39-4.
三年前、友人夫妻が亡くなった。組んでいたパーティは空中分解した。
ジェイクは失意の中、友人たちの思い出が色濃く残るハントを離れた。そして、王都へ行き、ソロ冒険者として活動した。
王都での討伐依頼は中々手ごわいものが多い。だから、採取の護衛をした。そこでよく考えるべきだったのだ。Bランク寄りのCランク冒険者の腕を要求されるのだから、相応に難しい依頼だ。まさか、Sランク所持者からの依頼だとは思いもよらなかった。
にもかかわらず、なぜか、王都にてSランクを擁することで双璧をなす錬金術師組合と魔術師組合からランクアップ試験を受けるように要請された。その圧力が冒険者ギルドに及ぶのを見て、潮時だと思った。王都を離れようと。
そんな時、友人夫婦の遺児であるビルがジェイクを訪ねてきた。遠く離れたハントから単身やってきたという事実にほだされた。
思えば、突き放すべきだった。けれど、ジェイクはビルの性質を知らないまま、冒険者稼業について教えた。同時に、王都を離れた。
最初はまだ良かった。けれど、徐々に力をつけていくにつれ、ジェイクを侮る様子を見せ始めた。
そして、ランクアップを遂げた後、ジェイクをパーティから放逐した。もともと、ゆくゆくは抜けようと思い、ビルの力量と年齢に合わせたメンバーを集めてはいたのだが、追い出されたという事実はジェイクを打ちのめした。それなりに、弟子への愛情を抱いていたのだ。
しばらくしてから、ミオとメイに出会い、サルトスやニコラス、ギルバートと再会した。ギルバートとは通信機で話しただけではあるが、和解できた。
心のつかえがとれた。
そうして、ジェイクは彼らが望むランクアップ試験に挑戦することにした。
ビルを育てるのに、パーティの中でひとり高ランクでいるのは難があった。その後はいろいろあって受けそこねた。
万年Cランクなどと揶揄されるが、錬金術師組合や魔術師組合から圧力をかけられる冒険者ギルドのためにも、受かるために励もうと思う。
「まあ、受かるかどうかは分からんが、とにかく、受ければ気が済むだろう」
ニコラスなど、受かれば次のAランクへの試験をと言い出しかねない。
そんなにジェイクを高ランクにし、どんな採取(討伐)の護衛をさせようというのか。戦々恐々である。知りたくもない。
さて、Bランク冒険者へのランクアップ試験はこうである。
「一定期間の間、一定以上の依頼を成功させる。また、難解な仕事を成功させる」
「この、一定期間の間、一定以上の依頼の成功はクリアしているわね」
リージュの有能な冒険者ギルドの職員、ケイトの言である。
一時、チロの食欲に付き合って、あれこれ狩っていた。ミオとメイがおいしく料理してくれると思えば、ジェイクも喜んで手伝った。おかげで懐も潤うし、良いことづくめだった。チロの活躍ぶりから、報酬は折半していた。魔獣に先んじて気づくことができるのは、それだけアドバンテージとなる。
チロはそうして貯金をして、市場へ行ったときはそこから好きなものを買ってもらっていた。ジェイクの冒険者稼業に付き合いたがるのも納得である。
「それで、難解な仕事なんだけれどね」
バートかスタンリーに依頼を出そうとしていたものがあるのだという。
「詳細を聞かせてくれ」
「それが、山の方で【一直線のイノシシ】を複数見たという報告が入っているの」
「【一直線のイノシシ】が群れを作ったのか?!」
しかも、場所はメイたちと採取に行ったことがある鉱山だという。人が恒常的にやって来る場所に【一直線のイノシシ】の群れがあるというのは問題だ。
一頭ならば、Cランクの冒険者で対応できるが、群れともなると別だ。Bランクか、数によってはAランク寄りになる。
冒険者ギルドとしても人が訪れる場所であるから、早期で解決したい意向を持つ。
そこで、ジェイクはその依頼を受けた。同時に、ランクアップ試験の課題ともなる。錬金術師のランクアップ試験の課題とは異なり、実情に対処するものであり、依頼という形をとる。解決すれば報酬が出る。
準備を整えたジェイクに、当然のようにチロがついてきた。
なお、ランクアップ試験は自分よりも上のランクの者の手を借りてはならないなどという規制はあるが、チロのような相棒と協力したり魔道具を使用しても問題はない。テイマーのようなものだ。また、強い魔道具を持っているおかげだとしても、それを使いこなせるかどうかが問題なのである。むろん、その魔道具やテイムモンスターをなくせば力をも失うが、同等のものを手に入れれば同じ働きぶりをするのだから、という考え方だ。
「今回はちょっとばかり厄介だぞ」
「にゃうん!」
王都から帰ってきたばかりではあるが、チロはやる気に満ちていた。いや、王都の市場で食べたイノシシ肉のチャーシューがうまかったからこそ、同じイノシシ型の魔獣を狩って食べようと思ったのだ。もちろん、チロは料理はできない。でも、きっとミオやメイならおいしく食べさせてくれる。今までの経験則からそうだとばかり思い込んでいた。
そうとは知らないジェイクはやる気に満ちていたアルルーンの影響をチロも受けているのかな、などとのんきなことを考えた。




