聖女の結界
次々に飛んでくるコウモリを火球で撃ち落としていくが、数が多く2人の魔法士がとにかく魔法を途切れさせることなく放っていた。
街の中に侵入されてしまえば、戦えない街の人々が何の抵抗もできずに餌食にされてしまうことは明らかだった。
そのため2人も必死だった。
「そっち行ったわよ」
別方向に飛んで行ったコウモリに気が付いてセナが叫ぶと、それに反応するようにケイが火球を飛ばす。コウモリに見事に命中して塵になって消えていく。
「きりがないな」
さすがに数で押されていることを心配したケイの言葉が聞こえてきた。そんなことはセナも気が付いている。だが、ここでやめるわけにはいかない。
「何が何でも守るのよ」
自分たちが生まれ育った場所だ。魔法の才能を見出され力を磨いてきた。こんなところで値を上げるわけにはいかない。他にも魔法士はいるが、みな街の中で待機していた。侵入してきた魔物を討伐してもらうためであり、街の人たちを守るために先頭に出てくることはない。
「少し派手にいきましょう」
セナがそう言うと、ケイはこれから何をするのか理解している。
セナの前に移動すると襲ってくるコウモリを引き受けてくれた。その隙にセナは意識を手のひらに集中させて魔力を練り上げていく。
セナが得意とする火魔法で周囲に多くの火球を生み出していった。
「一気に行くよ」
その掛け声を合図にケイが避けると、周囲にあった火球が一気にコウモリに向かって放たれた。逃げようとする魔物もいたがそれを阻むほどの火球が襲い掛かっていき、コウモリがどんどん塵と化していった。
このまますべての魔物を消滅させる勢いで魔法を放って行ったセナだったが、数匹のコウモリが火球をかいくぐって街に向かって飛んで行った姿が見えた。それをケイが撃ち落とそうとするが、反応が遅れたようで1匹だけ仕留めるだけで、他のコウモリが空から街へと侵入しようとした。
絶対に街に入れないつもりで魔法を放ったセナにとって屈辱的な光景となった。
「ちくしょう」
普段は出てくることのない悪態をつきながら追いかけようとしたが、コウモリは続々と押し寄せてくる。そちらを抑え込もうとすると、街へのコウモリを追いかけることができない。
どうするべきか一瞬の迷いの間にコウモリたちが次々と襲い掛かってくる。ケイが対応してくれるが、数が多いためすべてを捌くことができない。残りをセナが対応すると、街に飛んで行ったコウモリが背後で侵入に成功していることを考えると悔しさがこみ上げてくる。
そんなことを思いながら隙を見て振り返ったセナだったが、街へと入り込もうとしたコウモリが突然なにかに阻まれたように弾かれると、その姿が塵に変わった。
「えっ?」
何が起きたのか一瞬わからなかったセナに対して、同じ光景を目にしたケイは一瞬驚いたものの冷静に判断したようで口を開いた。
「結界だ」
落ち着いて声で短く言うと、セナも驚きから覚めるため大きく息を吐きだした。
「魔法士が作る障壁じゃなくて、聖女が作る結界ね」
魔法士も魔物阻める障壁を作ることが可能だ。だが聖女が作る結界と違い、敵を阻む壁を作るのが魔法士の障壁だ。聖女の結界は魔物に有効で、触れると聖力の影響を受けて弱い魔物なら塵と化してしまう。強い魔物でも弾かれて結界の中に入るのは難しいだろう。それに結界自体が聖力のようなもののため、魔物は近づくことを嫌う傾向にあった。
突然の出現に、触れたコウモリは塵と化したが、他のコウモリが上空を旋回し始めて街に突撃することを諦めたようだった。
下を確認すれば騎士たちが戦っている魔物たちの動きも鈍くなっているような気がする。
「一気に畳みかけるわよ」
これを好機と判断したセナが宣言すると、すぐ横に戻ってきたケイが小さく笑った。
「街の心配をしなくていいなら、思い切りいきましょう」
「そうだな。後で結界を施した聖女の確認もさせてもらおう」
2人の魔法士は何も心配することなく空を見上げた。セナたちよりも高く飛んでいるコウモリたちは結界が気になるようで、魔法士たちから結界へと意識を向けているところだ。
2人の魔法士が不敵な笑みを浮かべていることを、この時の魔物たちは知ることがなかった。




