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メイは他にも素材をあれこれ取り出しながら説明する。ジェイクに話すことで、手順を確認している。
「【ぎらつく太陽の石】は太陽の力が凝縮されていると言われているの。だから、その力で、毒素を消し去る」
「それで解毒剤の素材になるのか」
「そう。そして、今は天日干しの役割をしてくれるの」
【ぼっくりのパイン】の葉の新芽を流水でていねいに洗いながら、メイはジェイクに指示を出す。
「おじさん、鍋に水を入れて火にかけて。沸騰したら砂糖を入れて溶けたら冷ましてね」
砂糖水の中に【ぼっくりのパイン】の葉の新芽を入れる。
「本当はガラス瓶の中に入れて日当たりの良い場所に置いておくの」
メイは【ぎらつく太陽の石】を乳鉢に入れて砕こうとした。
「俺がやろう」
ジェイクが乳棒を手にする。
「ありがとう。粉末になるまで、すってね」
メイは乳鉢を手で支えた。ジェイクは力強く乳棒を扱い、メイは慌てて体重をかけて乳鉢を押さえる。
【ぎらつく太陽の石】の粉末で薄紙の上に魔法陣を描く。
その上に鍋を置き、メイは柄杓で鍋を手順に沿ってかき混ぜる。
錬成の光がぽうと灯る。
ふと、今ここで隣にミオがいないことが不思議に思えた。いつもメイはミオと共に錬成を行った。
「できた……」
メイは初めて、ひとりで錬金術を行い、成功させたのだった。
見届けていたジェイクは、初めての単独の錬金術が姉のためにしたことというのが、彼女たちらしい仕儀だと思った。
「錬金術は時間短縮もできるのか。便利だな。そう言えば、【生命の月の石】は?」
「月は生命に強く関与する力を持っているといわれているの。回復力を大幅に促進させるのよ」
「それで回復剤の素材になるってことか」
「レシピにはないけれど、どの錬金術師も素材のことをよく知っていろんなことに用いるのよ。おばあさまはそういうのが得意だった」
「そんなお師匠さんに学んだから、ふたりはアレンジが得意なのかもしれないな」
「そうかな。そうだといいな」
ジェイクは見上げてくるメイは頬を紅潮させ、つい今しがた錬成したいっぱしの錬金術師とは打って変わってあどけなさを見せる。思わずその頭を撫でた。メイはくすぐったそうに首をすくめた。
メイはさっそくコップにサイダーを注ぎ、ミオの部屋に持って行った。
「わあ! 【ぼっくりのパイン】の葉のサイダー!」
起きていたミオが呼んでいた本を脇に置く。それが錬金術便覧であることにジェイクは目ざとく気づく。実に研究熱心な姉妹である。
「いつの間に天日干ししていたの?」
「ううん。さっき【ぎらつく太陽の石】で時間短縮の錬金術を使ったのよ」
「へえ! メイ、おめでとう。ひとりで錬成ができるようになったのね」
「うん! 成功したよ」
メイの嬉しそうな表情にミオもさらににこやかになる。
「なうん?」
チロがひょいとミオのベッドの上に飛び乗って、コップの中身に興味を示す。
「チロちゃんも飲みたいの?」
「あげてもいいのかな?」
「幻獣だし、大丈夫よ」
メイが初めてひとりで錬成して作ったサイダーは甘く喉を刺激した。
「にゃにゃっ」
浅い器に入れたサイダーに舌を入れたチロが驚きの鳴き声を上げる。
「チロちゃん、大丈夫?」
「にゃ!」
やや不安げなミオとメイに、チロは器から顔も上げずに答え、夢中で飲む。尾がぴんと立っている。
「なんだか、しゃっきりしている?」
すっかり皿を空にしたチロはきりっと引き締まった顔つきで姉妹を見上げる。そして、ゆっくりと翼を広げた。
「え、あれ? 飛んでいる?」
チロの四肢が床から少し浮いている。翼が羽ばたく音が軽やかにする。
「チロちゃんが飛んだ!」
「すごい!」
「すごーい!」
メイがその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。今にも両手でミオの両手を掴んで踊りだしそうだが、病み上がりの姉にさすがに自重した様子だ。
チロは十センチほどの高さを数メートル飛びまわっただけだが、初めての飛行だ。
「これから少しずつ高く長く飛べるかもしれないね」
「人前ではやらない方が良いな。力のある幻獣だと分かれば、危険視されたり、権力者に欲しがられるかもしれないからな」
ジェイクの言葉にミオとメイは真剣な顔つきを見あわせて深くうなずき合う。そして、同時にチロを見やる。
「チロちゃん、わたしたちの秘密にしておこうね!」
「なん!」
チロはメイの言葉にしっかりとうなずいた。チロもまたミオとメイとついでにジェイクとの生活を楽しんでおり、他の者と暮らすことは考えられないのかもしれない。
四人でサイダーを楽しみ、チロのことやミオとメイの祖母の思い出話に花を咲かせた。
その夜、虫の報せか、ジェイクはふと眼が覚めた。水でも飲もうと思って厨房の方へ行くと、食堂から光が漏れている。
そこにはメイひとりが座っていた。
ジェイクはなにも言わずに隣に座った。
メイは真っ赤になった目でジェイクを見上げる。その拍子に涙の粒がころりと眦から落ちる。
「姉さんが死んじゃったらどうしよう。わたし、ひとりになっちゃう」
悲痛な言葉にジェイクははっと息を呑んだ。
ふたりきりの家族ということはそういうことだ。
メイはミオが微熱と倦怠で寝込んだことで、そのことを思い知らされたのだろう。
昼間は気丈に振る舞っていたのは、やるべきことがあったから考えずに済んだ。でも、夜になって寝床であれこれ考えていると不安でたまらなくなったのだ。
「俺もチロもいるさ。それに、ミオがメイを残してひとりでいっちまうわけないだろう? あの責任感の強いミオだぞ? ミオはいつだってメイのお姉さんだからな」
「うん、うん」
メイはうなずきながら鼻をすすった。
「だから、メイもいつだってミオのために、自分を大切にしなくちゃいけない。ミオだってメイがいなくなったら、ひとりぼっちになるんだからな」
「うん。そうだね。気を付けるよ」
メイは顔をくしゃくしゃにしながらも、そう言った。
そうやって時と場合に合わせた格好をするように言ったのと同じように、ジェイクはいつだって必要な時に必要な言葉をくれる。そして、メイやミオの言葉に耳を傾け、気持ちに寄り添おうとしてくれる。それがとても嬉しかった。とても、心強かった。




