7. 工房を再開するために
冒険者ギルドで回復剤と解毒剤を販売して、ひとまずはひっ迫する財政難問題が片付いたミオとメイは翌朝、買い物や朝食を済ませて話し合った。
「第一に、工房を再開したいわ」
ミオの言葉にメイはうなずく。
食後の片付けをしてふたたびテーブルにつくよう促されたジェイクは黙って見守る。チロは椅子の上に置かれたバスケットの中で満腹をかかえてうつらうつらしている。
「となると、するべきことはふたつね」
工房に商品を陳列することと定番アイテムを定期的に魔道具店に納品することが目標だ。
「おばあさまが存命の時には契約していたけれど、わたしたちにはまだ実績がないからどことも契約していないの」
メイが唇の両端を下げる。
「ゆくゆくはどこかの店と契約を締結したいわ。その時、レベルの高い商品を納品して認めてもらえれば、突発的なレア物も取引きすることが期待できるのよ」
ミオの発言にジェイクが首を傾げる。
「定番アイテムって魔道ランプとか魔道冷蔵保管庫とかそんなのだろう?」
やや高めだが頑張ってお金をためて手に入れる生活便利アイテムである。
「そうよ」
「レア物って言ったら、出回ってないようなものだろう? そっちの方が定番アイテムよりも価値があるんじゃないのか?」
「希少価値というのならそうだけれど、ようは需要があるかどうかなの。必要とする人がいなければどんなにすごい性能があっても売れないわ」
どれほどすごい発明でも、高価であれば金銭を出し渋る。逆に、欲しいと思えばどれほど金額が高くても出す。
「消費者心理ね」
「ニーズを掴まなければだめなのよ」
「なるほど。定番アイテムはすでに売れることは分かっているということだな」
「そういうことよ」
ミオがうなずく。
「そこにブランド力とか営業力とかアピール力とかが関係してくるの」
メイが付け加える。
「ブランド力はネームバリュー、信頼ね」
この製作者が作ったものならば、という信用があるということだ。高価なものを手に入れたのに、ちゃんと作動しなければ落胆を通り越して怒りを覚えるだろう。
「営業力とアピール力は同じようなもので、どれだけすごい性能かを見せつけるの」
工房に陳列しているだけでは、このアピール力に乏しい。他の魔道具店にも納品したいところだ。
「特に必要としているところではみんな欲しがるわ。ほら、坑道のある山ではヘビが出るから、ヘビの解毒剤が売れるのと同じことね」
「なるほど」
いろいろ考えているんだな、とジェイクは心底感心する。
すらすらと話すミオとメイはそこでトーンダウンした。
「定番アイテムでさえ、レベルの違いによって効果のほどが変わってくるの」
「中には妙な効果を発揮するものも出てくるの」
「ああ、鳴き声シリーズとかってちょっと変わっているもんなあ」
<ブヒブヒのかばん>や<ブンブンの杖>を思い出してジェイクは同意する。
「そのためにも、錬成の練度を上げなければ!」
メイが両手を握りしめる。
「やっぱり、<コッコの時計>をなんとかしたいわね」
ミオは頬に指を当てる。
<コッコの時計>は時間を測るアイテムだ。先だっての錬金術でも、ミオとメイは時間の加減で意見がふたつに別れた。そして、祖母の代から使っているものがある。
「<ヒョロロの報せ>はどうする?」
メイが小首を傾げる。
<ヒョロロの報せ>設定温度に達すると「ピーッ」と教えるアイテムだ。
「……今のわたしたちにはまだ錬成するのは難しいわ」
ミオは悔しさに唇をかむ。
錬成を不得手としているのに、魔道具を一から生み出すのは難易度が高い。
完成品である魔道具にも改良を加えることができる。ただし、そうすることによってどんな作用が起きるかは不明だ。
「壊れてしまう可能性もあるということね」
「本来の性能よりも劣ってしまうことがあるかもしれないしね」
「本来の性能が劣化することによって、改良点がうまく生きてこない場合もあるのよ」
つまり、性能を落とすことだけで終わってしまうことが多いのだ。
「だから、あまり改良することは好まれないわ」
「錬金術師も魔道具師も一から自分で作ることを好む傾向が強いし」
一から作るといっても、得手不得手がある。
木工が得意な魔道具師であっても、革や布の取り扱いは不得手の者はざらにいる。そんな場合、販売されているものを購入して、そこへ魔法を施す。
「一から自分で作る」というのはそういうことだ。
すでに完成品となっているものに更に手を加えるのは、各所のバランスを調整したりなど、その製品自体を作るレシピを把握し、全てを見通せるくらいでなければならない。それができるのなら、一から自分で作った方が早いと思うのだという。
レシピの手法は様々だ。
だから、錬金術師とはいえ、工作が得意であったり、魔道回路の仕組みを理解できた方が良い。
需要と供給によって金額は変動する。どれだけ入手困難な素材を使ったものでも、ほしがるものがいなければ高値では売れない。逆にいえば、身近な素材で作っても、欲しがるものが多ければ、高額になる。
「でも、アレンジするのが好きな人もいるわよね」
「ね。<コケコッコの時計>の鳴き声の音量を調節できないかという議論が起きたわよね」
「論文まで書かれたのよ」
ちょっとしたブームが巻き起こった。研究者とはさまざまな着眼点を持ち、あれこれ研究するものなのだ。
「わたしたちも読んだわ」
「試してみたのか?」
「そう。成功したの!」
「ね!」
ミオとメイが満面の笑みを浮かべる。
「錬金素材のなにとなにをいつどうすれば、なにができあがるのか。そういうのをひとつずつ確認してレシピに変化をつけ、独自性を出していくの」
「あら、姉さん、今のってちょっと料理に似ていない?」
「本当ね。おじさんの言うとおりだったわね」
レシピによってはひとつでも手順が違えば成功しないものもあれば、少しくらい加える順番を変えたり煮込む時間を長くしても成功するものもある。
「実はね、<コケコッコの時計>と<コッコの時計>の必要素材は同じ物が多いの」
<コケコッコの時計>の論文を読み、実験に成功したのだから、ミオは<コッコの時計>もうまく応用することができるのではないかと考えていた。
そして、その考えは的を射ていた。
ミオとメイは<コッコの時計>の改良に成功した。
「やったわ!」
「コッコッコッコッコッコ……」
「成功したわね!」
「コッコッコッコッコッコ……」
ミオとメイは向かい合わせで両手を握り合い、錬成に使う台や器具の周囲を器用にぬって躍り出した。跳ねるふたりのミニスカートの裾がひるがえる。
「コッコッコッコッコッコ……」
「いや、ふたりとも、嬉しいのは分かるが、いい加減、その時計を止めてくれ」
「やったやった!」
「わーい!」
「コッコッコッコッコッコ……」
「おーい、ミオさん、メイさん? 聞いてますか?」
わざと答えずにいたら、ジェイクが妙な敬語を使い出したので、おかしくて声を上げて笑い出した。メイもつられる。
「コッコッコッコッコッコ……」
「なうん」
チロが戸口で顔だけ出して呆れた顔をした。




