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出会ったばかりのころ、メイが冒険者ギルドの受付にジェイクの人となりを確かめると言った時、しっかりしているんだなと感心した。そして、ジェイクが大人しくついて行ったのは、彼もまた冒険者ギルドの受付に、彼女たちの言い分が正当なものかを確かめるつもりだったからだ。
冒険者ギルドの受付とはジェイクの方が付き合いが長い。どちらの便宜を図るかと言えば、ジェイクの方だろう。冒険者ギルドにもそこそこに貢献してきた。冒険者ギルドの受付はもめごとの仲裁を行ったりそれなりの修羅場を経験している。しかも、姉妹にとってもジェイクにとっても運が良いことに、その時いた受付の女性は聡明で善良であった。
だから、情況を把握しジェイクにも勧めてきたのだ。評判が良い工房の姉妹だから大丈夫だと。端的に言うとミオとメイがジェイクをだましたりおとしいれようとすることはないだろう、という判断を下したのだ。
その感謝と錬金術師姉妹にしても良い経験となるだろうと思い、ジェイクは冒険者ギルドに薬を納品に行く際、ミオとメイに頼みごとをした。
「入浴剤として肌がすべすべになる【がまん強いカラタチ】をギルドの受付の女性に分けてやってくれないか? 彼女がミオとメイに勧めてくれたおかげでうまい飯と暖かい宿にありつけたからな」
ちゃんとジェイクはふたりに効能があるようだから、という風に言った。
肌すべすべになった、ミオの知識が役に立ったと聞いて、ふたりはくすぐったそうに笑いながら了承した。
「わたしたちも、お世話になったものね」
ふたりは手早く【がまん強いカラタチ】を処方して入浴剤にし、大きな葉を複数使って紐で結わえた小包を作った。
回復剤と解毒剤は冒険者ギルドへ持って行った分だけ買い取ってもらうことができた。
「こんなにたくさん! 助かるわ。またお願いするわね」
「はい」
「ありがとうございます」
料金を受け取りながら、ミオとメイは頬を紅潮させた。
先日、ジェイクの身元を保証してくれた女性は他の冒険者の対応をしていたので、ギルドに貼り出されている採取依頼の紙を眺めながら待つ。
「ジェイク、ここ最近見ないと思ったが、遠征していたのか?」
待つ間に、ジェイクに冒険者ギルドに出入りする冒険者たちから声がかかる。
「いや、ちょっと護衛をしていてな」
「お、もしかして、そっちの子たちは噂の美人錬金姉妹か?」
「そうだよ」
「うまいことやりやがって!」
「いたいた、ジェイク! お前、美少女ふたりを追っかけているって聞いたけれど、本当か?!」
「え、俺は美少女ふたりに取り争われているって聞いたぞ」
ミオとメイは冒険者の中でも知られているようだ。自分たちのことを目の前で噂されて姉妹は目を白黒させる。
「ああ、ケイトが空いたな。じゃあ、またな」
目当ての受付の前から冒険者がいなくなったのを幸いとして、ジェイクはミオとメイを促してそそくさとそちらへ向かう。
「おじさん、人気者なの?」
「色んな人から声を掛けられていたね」
「いや、単に冒険者稼業が長いだけだ」
後はしょぼくれたおじさんと美少女ふたりというのが格好の噂の的になったのだろうとジェイクは予想を付けた。
「ケイト」
ジェイクがカウンターに近づく。そこでようやくミオとメイは彼女の名前を知った。
「あら、ジェイク。それと小さな錬金術師さんたちね。薬を持って来てくれたの?」
「そうだ。その買取りは今、済ませた」
そんな風に言いつつも自分の方に寄って来るのに、ケイトは不思議そうな表情を浮かべる。
「他にもなにか用事が?」
「ああ」
ジェイクは身体の向きを変えてミオとメイに場所を譲る。ミオとメイは少しばかり緊張気味にカウンターに近寄った。
「あの、わたしたち、ミオとメイと言います」
こういう時に口火を切るのはミオだ。メイはミオが言いにくいことをすぱーんと言ってしまう時がある。
「ごていねいどうも。わたしはケイトよ。よろしくね」
「こちらこそ。あの、先日は色々教えてくれてありがとうございます」
ミオが頭を下げると、メイも同じようにする。
「あら、礼儀正しい良い子たちね」
うちの生意気な姪っ子とは大違いだわ、とケイトがため息まじりにつぶやく。
「それと、これ、よかったら使ってください」
言いながら、ミオは<ブヒブヒのかばん>から葉で作った小包を取り出す。ピンク色の小さな花を紐にちょこんとつけてある。
ケイトも頬をゆるめて覗き込む。
「あら、なにかしら?」
「入浴剤です。薬の素材採取の時に材料を見つけたんです」
「入浴剤として肌がすべすべになるんですよ。わたしたちも使っています」
【がまん強いカラタチ】を処方して入浴剤にしたものだと話すとケイトはぱっと顔を輝かせる。
「あらあ、ありがとう! 嬉しいわ!」
弾んだ声で、包みも花も可愛いと褒める。
心遣いを喜ばれ、ミオとメイは顔を見あわせて安堵したように笑う。
姉妹に力強い味方が増えるかもしれないと思い、ケイトに礼をするといいとアドバイスしたジェイクとしても良い結果になって胸をなでおろす。冒険者ギルドの受付は男女ともにいるが、女性だからといってあなどる者はいる。そういった者は手痛いしっぺ返しを食らう。
ケイトは素材料や技術料として貨幣を出そうとしたが、ジェイクがなにか言う前にミオもメイも押しとどめた。
「また良い情報があったら教えてください」
「もちろん! まかせておいて」
メイが手を振るとケイトも応えて振ったので、ミオもつられて腕を上げた。
ギルドにいた冒険者たちはその様子をなごやかな表情で見守っていた。いかつい戦士らがおだやかな顔つきになっているのに、ジェイクは苦笑する。
帰る道すがら、ジェイクは金を受け取らなかったこと、受付の能力や労力を評価したことを褒めた。
「ああやって人脈を作っていくんだよ。ミオとメイは自然とできていたな」
「本当?」
「そうなんだ?」
ミオとメイは顔を見合わせて首をすくめてくすぐったそうに笑う。
褒められて嬉しそうにする姉妹に、ジェイクの口元も緩む。素直で可愛い。こうやって少しずつ、人とのつながりを得て、世界を広げていってほしいと願う。




