最高聖女の矜持
淡いピンク色の膜が街全体に広がっていく感覚がリリスの中にあった。街に配置したクリスタルがリリスの力を通して繋がっていく。街全体を包み込む薄い結界が成功したことを感じ取ったリリスだったが、まだ気を抜くわけにはいかない。
小さなクリスタルを繋ぐことで全体に結界を施すことができたが、この方法は神殿に保管されている文献で読んだだけで、実際に結界を施したことなどなかった。それに、帝都のように1つのクリスタルで張られているのと違い、複数のクリスタルは安定させるのにコントロールするための技術が必要だとも書いてあった。
確かに今リリスが少しでも意識を別の方向へ向けてしまうと結界が揺らいでしまいそうな気配も感じていた。
自立させるにはまだリリスの聖力と時間が必要だ。
まだ自分の中に聖力は残っている。このまま続けていくしかない。そう思った瞬間、結界に衝撃が広がった。
「ふっ・・・」
自分の息を飲む音が響いた。だが、そこでバランスを崩してしまうと結界が壊れてしまう。息をゆっくりと吐きだして意識を集中させると結界が安定した。
魔物の攻撃を受けたのだとすぐにわかった。
「まだまだ、これからよ」
そう自分に言い聞かせて、リリスはクリスタルに聖力を注ぎ込んだ。
目の前のクリスタルが淡い光を強くする。それが他のクリスタルに伝わって力が繋がっていく。
元最高聖女としての矜持がリリスを奮い立たせていく。
「リリン=サフィア嬢」
後ろにいるエジェスが名前を呼んだが、それが耳に入ることはなかった。偽名ということで気付かなかったということもあるが、意識はクリスタルに向いている。他の人の声など聴いている暇がなかったのだ。
エジェスの近くにはダミアンもいるはずだが、彼には結界を施していると無防備になってしまうため周囲の警戒を頼んでいた。彼は静かにリリスの様子を窺いながらも周囲への警戒を緩めていないはずだ。
そう信じてリリスは目の前のことだけに集中している。
結界が安定するまでどれくらいの時間がかかるのかわからない。攻撃を受けてしまうとそのたびに揺らいでしまうだろう。結界を壊されないように安定させながらリリスはとにかく聖力を注ぐことに集中していくだけだった。




