魔物討伐
「1匹たちとも街へ侵入させるな」
ロベルトの声に周りにいた騎士たちから力強い声が返ってくる。
夜の襲撃ということで街を囲う壁には松明が焚かれ、魔法士たちが生み出した光がさらに照らしてくれていた。だが光の届かない場所は薄暗く何かがうごめいているのがわかるくらいだ。
光に照らされて全貌がはっきりする時とは違い、魔物はすぐそこまで来ていると思わなければいけないだろう。
ざわざわとした音がして、ロベルトが視線を向けると、巨大な蛇の姿をした魔物がすぐ近くまで迫ってきていた。騎士たちが反応して剣を抜く。振り上げられる剣に魔物は怯えることはなくそのまま突き進んできた。そして、騎士たちの前で大きく頭を上げて伸びあがると、その図体で押しつぶすように地面に倒れこんでくる。それを避けながら剣を走らせるが、皮膚が硬いようで小さな傷をつけるだけだった。
「通常の剣では無理だな」
ロベルトはすぐに剣を握る柄に飾られている魔法石に触れた。すると剣全体に冷気が漂い始めたかと思うと、氷の剣に変貌する。
他の騎士たちもそれぞれの魔法剣に切り替えていく。
魔物が再び伸びあがって倒れてこようとしたが、それよりも先にロベルトは蛇の頭の前に走り込み、頭を切り落とした。頭と胴体が重力に負けて地面に叩きつけられる。その切り口は凍り付いていた。それと同時に蛇が黒い塵となって消えていった。
「視界が悪い。どこから来るかわからない以上、気を引き締めろ」
ロベルトの声に騎士たちの雰囲気が変わった。
全員が周囲への気配を探りいつ攻撃を受けても対応できるように身構える。こちらから深追いすれば夜闇に呑まれて魔物の攻撃をまともに受けてしまう。夜の襲撃は待つことが必要だった。
ズズズッと何かを引きずるような音が聞こえてくる。再び蛇の魔物が現れたかと思うと、その数は先ほどよりもはるかに多かった。
そして、今度は頭が2つの蛇まで現れる。その後ろには二足歩行の腕の長い毛むくじゃらの魔物までいた。
「これは、骨が折れそうだな」
そんなことを口にしながらもロベルトは地を蹴った。
蛇が嚙みついてくるのを避けながらその頭を切り落としていく。尾で叩きつけようとするのを後方に跳んで距離を離すと、一呼吸に懐に飛び込んで胴体に剣を突き立てた。
氷の剣が突き刺さると切られた場所が凍り付く。
悲鳴も上げることなく倒れて消えていく魔物を確認することなく、次の魔物へと走る。
他の騎士たちも次々に魔物を倒していく。その光景に油断さえしなければ倒しきれるだろうと思えた。
だが、ロベルトの考えは一瞬にして覆されることになった。
毛むくじゃらの魔物を倒すと上空に気配を感じたのだ。
ハッとして夜空を見上げると、星空が輝く中に数体の影が見えた。
「上にもいたか」
空を飛んでいるため小さく見えるが、近くで見れば人よりも大きいだろうコウモリが街に向かって真っすぐに飛んでいた。
引き返すべきかと考えたロベルトが一瞬のためらいを逃さないように別の魔物が襲い掛かってくる。それをぎりぎりで避けて剣で切り伏せる。それと同時に上空で大きな爆発音が聞こえた。
見上げればコウモリの一体が炎に包まれて落下してきていた。その途中で塵となり霧散してしまう。
「上はお任せください」
視線を向けると、コウモリよりも低い位置ではあるが宙に浮いている2人の魔法士がいた。
金髪の長髪を後ろで括って青い瞳が静かに空を見上げている青年と、頬のあたりで赤髪を切りそろえている青い瞳でにこりと笑う少女がいた。
顔立ちがよく似ていて、性別は違うが双子だとすぐにわかる。
「ケイ、セナ」
性格は反対の2人だ。冷静な青年ケイが静かに頷くと、セナはひらひらと手を振って笑顔を向けてきた。
「街には入れさせないよ。行くよ、ケイ」
「・・・あぁ」
2人の魔法士がまだ残っているコウモリへと勢いよく上昇していく。
空は2人に任せるしかない。ロベルトはすぐにまだ進行を止めることのない魔物たちへと視線を向けた。
「街に近づけさせるな」
その叫びに呼応するように騎士たちの声が響く。
魔物を一掃するためロベルトも地を蹴った。剣を治めることが出来るのは、これから空が白んでくるころだということをこの時の誰も知る由がなかった。




