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温かい食事

与えられた部屋は最高聖女の時に使っていた時よりも狭かったが、荷物が少なく寝ることさえできればよいと考えれば問題なかった。

「使用人という立場なら、これくらいが妥当なのでしょうね」

リリスは治療ができる存在として受け入れてもらったが、まだ疑われているためなのか、使用人と同じ立場で公爵城にいられることになった。

聖女として受け入れてもらえていれば客間に通されてもよかったような気がするが、公爵家で雇ってもらった身なので使用人扱いなのかもしれない。

そんなことを考えていても仕方がないので、着替えを済ませて部屋を出た。

制服がなく、リリスが持ってきている数少ない普段着で廊下を歩いていると、メイド服を着た女性とすれ違う。

一瞬驚いた顔をされるが、すぐに目をそらされて歩いて行ってしまう。あまりリリスに関わりたくないような態度だ。

昨日のうちに執事長から各使用人にリリスのことは伝えられているし、少ないが顔合わせもした。不審者として扱われていないだけましなのかもしれないが、聖女として雇われたと説明を受けると、誰もが顔を見合わせて複雑な顔をしていた。リリス自身というより聖女に対して何か思うところがありそうな雰囲気だった。執事長にそれとなく聞いてみても、何も答えてはくれなかったことが気になっているリリスだ。

「とりあえず朝食よね」

使用人専用の食堂は昨日説明されていたので迷うことなく行くことができた。

食堂に顔を出したリリスは、数人がいるだけの食堂に少し驚いた。公爵城にはたくさんの使用人がいるはずだが、わずかな人数だけしかいない。みんな朝食を取らないのかと思ったが、もしかするともっと早くに済ませてしまっているのかもしれない。

リリスが食堂に入ると、食事をしていた使用人たちが一斉に視線を向けてきた。まだ挨拶をしていない者たちばかりのようで、リリスを不審に思ったのかもしれない。ここで挨拶をしておいた方がいいのではないかと考えていると、一斉にリリスに向けていた使用人たちの視線はすぐに食事へと向けられて、リリスのことなど誰も気にしていない様子になった。

なんとなく拍子抜けしてしまう。

「新人さん」

とりあえず興味を示されなくなったことで、リリスは朝食をもらうことにした。すると、すぐ近くで食事をしていた女性が軽く手を振ってリリスに話しかけてきた。

「食事はそこのカウンターでもらえるわよ」

食堂に入って右側にカウンターがあり、その奥では忙しく料理人たちが動いているのが見えた。リリスがカウンターに近づくと、声をかけるよりも早く盆に載った食事がカウンターにそっと置かれた。

流れるような作業に、いつも誰か来ても同じように食事が配膳できる訓練でもしているかのようだった。

食事を置いた若い男性は、すぐに厨房の奥へと行ってしまいリリスを振り返ることはなかった。相手のことなど気にしていないのかもしれない。

とりあえず、食事はもらえたので空いている席に座って朝食をとることにした。

食堂を見渡すと人がまばらで空いている席はたくさんあったのだが、リリスはできるだけ端の席に座ろうと思った。なんとなく少ない人数でもリリスが食堂に入ってきてから視線を感じていたからだ。

知らない顔が入ってきたことで不思議に思っている人もいるだろうが、挨拶を済ませた使用人からすれば、新しく入った聖女に興味があるのかもしれない。昨日執事長に案内されながら聞いた説明では、オリエント公爵城には聖女はいない。みなし聖女もいないらしく、専属の医者がいるだけだった。怪我人が多いと思っていたリリスからすると意外だった。

普段は医者が対応することにしているそうだが、魔物討伐があるときは臨時でみなし聖女を雇うという。神殿に聖女の派遣を依頼しないことが不思議だったが、執事長は聖女の話をするとき、なぜか表情を曇らせていた。聖女の話を質問してはいけないような気がして、リリスは黙って説明を聞くだけにしていた。

「あの・・・」

最高聖女時代はいつも冷めた料理を口にしていたので、温かい料理を食べることに密かに感動していると、茶色の髪をおさげにした女の子が声をかけてきた。リリスより少し年下に見える。

「新しく入った聖女様ですよね」

メイドの服を着ていることから、昨日挨拶をしたときにいたのかもしれない。

「はい。みなし聖女ですが、リリン=サフィアといいます。様付けは必要ありません」

リリスはもう最高聖女ではない。神殿の所属でもないので目上に扱われる立場でもなくなった。

新人なので、どちらかと言えば下っ端になる。

「あたしはティテル=キリーといいます。ここでメイドをしています。と言っても、この春に入ったばかりの新人で、数か月だけ先輩なだけです。ほぼ同期ですよ」

笑顔が愛くるしい。リリスよりも幼いせいか人懐っこく見えて誰でも心を許してしまいそうだ。これが計算されてやっていたら彼女はなかなかの曲者になるだろう。ただ、雰囲気からしてただリリスに興味を持って話しかけただけのようだった。

「リリンさんは」

「リリンでいいわ。敬語も必要ないから」

リリンも砕けた言い方に変えた。

「リリンは帝都から来たのよね。あたし、生まれも育ちも北部なの。やっぱり違うのかしら」

ティテルは好奇心のままに話しかけてきただけのようだった。ただ、リリスは帝都の孤児院出身で、聖力があることがわかるとそのまま神殿で生活をしていた。一般的な帝都の生活を知らないと言ってもいい。

「神殿で生活していたから、一般的な帝都の生活を知らないのよ」

期待していた答えを持っていないことは申し訳なかった。

「でも、北部との違いとかあるでしょう」

そう言われても、リリスは昨日来たばかりで北部との違いなどわからないと言っていい。

そのことを正直に話すと、明らかにがっかりした顔をするティテルだ。感情が顔に出やすいのかもしれない。

「これからここで暮らしていくから、帝都との違いが分かってくると思うわ」

そうなれば話せることもできるだろう。そう提案しても彼女の顔は明るくならなかった。好奇心のままに今知りたかったのだろう。がっかりしたまま離れていく。その後ろ姿に申し訳なさを感じたが、リリスは一人になったことで食事を続けることにした。

他に話しかけてくる人間はいなく、誰もがリリスを気にして視線を向けてくるのだが、それだけだった。

なんだか場違いな雰囲気があり、ここで生活していくのに大丈夫だろうかと心の中で思いながらも温かい食事を口に運び続けるリリスだった。


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