレシピ帳を繰った。
「あ、あるよ!」
「ここのメモ、使えそうね」
「その素材、あったかな」
メイはすぐさま、貯蔵庫に向かう。
そうして祖母のレシピ帳を参考にし、ふたりでああでもないこうでもないと話し合って錬成手順を決め、取り掛かる。
そして、無事に納品することができた。
受け取りにやって来た客はカスタマイズされた<コケコッコの時計>をその場で試用した。
「コッココ、コココ。コケコッココ? コケ、コケココ」
「起きなよ、朝じゃないけどさ。この時間に起きるんだろう? ほら、起きな」
静かに諭されるように起こす。
「いかがでしょうか?」
ミオとメイは固唾を飲んで客の様子を見守る。
「ふむ。趣深い。いや、実に良いね。この調子なら、心臓発作を起こしそうな音を聞かなくても済む」
真面目な人間が真顔で言う冗談に、ミオとメイは面食らう。
ともあれ、ミオとメイが提示した価格に少し色を付けた代金を置いて行ったのだから、満足したのだろうと安堵する。




